新幹線のたこ飯と富士山 ―恋人と向かう大阪はじまりの旅―
朝の新宿は、人であふれていた。
改札前の柱のそばで、私はスマホの画面を見ながら待っていた。
約束の時間まで、あと一分。
そのとき、改札の向こうから彼が手を振ってきた。
「おはよう」
「おはよ!」
今日、私たちは大阪へ行く。
東京駅から東海道新幹線に乗って、新大阪まで。小さな旅行だ。
「じゃ、行こっか」
彼と並んで歩き出す。京王線の新宿駅から、JR新宿駅へ向かう通路は、朝の通勤客でいっぱいだった。
駅構内を歩いていると、私は思わず言った。
「JR新宿駅って広いね!」
彼が笑う。
「広いよね」
人の流れに乗りながら中央線のホームへ向かう。
オレンジ色の電車が滑り込んできた。
ドアが開く。
私たちは並んで座った。
電車が動き出す。
見慣れた東京の景色が窓の外に流れていく。
なんだか落ち着く景色だ。
でも、私はふと思った。
(もう、この景色にも慣れたな)
電車は次々と駅を通り過ぎる。
四ツ谷。
御茶ノ水。
神田。
そして、東京。
東京駅はいつ見ても大きい。
赤レンガの駅舎の近くを歩きながら、新幹線の改札へ向かう。
「急がないと」
彼が少し足を速めた。
そのとき、私は大事なことを思い出した。
「駅弁買おー!!!」
思わず大きな声が出た。
彼が振り返って笑う。
「やっぱりそれか」
改札の近くには、駅弁のお店が並んでいた。
いろいろな弁当が並んでいて、見ているだけでも楽しい。
私はすぐに決めた。
「あたし、たこ飯がいいな!」
「じゃあ俺もそれにする」
彼も同じ弁当を手に取った。
レジに持っていくと、若い店員のお兄さんがにこっと笑った。
「今日のたこ飯には、ぷりっぷりの卵が入ったイイダコが入ってますよ」
「ほんとですか!」
私は思わずうれしくなった。
弁当を受け取り、新幹線のホームへ向かう。
白い車体の新幹線が静かに停まっていた。
私たちは指定された車両に乗り込み、席に座った。
しばらくして、発車ベルが鳴る。
新幹線は静かに動き出した。
東京駅のホームが遠ざかる。
窓の外には、たくさんの電車が見えた。
山手線、京浜東北線、いろいろな車両が並んでいる。
品川駅を過ぎるころ、私は弁当を膝に置いた。
「そろそろ食べよっか」
包み紙を眺める。
説明が書いてあった。
「みてみて、明石のタコとイイダコが入ってるんだって」
彼が身を乗り出す。
「楽しみ!」
ふたを開ける。
ふわっと、いい香りが広がった。
茶色く炊き込まれたご飯の上に、タコが並んでいる。
見るからにおいしそうだった。
一口食べる。
「おいしい!」
明石のタコは、噛むほどに味が出る。
ご飯にも、タコのだしがしっかり染みていた。
ゆっくり食べながら、私はふと窓の外を見た。
景色はいつの間にか海沿いになっていた。
遠くに駅の看板が見える。
「熱海…?」
次の瞬間だった。
その向こうに、大きな山が見えた。
「見てみて、富士山だよ!素敵ね!」
私は思わず身を乗り出した。
真っ白な雪をかぶった富士山が、青い空の中に立っている。
あまりにもきれいで、すぐスマホを取り出した。
カシャ。
写真を撮る。
そのまま、私は弁当をもう一度見る。
小さなイイダコが入っていた。
「これ食べてみよ」
口に入れる。
ぷりっとした食感。
中には粒のような卵が詰まっている。
私は笑った。
「富士山を見ながら食べるイイダコはおいしさ100倍ね!!!」
彼も笑う。
「高かったけど買った価値があったね」
「うん!!」
窓の外には、まだ富士山が見えていた。
私はふと思った。
「なんだか新幹線の楽しみを最初に取り過ぎちゃったけど、大阪まで何する?」
彼は少し考えて言った。
「将来に向けていろいろ話ししよっか」
私はうなずいた。
それから私たちは、小さな声でいろいろな話をした。
仕事のこと。
住む場所のこと。
これからのこと。
新幹線は速く、でも静かに走り続ける。
気がつくと、車内アナウンスが流れた。
「まもなく、新大阪です」
窓の外には、大阪の街が広がっていた。
新幹線が止まる。
私たちは席を立った。
ホームに降りると、少し暖かい空気が流れていた。
「大阪だね」
「うん」
改札を抜けて、地下へ向かう。
大阪メトロ御堂筋線の新大阪駅。
ここから、私たちの大阪の旅が始まる。
私はふと笑って言った。
「次は大阪のたこ焼きだね!」
彼も笑った。
「じゃあ最初の目的地、決まりだな」
私たちは並んで電車に乗り込んだ。
大阪の旅は、まだ始まったばかりだった。




