ラグの書
古代の王ラグはある日、ふと自分が死ぬのが恐ろしくなった。
彼は偉大な王だった。
強く、賢く、美しい。
臣からも、民からも愛された。
そんな彼が死を明確に恐れ始めたのは三十の半ばだ。
「何故、老いて死なねばならないのか」
国中の賢者を集めて問うが、賢者たちは月並みなことしか言えなかった。
「それが定めです」
「それが救いです」
「そうして未来へ繋がれていくのです」
ラグは表面上は微笑んで受け入れた。
しかし、内心では恐ろしくて仕方なかった。
故に探し求めたのだ。
どうすれば死なずに済むのか。
まずは死なない者を探した。
敵兵を幾人も捕らえて死の寸前までに追い詰め、どのように死んでいくかを観察した。
それを逐一記録し続けた。
傷の深さも、痛みも、反応も、全て。
ラグはその中で死なぬ者が出ることを期待したが当然ながら死なぬ者など一人として現れなかった。
「何故、慈悲の無い殺しをするのですか」
配下に問われたラグはいつの間にか誤魔化すことをやめていた。
「どのようにすれば死なないようになるか知りたいのだ」
乱心。
誰もが見て悟った。
故に臣下の中にラグを恐れるあまり彼を殺そうとした者も居た。
ラグは強く、賢いのであっさりそれを見抜いた。
そして大罪を犯した反逆者を用いてラグはまた実験をした。
むしろありがたい事だった。
何せ、敵はもうラグを恐れて服従をしてしまっていたから。
しかし、どれだけ繰り返してもラグは遂に死なぬ方法を見つけることは出来なかった。
どれだけの命を奪おうともラグは不死に至ることはなかった。
彼は晩年に最も信頼する臣下へ告げた。
「ろくな事に使われぬだろうから私の残した記録は全て破棄してほしい」
反論の余地などない。
ラグは最後まで不死に至る方法は見つけられなかったが、皮肉なことに死の半歩前の状態やその際の反応や症例については誰よりも詳しくなっていたのだ。
「きっと、あの記録は拷問に使われるだろう。恐ろしいことだ」
ラグの言うことは尤もだ。
何せ、最も信頼する配下に裏切られたラグは自身の残した記録を存分に使われて長く苦しんで死んだのだから。
*
現代。
ラグの事を語る歴史はどこにもない。
しかし、ラグが残した残酷な記録は『応用』という形で医学の発展に役立っている。




