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9. すれ違い


草原に立つ1本の大木。

吹き抜ける風。鈍角から射す光。


「敢えて色と対象を削ぎ落としたか」


モノクロの紙片を眺め、写真部・顧問は満足そうに頷いた。


「いいね。特にこの画面に映らないものへの執着。枠外への想像力が掻き立てられる」


「次の会誌はこれでいこう」笑顔でルシニウスの肩を叩き、教授は部屋を後にした。


「――怠ぃわ。お前、それズルだろ」

教授が去った途端、ルシニウスの周りで複数の声が上がった。

失望、嫉妬、軽蔑……一部賞賛の声はあるものの、ネガティブな反応は遠慮も配慮も知らない様子だ。


「忖度だな。最強ババアへの」

「そりゃ国最強のお気に入りじゃなあ。先生も配慮するよ」

「お前、"若いツバメ"って噂は本当か?」

数人の男子学生が、冷やかし笑いを浮かべ絡んでくる。

取り合わずに帰り支度をするルシニウスを、男の一人が突き飛ばした。


「おい、黙ってないで何とか言えよ」

拍子にルシニウスの鞄が落ちて、中身が床に散らばった。

拾おうとするルシニウスは、教科書を踏みつける足を見上げ、ようやく口を開いた。


「そうだよ。俺は最強ババアの"お気に入り"さ。

俺が虐められたって知ったらお前ら――どうなると思う?」

静かに、けれどその平凡な顔立ちに、恐ろしく静かな笑みを浮かべ、ルシニウスは言い返した。


「な、卑怯だぞっ」

「ちょっとからかっただけだ」

慌てて踵を返す学生たち。


(暇な奴らだな)

その様子にルシニウスは鼻白んだ。


「ババアの"お気に入り"、か」

ぽつりと呟く。

そうだったら良いのに、と思ってしまう自分はまだ、そうなれる資格がないのかもしれない。


(だから今は、ババアの威光を借りてでも、目標を達成するんさ!)


すべては、"彼女"の側に居るために――


◇ ◇ ◇ ◇

使い魔の解析は、着実にシティを強くした。

先代たちの記録を辿り、彼女たちが磨いた術の真髄を知る。


特に、4代目の強化術は、"魔力でぶん殴る"シティと相性が良かった。


体長5mの黒蛇が、雷速で空を飛び回る。

紫電が迸り、駆け抜けた先で崖崩れが発生した。


「暴れるんじゃないよ。近所迷惑だ」

近くの山村を守る為、黒蛇に対峙する最強ババア。

声を上げた彼女に、敵は真っ直ぐ突っ込んできた。


最強ババアが迎え撃つべく放った一撃は――


「"強化"」

その一言で指先から放たれた青光が、何倍にも膨れ上がる。

爽やかな青が、海を煮詰めたように色を増す。

避ける間もなく飲み込まれた黒蛇は、瞬く間に濃い青に溶けて消えてしまった。



「見たかい? 今のは映えただろう」

会心の出来に、自然と口元が綻んだ。


けれども振り返る先に――青年はいない。


(ああそうだった。

今頃きっと、貴族のお嬢さまの撮影ね……)



** ** **

先日の夏ごもり前の妖精訪問。

ルシニウス青年は、写真撮影で同行した。


妖精たちや、場所が特定できる全体像の撮影は禁じられたものの。

豊穣の魔術の残渣に輝く宝樹、その幻想的な写真を撮れることに青年は大喜び。


翌日さっそく現像した写真をシティに見せてくれた。


――妖精たちの気配漂う玉鈴蘭。

――木漏れ日に透ける葉脈と、魔力に震える小さな枝々。


ティーカップ片手に眺める写真は、どれも力強い美しさが溢れていた。


「よく撮れてるじゃないか」

珍しく素直に感心を伝えたシティは、はたと手を止めた。


いくつもある写真の中に、若い女性の写真が一枚。

リボン付きのボンネットを被った、水色のワンピース姿の少女だった。

金髪のおさげを片方の肩に流し、桃色のふっくらした頬、ぱっちりした目と長いまつ毛。

随分と可愛らしい女の子だ。


「……なんだい、これは」

「うわ、それは違うんさ」

慌てて写真を取り返した青年に、シティのひんやりした視線が突き刺さる。


「それは仕事の! お貴族さまからの依頼で――」

なんでも、貴族子女のポートレートの依頼が来ているそうだ。


「いい加減ババアには飽きたと。

そりゃああんたも若いお嬢さんがよいに決まってるさね」

すっかりお茶の気分ではなくなった。

ポイと小屋の外に放り出されたルシニウスは、何かを叫んでいたが――


** ** **

自分も大人げない。


(彼が何を撮ろうと自由じゃない)


ざわつきを訴える自分の胸に不快感を覚え、振り払うように大魔術を行使した。


やっぱり術は、派手にでっかく。

私はひとりでも平気なんだ。



◇ ◇ ◇ ◇

4代目「私のミスだ。隣国の攻撃に耐えるよう、あの子達を強化した。それがまさか、凶暴性に――彼らは私の、最強ババアの管理下から外れてしまった」



お読みいただきありがとうございます。


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