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第1話 ラミルとモーレア

 私はラミル。両親の代から続く旅商人ペドラーの家系だ。

 ラミル・デミトル男爵令嬢。

 父親は男爵位を継承していて、一応は貴族らしい。

 世にも珍しい放浪貴族だ。


「ねえ、ラミルさん。暇ですね?」

「まあね」

「いつもこうなんですか?」

「うん。一人になってからいつもこんな感じ。ただ馬車を走らせて次の町へ」


 ヒヒーン。

 黒馬の『バルカン』が馬車という単語に反応したのか、鼻を鳴らす。

 なんだか後ろから見ても得意そうなところが面白い。


「そっか。私、邪魔じゃないですか?」

「ううん、全然。大歓迎」


 御者席の隣に座るのはピンク髪、青目の女性、モーレア。

 自称、駆け出し冒険者だという。

 一つ前の辺境の村で拾ったのだけど、行きの馬車を降りてから次の馬車がこなくて、困っていたところだった。


 ちなみに私は金髪、緑目だ。

 持ち歩いている物品の中には鏡もいくつかある。

 手鏡が十個くらい。姿見が三個。テーブルに置く普通サイズのが五個。


 普通の商人のほとんどは同じ商品を同じルートで移動して販売する。

 例えば決まった農村で麦を仕入れて王都で売る。それを二週間ごと繰り返したりするのだ。

 当たり前だけど、同じ村での取引が続けば信用が上がってその分商売がしやすい。


 ところが私の両親は違った。

 世界中を旅して道行く先々で色々なものを仕入れて、いろいろな物を売って歩く。

 西の辺境の物を東の辺境で高値で売る。そういう博打。

 共にするのは一匹の馬と馬車のみ。それから魔法袋マジックバッグが五つ。


 魔法袋は高い。祖先から受け継いだという伝説レジェンド級の魔法袋が五つもある。

 それが私の強みだった。

 リュック一つ分の魔法袋でも金貨十枚ほど。

 馬車一台分は入るレジェンド級の魔法袋は金額にしたら金貨千枚くらいだろうか。

 正確には高すぎて王都のメインオークションに出品されるような品物だった。

 所持しているのは秘密なんだ。

 だいたいは、これより下位のちょっとお高い魔法袋をたくさん持ってるという嘘を吐く。


 馬車はダミーに積んでいる麦袋以外はほとんど空で、今のところ積んでいるものと言えば、予備の車輪くらいか。

 車輪は重要だ。立往生は避けたい。


「少し休憩にする?」

「はーい、ラミルさんスキ」

「はいはい。じゃあ麦粥でいい?」

「もちろんでっす」


 馬車を次のスポットで停車させる。


 街道にはスポットと呼ばれる休憩スペース兼、退避スペースが適当な間隔で設置されている。

 設置というと変かもしれない。

 自然発生的にできたものだ。

 特にこの辺境では道が馬車一台分しかなく、すれ違いができない。

 このスポットを利用してそこで避けるしかないのだ。

 過去に何回もすれ違うために道を少し広げて整備した場所が今でいうスポットというわけ。


「ここのスポットは充実してるね」

「いいですねぇ」


 二台続きの土のカマドが設置されていた。

 過去に誰かが即席で作ったものだろう。

 壊すのも忍びないのでみんなそのままありがたく使って、こうして私たちに引き継がれた。

 すぐ近くには沢も流れてて、ここで飲料水を確保できた。


 バルカンを馬車から外して、沢際に向かわせる。


 ごくごくごく。


 お水を一所懸命に飲むバルカンを二人で眺める。


「ふふ、すごい勢いです」

「いっぱい走ったもんね、えらいね、バルカン」


 ブルルル。


 バルカンがまた鼻を鳴らす。

 わかっているんだか、わかっていないんだか、相変わらず自慢げだ。

 この黒馬はかなりプライドが高い。

 制御するのは難しいのだけど、誇り高い黒馬ちゃんは魔物にもそうそう怯まないので、助かっている。

 ゴブリンなどが出てきても、無視して走って行ってしまうほどだ。


 ●ゴブリン。

 小鬼。小型の人型の魔物だ。

 頭髪のない頭に、人間からしたら醜いとされる顔をしている。

 緑色の体色が多いが、地方によっては灰色をしている。

 小さな腰蓑以外には防具をつけている様子はない。

 手には木の棍棒程度を装備する。

 あまり頭は賢くないが、ネコよりは賢いのだろう。

 ゴブリンの皮は簡単な財布や靴などの革製品に使われることがある。

 比較的皮は柔らかい。

 肉を食べることはない。カニバリズムは御法度だ。


 私は脳内の辞典からゴブリンを引いた。

 世界中を旅してきた。

 いろいろな動物、魔物にも遭遇してきたし、話もたくさん聞いた。

 それらの知識をまとめて今度、大人になったら本にしたいと常々思っている。

 各地の冒険者ギルドなどに置いて、教育の助けをしたい。


 私はラミル。旅商人ペドラー。そして自称、魔物研究家。

 新しくモーレアちゃんを迎え、旅を続けるよ。

 魔物カモーン。辞典を充実させるんば。


 ここへ来るまで、毎日、毎日、馬車を走らせてきた。

 パカパカパカと馬蹄の音がして、ガタガタと馬車の音も聞こえる。

 長閑な田舎の街道をひたすら進んでいく。

 この世界は広い。街道は蜘蛛の巣のように、あちこちへと、どこまでもどこまでも続いているように思える。

 そういう生活だ。


 今はスポットでお昼にするため、止まっている。

 つかの間の休憩をしたら、また馬車を走らせるのだ。

 広い世界の果てを目指して。放浪旅をしている。

 そうしたら、いつか、何か、見えてくるものがあるかもしれないから。



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