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【BL】巳山のお姫様は何を願う。  作者: ありま氷炎
火烙(からく)の街
6/11

2-3

「阿緒様。多津様とご一緒がよかったですか?」

「あ、うん」


 多津と別れてから浮かない顔をしている阿緒に、寒凪は尋ねる。

 二手に分かれることも、その分配をしたのも多津だ。

 寒凪的には嬉しい誤算であったが、阿緒の気持ちを考えると寂しいのだろうと予想する。

 彼は阿緒のことを誰よりも想ってる。

 しかし阿緒の気持ちは異なる。

 分かり切っていることだが、寒凪はやはり寂しい。けれども表情には絶対にださない。


「寒凪は、私と一緒じゃ嫌だった?」

「阿、緒様。何を言っているのですか?私は常に阿緒様と一緒にいるのが好きなのです」


 阿緒の疑問が想定外で、寒凪は自分らしからぬ回答をしてしまい、顔をひきつらせた。


「嬉しい。寒凪にそう思ってもらって」

「阿緒様?」

「ずっと寒凪はさあ、私の傍にいて家に閉じ込められていたから。本当は外に出たいんだろうなあと思っていた。本当は私と一緒にいたくないのかなって」

「そんなことはありません。阿緒様と一緒ならたとえ火の中、水の中」

「寒凪でもそんな冗談言うんだ」

「冗談ではありません!」

「うん。ありがとう」


 阿緒は笑いながらも少し表情は暗い。


「どうかされたのですか?」

「うん。あの、なんでもない。さあ、由愛ゆめを探そう」

「そうですね。日が暮れる前に探し出してしまいたいですね」

「うん」


 阿緒が言いたくないなら無理やり聞き出すことはない。

 寒凪はそう決めて、猫を探すことに集中することにした。


ーー


「あ、多津!」


町並みを眺めながら、猫を探していると声をかけられた。

 振り返ると、そこにいたのは愛人の一人、椿だった。


「え?お前、なんでここに?」

「遊びにきたの!多津はどうしたの?まさか赤の呪術師?」


 軽快な笑い声を立てながら椿は多津に近づく。


「……まあ、そういうところだ」

「ふうん。あ、ね。多津。しよう?」

「は?」

「多津もたまってるでしょう?ね?」


 自分から声をかけることはあっても、こうして椿に誘われるのは初めてで、多津は戸惑う。

 旅に出てからそういう欲に掻き立てられることがなくなっていたのだ。

 阿緒が傍にいるにも関わらずだ。


「ほら、行こう」


 腕を掴まれ、胸を寄せられ、それまでなかった欲が掻き立てられる。

 多津は椿の腰に手を回し、彼女に案内されるがまま宿に入った。


 ーー


「白い猫、赤い目ですよね?」

「うん。成城はそう言っていた。大きさまで聞けばよかったね」

「それはそうですね。けれども赤い目の猫は珍しいから、きっと見つけ出せるでしょう」

 

 街中で何度か猫を見かけた。

 黒猫、三毛、茶寅。

 まだ白猫は目撃していない。三日間見つかっていないということは、多少汚れているかもしれない。


「阿緒様!」

「うん」


 二人の目の前を白猫が横切った。

 寒凪が追い、阿緒が付いてくる。二人の距離が空きそうになり、寒凪は阿緒に手を差し出す。


「阿緒様。手を繋がないとはぐれてしまうかもしれません」

「う、ん。そうだね。寒凪ごめんね」

「謝る必要はありません」


 阿緒が寒凪の手を掴む。

 冷たくて、小さな手。

 寒凪は包むこむように彼の手を握って、歩く速度を早める。

 猫はすばしっこくて、その内寒凪は阿緒を抱き上げ、走り出していた。


「寒、凪!」

「断りなくすみ、ません。けれども見失ってしまいます」


 息切れしながら寒凪は答える。

 腕の中に阿緒がいる。

 それは堪らない充足感で、足を止めてしまいそうになる。

 けれども、目的は猫だ。

 目は猫の後ろ姿を見据え、寒凪は走る。


「口をと、じて。し、たを噛むかも」


 走っている以上長く話せず、少し崩した話し方になる。


「うん」


 腕の中で、阿緒が嬉しそうに笑って答えたのを寒凪は気が付かなかった。


「やっと止まりましたか」


 白猫は喉が渇いたのか、水が張っている桶の傍で止まり、水を飲み始める。

 寒凪はそっと阿緒を降ろした後、ゆっくりと猫に近づく。

 しかし猫が気が付いて走り出した。

 しかも逆方向だ。

 阿緒のすぐそばを猫が通り抜けた。


「阿緒様!」

「待って!」


 再び寒凪は彼を抱き上げようとしたが、それを阿緒が止める。


「由愛じゃない。目の色が青色だった」

「そうですか……」


 猫違いだったと、寒凪は肩を落とす。


「寒凪疲れた?私が重かったかもしれない。旅に出て随分食べるようになってしまったから」

「そんなことありません。阿緒様が沢山食べられることは嬉しいことです。肌も随分色つやが良くなりました」

「……女性からは遠のいてるかもしれない」

「阿緒様」

 

 下手な慰めは無責任だ。

 それに寒凪自身、色白で痩せた阿緒よりも健康的で少年のような彼の姿のほうが好ましいと思っていた。


「多津が私に幻滅してるかもしれない。ううん。前からそう。女性じゃないから。だから、早く女性にならなきゃ」

「阿緒様」


(そんな必要はない。あなたは今のままでいい。私がずっと傍にいます)

 

 そんな言葉を彼にかけたくなるが、寒凪は自身の立場を理解している。


「さあ、寒凪。もう少し頑張ってもらっていい?また探そう」

「はい。おまかせください」



 




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