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巳山のお姫様は何を願う。  作者: ありま氷炎
火烙(からく)の街
4/11

2-1

 本来ならば、街の長と首領は異なる存在だ。

 街の長は、表の街の代表者であり、首領は裏の世界の代表者だった。


 しかし火烙からくの街では、街の長と首領は同じ意味であり、丹崎たんざきの当主が代々務めていた。


 隣国に関しては阿緒たち一行は情報が少ない。

 計画では港町で『赤の呪術師』に会い、そこで秘術を施してもらう予定だったので、隣国の下調べなども十分ではなかった。


 港町で少し情報を収集し、首領が単なる賊の親玉ではないことに安堵しつつ、一行は翌日火烙からくの街へ出発した。

 移動手段は馬だ。

 女性として生活していた阿緒だったが、屋敷の中で退屈だろうと乗馬だけは寒凪から習っていた。

 寒凪ほどの手さばきではないが、普通に移動するには問題がない腕前だった。多津は阿緒が馬を乗れることをしらず、自身の馬に乗せてやろうと思っていたので肩透かしを食らっていた。寒凪は心の中で笑っていたが、表情は勿論変えない。

 阿緒はそのような思惑を知らないので、無邪気に多津に自分で馬に乗れるので迷惑はかけないと伝えていた。

 獣も山賊もでない山道を平穏に通り抜け、二時間ほどで火烙からくの街へ到着した。

 午後を少しすぎたところで、三人はまず食事をする。


 女性の姿であれば、汗などで化粧のことを気にしないといけないが、今は男装。

 阿緒は身軽な身に少し解放感をいただきながら、二人と食事をする。

 旅に出てからずっと外食で、最初の頃はぎこちなかった阿緒だが、今は楽しめるくらい余裕があった。

 ずっと家の中で食事をしてきた。

 それはおいしいものばかりであったが、外で食べる喜びを知り、阿緒は隣国へきてよかったと心の底から思っていた。


「阿緒。何か甘いものを食べるか?」

「お腹いっぱいなので大丈夫です」


 ここ数日で肉付きが良くなった気がして、阿緒は多津の問いに首を横に振って答える。

 本当ならば食べたいが、体重が増え、体つきがより本来の性に近づくのが怖くて、阿緒は断った。

 女性になるための旅、けれども『赤の呪術師』不在により、目標が達成される可能性は低くなった。

 希望は捨てていない。けれども、女性になれなかった場合のことも考えなければ、と阿緒は思い始めていた。

 また男装などしたことなかったので、その身軽さに慣れ初め、少し怖くなっていた。


 食事を終え、一行が宿の食堂でお茶を飲んでいると、黒い着物を身に着けた男が入ってきた。

 多津と寒凪は顔を見合わせる。

 二人はお互いのことをよく思っていない。多津は子供の時から阿緒の傍にいる寒凪が気に食わなかったし、寒凪は阿緒の想いを踏みにじり続けている多津が大嫌いだった。

 けれども阿緒を守るという点では二人の想いは同じなので、お互いの得物を意識しながら、男の動きを見守る。

 阿緒も黒い着物の男が入った瞬間から二人が緊張し始めたので、邪魔にならないように寒凪の隣で息をひそめていた。


「いたいた!軽薄そうな男、むっつりした暗そうな男、可愛い少年。君らが『赤の呪術師』の使いだね!」

「ど、どういう意味だ!」


 黒い着物の男は急に笑いながら、三人を指さしてきたので、多津がすぐに言い返した。

 軽薄そうな男が自分を差していることは理解している。

 むっつりした暗そうな男寒凪は怒りこそ覚えなかったが驚いていた。けれども表情は変わらない。

 可愛い少年の阿緒は目を丸くして、男につかかっていく多津を見守っている。


「いやいや、本当軽薄。考えなし」


 男は伸ばされた多津の手を両手で掴むと、一気に投げ飛ばした。


「成城さん、やめてください!」

 

 衝撃によってテーブルが倒れ、載っていた花瓶が床に落ちて割れる。

 悲鳴こそ上げるものはいなかったが、食堂に集まっていた者にとっては大迷惑だった。


「すまない。すまない。ついついね。これで許して。君たちも、この後の食事代は私が持つ。好きなように食べて」


 店主にお金を渡し、食堂に集まっていた者たちに男が声をかける。


「この野郎!」


 投げ飛ばされた衝撃で床で動けなくなっていた多津が立ち上がりかけ、寒凪がそれを止める。


「私たちに用事があるようです。まずは話を聞きましょう」

「お、君は話がわかるね。むっつりくん」


 その呼び名はどうなのか、寒凪もそう思ったが考えないようにした。


「あの、彼は寒凪です。こっちは多津。私は阿緒です」

「ああ、名前、自己紹介ありがと。俺は成城。丹崎たんざきの当主の使いだ」


 ーー


 『赤の呪術師』はかなり親切な人だ。

  阿緒の『赤の呪術師』の印象は一気に変わった。

  どうやら事前に、火烙からくの街の首領の丹崎たんざきの当主へ話を通していたらしい。

 どうやって知ったのか、呪術師の術なのか、阿緒たち一行の人数、特徴も言い当てていて、話はとんとん拍子に進んだ

 多津も寒凪も裏があるとしか思えない調子のよさに、気持ち悪さを感じていたが、阿緒だけは『赤の呪術師』はいい人かもしれない、そんな幻想を抱くようになっていた。

 宿を訪れた成城によって、阿緒たちは丹崎の屋敷へ招かれた。

 気味が悪いが宝木の実を得るためには、会うしかない。

 成城に案内されるがまま、屋敷へ足を運んだ。

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