第6話:情報が生命になるとき。宇宙が自分を複製しはじめた日。
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情報が流れ、意味が生まれ、未来へと向かっていく中で、
ひとつだけ、決定的な変化があった。
それは、生命の誕生だった。
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生命とはなんだろう?
脈打つ細胞、反応する化学式、自らを複製する分子。
生物学ではさまざまな定義があるけれど、
僕はこう思っている。
生命とは、情報が「自分自身を保持し、更新し続ける構造」になった状態。
それまでは、情報は“環境”に宿っていた。
波に、空間に、地形に。
けれど、あるとき、情報は“自分の内側”に境界をつくった。
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それが、最初の命だった。
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ねじれ、ゆがみ、選択。
それらが偶然にも絡み合った場所に、自己複製する構造が生まれた。
細胞のようなものだったのかもしれないし、
もっと単純な情報の渦だったのかもしれない。
それでもそれは、**情報の“意志なき意志”**だった。
自らを守り、繰り返し、そして変化する。
ボゴソートのように無数の“間違った並び”が弾けて消えていく中で、
たった一つだけ、“自己を保てる形”が生まれたのだ。
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そこから、生命は進化した。
記録を増やし、構造を精緻にし、ついには“感情”すらも持った。
感情とは、情報が**自分にとって有利か不利かを判断する“最初の言語”**だったのかもしれない。
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僕たちは、遠い昔に起きたこの変化の果てにいる。
ねじれた波が、構造を生み、構造が自己複製し、
情報が自分自身を感じ取るようになった。
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でも僕は思うんだ。
もしかしたら、これは偶然ではなかったかもしれない。
宇宙が記録を残し、
それを再生し、
意味を持たせたその先で、
「記録を自己保存できる存在」=生命が、必然的に生まれた。
つまり、**生命とは宇宙の記憶の“保存拡張機能”**なのではないか。
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言い換えれば、
生命は“宇宙自身によるバックアップ装置”だったのかもしれない。
情報が失われないように、
自分のねじれを、構造を、想いを、未来へ渡すために。
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次回は、その生命がさらに進化し、「観測者」や「意識」へと至った道を見ていきたい。
“ただ生きる”ことから、“意味を問う”ことへ。
それは、情報の旅の第二幕の始まりだった。
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(第7話へつづく)