閑話・エイプリルフール2
本編には関係のない小話(南雲祖母視点)
南雲祖母が南雲祖父に名付けをしてもらった少し後の話。
※昨日投稿した閑話エイプリルフールと話が繋がってます。
「百合さん。」
何度か名前を呼ばれ自身を呼ぶ声に気付く。
「名前、まだ慣れませんか?」
穏やかな表情の彼に何度も名付けを強請り、ようやく手に入れた名前。
嬉しくてずっと心の中で呼んでいたけど自分以外から聞く名前はまた違った感じがする。
それが誠さんだからなのかは彼からしかまだ呼んでもらったことのない私には分からないけれど。
「どうしたんですか?誠さん。」
にこにこ笑う誠さんはカレンダーの今日の日付を指差す。
「今日はね、エイプリルフールなんですよ。」
「エイプリルフール?」
「あぁ、百合さんはあまりイベント事について知らなかったですね。」
「そうね、あまり興味を持ってあれこれしたい!ってのは無いかも。」
イベントの飾りとかキラキラしてて綺麗だとは思うけど誠さんは人混みが苦手なのであまり興味が湧かなかったという答えが正しい。
今の所惹かれるイベントはバレンタインとお花見くらい。
誠さんがイベントを口に出すのは珍しいから先程からエイプリルフールには興味が出てきたけれど。
「……エイプリルフールは愛を伝える日なんだよ。4月1日の午後に相手の方に好きな物渡したり日頃の感謝の気持ちや愛の言葉を伝える日。」
「愛………」
「そう。主に家族愛とか友愛とか。」
普段私からの愛を照れながら受け流している彼から愛を伝える日なんて言葉が出てきてびっくり。
そのエイプリルフールというイベントについて教えてくれたって事は少しは…恋愛じゃないかもしれないけど好きだって思ってくれているのだろうか。
時計を見ればちょうど今、12時になった所。
もしかしてプレゼントや愛の言葉を誠さんから貰える…?
「……百合さん?」
「え?あぁ、うん。聞いてるよ?」
「そう?なら話進めるけど…百合さん、いつもありがとう。これ、受け取ってくれる?」
そっと差し出されたのはちりめん生地の赤い小さなアマリリスの飾りが付いている髪飾り。
「わぁ…可愛い。」
「何が好きかあまり知らないから貴女の精霊名の花にしてみました。」
「どうしましょう…私凄く嬉しいのにお返しのプレゼント用意してないわ!」
「…じゃあ僕を百合さんのおすすめのお店に連れて行ってください。」
「分かったわ!あら?これってデートのお誘い?」
「そう捉えて頂けると嬉しいです。」
そわそわ気持ちが落ち着かない。
だって初めてのデートだもの!
「じゃあ新しくオープンした美味しい和菓子屋さん知ってるからそこに行きましょ!どら焼きとお茶が相性バッチリなの!」
私は彼の白くてひんやりした手に触れて優しくぎゅっと握る。
「私、今ワクワクそわそわしてるの!うっかり駆け出して誠さんを置いて行かないように手を繋いだわ!!」
「そっか…僕もワクワクそわそわしてるよ。君みたいに駆け出す事は出来ないから君に置いて行かれないように手を離さないようにしないとだね。」
私の手を誠さんも優しくぎゅって握り返してきた。
そして私達はおすすめの和菓子屋さんでどら焼き三つを買って一つは半分こして食べたの。
彼はその和菓子屋さんのどら焼きとお茶が気に入ったみたいでたくさん買っていたわ!
そんなに食べれるの?って量だったから心配したんだけど精霊の森の子達にって二つ以外預かったの。
残りの二つは明日のお昼、おやつで一緒に食べようって約束したのよ。
その後はお肉屋さんでコロッケ二つ買って川沿いに歩きながら一緒にコロッケを食べたの。
そしたら地面にたんぽぽがたくさん咲いていることに気付いて上を見上げたら桜の花びらが舞ってて綺麗だったのよ。
なんだか楽しい気分になったのが表情に出ていたのかな?
誠さんから「遊んできたら?」って手を離された。
勿論すぐに手を繋ぎなおしたけどね!
だって今日は人生に一度しかない誠さんとの初デートの日だもの。
欲を言うならもっとデート出来ますように!!…って願いながらエイプリルフールを目一杯楽しんで精霊姿に戻った私はエイプリルフールの真実を知らないまま誠さんと家に帰宅したわ。
真実を知ったのはそれから数日後。
和菓子屋さんの店員さんと仲良くなってエイプリルフールが実は愛を伝える日じゃなくて嘘をついてもいい日ってことを知ったわ。
私は誠さんにその話をしたの。
そしたらね、なんて言ったと思う?
誠さんったら「本当の意味を知った百合さんから嘘であっても『大っ嫌い』なんて言われたくないですから。」ですって!!
嬉しくて、でも嫌いって言う可能性があるって思われていたことが嫌で言い返したわ!
「私は毎日貴方の事好きになっていくのに…不安なんですか?」ってね。
誠さんから「………はい。」って小さめの返事が返ってきたわ。
彼は自信がないのかしら?
ちょっと困ったような顔の誠さんは真っ赤になって下を向いたのよ。
その姿がとても可愛くて私は死んでも誠さんを手放せそうにないなって思ったの。
それにもっともっと愛を届けようって思ったし、あわよくばお返しデートを期待して。
「ねぇ誠さん。」
「なんだい?」
「毎年エイプリルフールはデートしましょ!」
「…僕ら付き合ってないのに毎年デートするんですか?」
「なら付き合ったらいいのよ!…ねぇ、駄目かしら?」
「…体が弱い、僕でいいんですか?」
「誠さんじゃなきゃだめよ。だって私は誠さんと一緒にいたいからこの世界にいるのよ?」
涙脆い彼は私をぎゅっと抱き締めて「僕と付き合ってください」って言ってくれたのよ。
その時は私も嬉しくて潤んだ目を誠さんの肩に押し付け、誠さんを抱き締め返したの。
勿論返事は「よろしくお願いします!」って言ったわ!
〜〜〜〜〜
毎日幸せで時間はあっという間に過ぎていった。
何度も危ない時はあったけど爺さんがその度に弱々しくも優しくぎゅって手を握ってくれてわしが弱音を吐いてる場合じゃない!って魔力を、わしの生命力を注ぎ込んだ。
30歳まで生きられないだろうって周りから言われていたけど爺さんの頑張りとわしの魔力のお陰で爺さんは去年の冬に還暦を迎えたわい!
最近はそろそろ魔力を渡しても爺さんの体が限界だってわしも爺さん自身も気付き、わし達はすぐに孫の為に行動した。
さくらに柚のあれこれを教え込み、わしと柚とさくらで料理をたくさん作ったり。
あとは精霊の森にいる精霊達にも柚達について話をして何かあったら孫達を助けてやって欲しいと伝えたり。
あとは爺さんが体の限界を柚に悟られないようにしている姿にわしはまた惚れ直したりしていたのぅ。
あ…そうそう、昨日イタズラ好きなさくらにエイプリルフールについて聞かれたからわしが爺さんに言われた嘘を吹き込んだわい!
あの嘘は仲良くなる優しい魔法じゃからのぅ。
きっとわし達がいなくなった後もあの子達はエイプリルフールを毎年楽しんでくれるはずじゃ。
わし達がそうだったように。
「百合。」
思い出に浸っていたわしは呼ばれ慣れた名前を呼ぶ夫の方を向く。
爺さんと共に歳を重ねたかった私はわしに一人称を変え、見た目や言葉遣いを変えた。
それでも彼への気持ちは変わることなくあの頃のまま。
今日は愛を伝える日。
婆さんでは無く、百合と呼ばれて頬が緩んだ。
わしも特別なデートでは初デートの時みたいな口調で彼を名前で呼ぶようにしている。
「なんですか、誠さん。」
「今日はエイプリルフールだからデートに行こう。途中あの和菓子屋に寄ってたんぽぽ畑に行かないか?」
「勿論行く!!私が駆け出さないように手を繋いでもらっていい!?」
「百合はいつも元気だねぇ。」
繋いだ手は相変わらずひんやりしていてぎゅって優しく握ったら優しくぎゅっと握り返された。
「……来年のエイプリルフールデートは和菓子屋に行けないかもしれない。」
「それなら来年は…空のデートとかどう?綺麗な夕陽が見れる場所に手を繋いで一緒にデートに行きましょうよ。」
誠さんは繋いだ手をいつもよりぎゅっと握り締めて「君とならどこへでもいけそうだな」って言って空を見上げて微笑んだ。
閲覧ありがとうございます。
本編、頭ん中の二人がなんか全然旅に出てくれなくていつ旅するんだろう(・ω・`)?と思いながら書いています。
また、ふわふわどんぶり勘定なのでエピソード5の後書きで書いていた登場人物まとめももう少し後になりそうです…。
ごめんなさい(´・ω・`)しょもん