母の作るお弁当
母の作る弁当はいつも斬新だ。キャラ弁が流行した時はワカメと海苔やカニカマなどで恐竜を描いていた。
中学3年生の俺には幼稚過ぎて恥ずかしくて友達と一緒に食べることが出来なかった。キャラ弁の流行が落ち着くと普通の弁当に戻ていたが、2、3日すると今度は弁当の中にカレーやご飯の代わりにパスタを詰め始めた。
パスタはギリセーフとして、カレーは本気でやめて欲しかった。カレー風味の炒め物ならまだしも完全に液体はちょっと……。だから俺は母に言った。
「母さん、次からカレーはやめてくれ!ルーが溢れて大惨事だったんだ!!」
この時の大惨事とはカレーのルーが弁当箱から溢れ、カバンやノートに染み込んでいた。
「おかしいわね。母さん、念の為お弁当箱に透明のビニール袋を被せていたはずよ」
確かに被せていた。だが、袋の口を閉じ忘れていたことに気づいていなかったようだ。せめてジップロックに入れてくれればまだマシだったかも知れない。翌日からまた普通の弁当に戻った。とある日母はいつものように朝早く起きて歌を歌いながら弁当を作っていた。
「これっくらいのおべんとばっこに、おにぎり〜♪おにぎり〜♪おっにぎり〜♬おっにぎり〜ちょっと……」
俺はなんだか胸騒ぎし始めた。さっきから歌を聴いてるとおにぎり以外の具材の歌詞が全く聴こえてこない。
「はい!母さんの愛情た〜ぷり特製弁当が出来たわ」
そう言って俺に弁当袋に包まれた弁当を手渡してくれた。
いつも朝早く起きて作ってくれるのはすごく嬉しいし、大変だと思う。
「母さん、いつも弁当ありがとう。だけどさ……今日はいらないんだ」
「どうして!」
「母さん、忘れていると思うけど、今日卒業式で午前中で終わるんだ」
しばらく沈黙の後母さんは急に慌てだし急いで卒業式に出席する支度をし始めた。
今朝作った弁当はというと式の後、友達が俺の家に来て皆んなで梅干しや昆布、海老天など色んな具材の入ったおにぎりだけの弁当をわいわい言いながら食べるのだった。
(完)