表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Raindrops  作者: りん
3/3

【3】

 あれから一年が経つ。

 もう一年。たった、一年……?

 季節はまた、梅雨。雨続きの日々に気も滅入る。

 だからこそ、たまの晴れ間は嬉しいはずなのに。

 昨日の太陽の下でのデートも、仕方なく足を運んで共に過ごすだけの、「彼女として」の義務に成り下がっていた。

 いつの間に、こんなに贅沢になってしまったのだろう。


 翌日大学で捕まえて、久し振りに、……本当にいつ以来かと記憶を探らねばならないほど珍しく、早弓の方から賢人を遊びに誘った。

 少し驚いた風に、それでも嬉しそうな彼。

 今日も空には一応晴れ間が広がっていた。しかしあの日と同じ、予感がする。

 大学から駅への道で、足元のアスファルトに一つ、二つ、あとはもう数えられない。あっという間に道路の色を変えて行く、雨粒(Raindrops)


「賢人! あたしの部屋に来て。今濡れたくないの!」

「あ、うん。そうだね、行くよ」


 ──恵みの雨。こんなのすぐに上がるわ。通り雨、今だけの。だからこのタイミングも幸運ってことよね。 


「ねえ、早弓。覚えてる? ──僕たちのスタートも雨だった」

 来ていたパーカーを素早く脱いで早弓の頭から上半身に被せ、自分は鞄を頭にかざすようにして駆け足で早弓の部屋に向かいながらの賢人の言葉。

 覚えている。……ようやく、思い出した。

 賢人は今も信じているのだろうか。あれが単なる偶然(・・)だと。

 小細工を弄するくらいにこの人が好きだった。互いに想いがあるのもわかっていて、一歩踏み出す勇気が持てなかった。彼の方も、きっと。


 あの頃の熱い気持ちを忘れていた。なくしたわけではない。ただ、優しい恋人に甘えていただけなのだ。

 すべての始まりと同じ早弓の部屋。玄関ドアを入った途端にすぐ後ろの彼に向き直る。


「賢人。あたし雨嫌いだった。なんか鬱陶しくて。──でも、賢人と一緒にいると雨もそう悪くないって思える。いつか必ず上がるしね」


 ──あの日も今日も、雨があたしの背を押してくれた。でもそれはただのきっかけ。もう「雨」に頼らなくてもあたしが考えて動くわ。この「幸せ」を大事にする。


 遠回しで謎掛けのような台詞に恋人は少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。


「僕も別に雨なんて好きじゃないよ。でも今こうして早弓といられるのは、あの雨のおかげだから」

 その言葉に早弓は無言で靴を脱ぎ、彼の手を引いて部屋に上がった。

 これからは自分の気持ちを素直に伝え、賢人との関係を大切にしようと心に決める。


「あ、雨()んだ?」

 二人でローテーブルに向かい合いコーヒーを飲んでいると、賢人が窓の方を見て呟いた。


 早弓もそちらへ目を向けると、窓の向こうには雨上がりの澄んだ空が広がっていた。


 ~END~


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ