表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Raindrops  作者: りん
2/3

【2】

 不意に頭に過る、二人の関係が変わった日。

 単なるサークルの友人だった。気持ちはともかく、二人の間には明確な形は何もなかった。

 あの日。サークルの活動はなく、部室に顔だけ出したのだ。

 同じく集まった顔触れのうち、いつも通りすぐ帰るという彼と連れ立って部室を後にした。

 大学から駅に向かう長い一本道を二人並んで歩く。他のメンバーは大抵残って雑談に興じるため、もう恒例のようになった帰り道の光景。


「堀田くん、あのカフェ新作出たんだって。あたし飲みたいな。一緒にどう?」

「あ、うん。いいよ」

 もう少ししたら駅に向かう彼に別れを告げて、早弓は曲がり角の先の自宅マンションへと向かう。

 せっかくの二人きりの時間もすぐに終わってしまう、と感じた途端に誘いを掛けていた。

 新作ドリンクを飲みながら、普段と何ら変わらない会話を交わす。

 二人のカップが空になって、ここまでか、と名残惜しく感じつつも腰を上げて店を出た。

 ほんの数歩で、手にぽつんと当たる一滴(ひとしずく)を感じる。

 天を仰げば、真っ直ぐ落ちてくる雨の矢。夕立か。二人とも、傘も持っていなかった。


 彼がどうかは知る由もないが、早弓は登校前にスマートフォンで天気予報は確かめている。

 降水確率は二十パーセント。「傘は必要ないでしょう」となっていた「傘指数」に一度は安心した。

 梅雨の合間の貴重な晴天。

 しかし心の奥では確信めいた予感があった。いや、むしろ雨が降ることをどこかで期待していた、のかもしれない。

 だから、傘を持たずに(・・・・)家を出たのだ。


「ね、ねえ! あたしの部屋、すぐ傍なの! 知ってるよね!? 雨宿りしていかない?」

 期待通りに降り出した雨に、思い切って切り出した。もっと降り続くよう念じながら。


「え、……でも、早弓ちゃん一人暮らしだよね? 女の子一人の部屋になんて──」

「いいから! このままじゃずぶ濡れになっちゃう! あたしが濡れたくないの!」

 戸惑いながらも固辞する雰囲気の彼に、有無を言わせないよう言葉を被せる。


「やっぱり僕、ここにいるよ。降るって言ってなかったしすぐ()むと思う。だからそれまでいさせてもらえば。早弓ちゃんは早く入って。やっぱり女の子の部屋はちょっと、その……」

 雨脚に追い立てられるように走って、辿り着いた部屋。解錠してドアを開けた早弓に、今更のように彼は尻込みした。


「あのさあ、部屋の前にこんな濡れた男が立ってる方が迷惑なのよ。わかんない?」

 ここまで来て逃がす気はない、とばかりに自然口調も強くなる。


「あ、あ! じゃあ傘借りて帰──」

「もう、あたし濡れて気持ち悪いんだって。さっさと着替えたいのよ! ほら入って!」

 強引に腕を掴んで玄関に引っ張り込んだ。

 あれが、二人の始まりだった。

 文字通りの通り雨で、降っていたのはほんの数十分。

 しかし賢人が早弓の部屋を出たのは、雨上がりどころかもうすっかり夜の(とばり)も降りた頃だった。

 特に何をしたわけでもない。ただ二人で一緒に過ごす、それだけで幸せを感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ