4話 シャルロッテ
ダンジョンから出たあと、スウェインは人探しをすると言って別の場所に行ってしまう。
……なぜ、最初に探す場所がダンジョンだったのかはオレにもわからない。
オレは倒した魔獣の素材をギルドに売り、いつものように安酒をあおっていた。
「あら、リチャードじゃない」
気分良く酔っていたところに、後ろから声がかかる。
「……あー、シャルロッテか」
「あー、って何よ。あーって!」
言い方が気に食わなかったのか、ムスッとした顔のシャルロッテ。
彼女がオフの日に冒険者ギルドに現れるのは珍しい。
というのも、彼女はウィザードであるがゆえにソロでダンジョンに潜るのが難しいからだ。
「悪い悪い。此処で会うのは珍しかったからな」
「たまには酒場で夕食も悪くないと思ったからよ」
「へぇ」
オレは軽く返事をして、酒をガバガバと飲み続ける。
「……飲み過ぎじゃない? 二日酔いとか大丈夫なの?」
「二日酔いになったら、ジジのポーションを飲めば良い。なぜか知らんが、よく効くんだ」
貧血だったり、二日酔いにだったり、本当に万能だ。
オレがジジの名前を出すと、シャルロッテは露骨に顔をしかめる。
「あんた、本当にジジを庇うのね」
「……なんだかんだ付き合いが長いからな」
もうパーティーを組んで1年以上になる。
そりゃあ、多少の情は湧くだろう。
「……はぁ、あんたがジジを引き止めたのには驚いたわ。パーティーがどうなろうと一番無関心そうなのがあんただったのに」
「バカを言うな。オレがこうやって酒を飲めてるのはアレスやお前とジジのおかげでぐらいオレも分かってる」
流石に、自分ひとりで生きていけると思うほどオレは愚かじゃない。
「というかお前ら、ジジを追放することを冒険者ギルドの中で話してたのか? 軽く噂になってたぞ」
これは今日になって知ったことだが、冒険者内ではすでにジジを追放したような噂が立っていた。
そのため、オレがソロでダンジョンに潜っていると、オレまでパーティーを抜けたのかと心配する声が聞こえてくる始末。
そういった連中に、ジジが抜けていないのを何度も説明するのは面倒であった。
「しょうがないじゃない。元々するつもりだったし」
「……ま、出来る限りそういうのは公にするな。オレらのパーティーの評判に関わってくる」
結果論だけで言えば、ジジに対して1ヶ月間猶予を与えた、慈悲深いパーティーだと今のところはなっている。
それでも、パーティーの評判というのは実に大事で、新しくメンバーを募集するときに重要な項目だ。
どんなやつでも、無能だからとすぐさまクビにされるパーティーには入りたくないというもの。
「気にしすぎじゃない? ジジを追放するのは客観的にも当然のことだとみんな判断すると思うのだけど?」
「……お前はどうしてそこまでジジを敵対視するんだ。アレスほどパーティーのランクに固執してるわけでもないだろうに」
「……言っても笑わない?」
その問いに、オレはこくりとうなずく。
「あの子、女子力が高いんだもの……」
「…………まて、それはどういう意味だ」
「そのまんまの意味よ! 冒険者なんてしてると、戦いのことばっかり気が向いちゃうでしょ? それなのにあの子は……」
……どういうことだ。
女の心の機敏など、オレにはわからん。
混乱していると、シャルロッテは続きを言う。
「アレスとかも、女子力高いほうが良いだろうし……」
「もしかしてお前、アレスのことが好きなのか?」
オレがそう言うと、シャルロッテはうなずく。
「そうよ。……パーティーに私情を持ち込んじゃ駄目?」
「……まー、良いんじゃねえの。オレらも結局の所人間だし」
アレスなら、馬鹿げていると一刀両断しそうだが。
別にオレはそこまで潔癖じゃないので、パーティー内恋愛をしたければするといい。
ただ、その感情だけでジジを追放して割を食うのは勘弁だ。
「そうだ! あんた、私とアレスの仲を取り持つ協力をしなさいよ! そうすれば、あんたとジジの仲も取り持ってあげるわよ」
「……ん?」
なぜオレとジジの話になるのか。
取り持つべきは、ジジとパーティー全体の仲なのだが。
「あれ? あんたジジのこと好きなんじゃないの? だからパーティーから外すの嫌がったんでしょ?」
はて、と不思議そうな顔をするシャルロッテ。
「待て待て。オレにそういう感情は……」
「そんな恥ずかしがらなくても良いじゃない。あんたが協力してくれるなら、私も協力するわよ?」
ウキウキした表情のシャルロッテを見て、オレは何を言っても無駄なことを悟る。
おそらく、目の前の人間は恋愛脳に頭を侵されてしまっているのだろう。
しかし、ジジがパーティーに残るよう協力してくれるならそれは実に助かる話だ。
「ね、とりあえずアレスについて教えてよ。好きな女性のタイプとか! あんた、私よりもアレスと付き合い長いじゃない?」
「……オレが知るかよ」
今聞いたら、あいつはどうせ強い女を求めているとか答えそうだ。
「じゃあ、好きな食べ物とか!」
「……簡単に食える携帯食とかを重視してそうだな」
その後、オレはシャルロッテからの質問攻めにあいつづけ、夜は更けていくのであった。