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3話 本来のパートナー

 店を出たオレは、次にやることを考える。


 少なくともジジが優秀であり、それにオレたちが気付いていなかったことは分かった。

 どれだけ凄いかは分からないが、あれだけべた褒めされたんだ。相当のものなのだろう。


 ……しかし、だ。


 ジジが優秀なことと、彼女が抜けたことでオレたちパーティーが落ちぶれるのは必ずしもイコールではない。


 オレたちは、そこまで弱くない。


 確かにジジの作るポーションは凄いのだろう。

 ただのポーションでハイポーションの効果なんぞ、普通は出るはずがない。


 だが、たとえそうだったとしても、ハイポーションを飲めばジジのポーションと同じ効果を得られるのも事実。


 ハイポーションはポーションに比べれば大分値は張る。

 とは言っても、買えないかと言われれば答えはノーだ。

 

 経費がかさみすぎて報酬は雀の涙になるだろうが、オレたちが落ちぶれるほどではない。

 出来る限り怪我をしない立ち回りをすればいいだけだ。


 だとすれば、ジジが居なくなることでそれ以外の不都合が生まれるということ。

 ……いや、もしかしたら単に運が悪く落ちぶれるだけかもしれないが。


「……わからねぇな」


 小説の詳しい内容を思い出せれば全て解決するのだろうが、どうやらそうそう上手く行かないらしい。

 

 ポーションの効果をアレスたちに教えれば、とりあえずのところはジジの追放をなかったコトにできるかもしれないが……。


 そうは言っても、アレスの目標はSランクパーティー。

 そのうちジジをまた追放しようとするのは火を見るよりも明らか。


 である以上、オレたちの破滅フラグがなくなるというわけではない。


 あー、駄目だ。なんもわからねぇ。

 それに、これ以上考えたところで分かるとも思えない。

 

 ……ならばせいぜい、落ちぶれた後も生活が出来るように頑張るしか無いか。


 追放して落ちぶれるのが防げないのだとしたら、落ちぶれたあとでも生活できるようにすれば良いのではないか。

 とは言いつつも、自信があるのは腕っぷしだけ。

 冒険者以外の職につける自信はない。


「……修行でもするか」


 オレはそうつぶやいて、ダンジョンの入口へと向かった。






 この街のダンジョンは、全部で上層、中層、下層、最下層に分かれていた。

 そして、オレたちは基本的に下層をメインとして動き回るパーティー。


 下に行けば行くほど魔物は強くなり、珍しい素材を落とすようになる。

 よくあるダンジョンのシステムだ。


 ……よくあるって何言ってんだ。

 駄目だな、前世の記憶が薄っすらと蘇ったせいで、知らないはずのことまで知っているみたいな感じになる。


「ハッ……!」


 オレが今居るのは、ダンジョンの中層。

 ここならば、オレがソロでもそこそこ戦える。

 1人で修行したいのならば、もってこいの場所と言えた。


「GAAAA!!」


 オレは、ヘルバウンドと呼ばれる犬の魔獣を始末し、一息つく。


 回復には、先程買わされた市販のハイポーションがある。

 とりあえず今日の分は問題ないだろう。


「……ん?」


 ふと、近くで魔物との戦闘の音が聞こえてきた。


 ダンジョンは基本的に誰でも入れる。

 そのため、ダンジョン内で他のパーティーと遭遇することは珍しくない。


 パーティーが落ちぶれた際の、再就職先でも探しておくか……?


 オレはそんなことを考えながら、音のする方向へと行く。


 すると、そこに居たのはパーティーではなく、オレと同様1人で魔物と戦う男。

 ちょうど彼も魔物を倒したようで、オレと目が合う。


 無視しても良かったのだが、きまぐれに話しかけてみる。


「よぅ、同業者。精が出るねえ」

「……誰ですか、貴方は」


 突然話しかけてきたオレに不信感を覚えているのか、若干視線が怖い。


 ただそれとは別に、その男は驚くほどに顔が整っていた。

 俗に言うイケメンとかいうやつだ。


 オレみたいなチンピラ崩れの冒険者では並び立たないほどの。

 中性的だから、女装すれば美人にもなるんじゃないか?


 1つ不思議なのは、そんな顔をしているのに見覚えがないことであった。


「見ない顔だったんで、ついな。あんたソロか?」

「……ええ。昨日、この街に来ました」


 外から人間が来ることはさほど珍しいことではない。


 なにせ、ダンジョンに街がくっついているのだ。

 冒険者からすれば、まさに楽園のような場所。


 それでも、少しだけ違和感があった。


「あんたほどの腕で、ソロでこの街に来るとは珍しいな」


 このダンジョンは言うほど難易度が高くない。

 オレたちBランクが下層まで行ける時点でお察しだ。

 拠点を変えようかという話は、パーティーの中でも起きているほど。


 最下層まで行けば強い魔物もいるかもしれないが。


「……人を探しているんです」

「人を?」

「はい。青髪の女性なんですが……」

「へぇ。名前は?」

「それが、名前までは知らなくて」

「となると、特定は難しいな」


 青髪の女性か。


 髪が青い人間は、そこまで珍しい人間ではない。

 この街にも溢れるぐらい青髪の女性は居るだろう。

 名前がわからないのでは、特定するのも難しい。


 が、そこで、オレは1つだけ引っかかる。


 ……そういえば、ジジも青髪だったような。

 そのタイミングで、脳がひりつくような感覚に襲われる。

 そう、前世の記憶を思い出したときのような。


「ちなみに、あんたの名前はなんて言うんだ? オレはリチャードだ」

「自分はスウェインと言います」


 ……かんっぜんに思い出した。

 小説において、ジジはパーティーを追放された後、1人の男に出会い、そいつとパーティーを組むことになる。

 たしか冒険者になる前、魔物に襲われてた男を助けたとかそんな感じの繋がりがあったはずだ。


 そして、そいつの名前は『スウェイン』。

 偶然、目の前にいる人間と同じ名前。


 ……偶然なわけねーよなー。


 仮に、このスウェインとやらが本物でジジと出会った場合、そのままジジがパーティーを離れてしまう可能性が高い。

 それは正直ヤバい。


 今、俺の前に存在する選択肢は2つ。


 1つ目。

 この場でスウェインを始末してしまうことで、その可能性を潰す。

 ダンジョン内での冒険者の死なんて、事故として片付けられるので後始末の心配はいらない。


 2つ目。

 諦めて、スウェインと仲良くする。


 ……ま、後者なんだろうな。

 会っただけでジジがパーティーから離れるか確定したわけでもないし。


 そもそもとして、目の前の男より、オレが強い自信がない。

 小説でジジのパートナーとなるような存在だ。オレみたいなやつが勝てる道理がなかった。


 諦めて、オレはスウェインに手を差し出す。


「スウェインさん、ね。此処で会ったのも何かの縁だ。人探し、手伝えることがあったら手伝うよ」

「本当ですか? ありがとうございます、リチャードさん」


 スウェインは、にこやかにオレの手を握り返してくる。


 そして、オレたちはダンジョンの入口に戻ろうとすると、スウェインが軽くうめき声を上げた。


「ッ……!」


 振り返ると、そこには片足を抑えてうずくまるスウェインの姿。


「怪我か?」

「え、ええ。少し古傷が……」

「ふぅん」


 オレはそれを聞いて、懐からハイポーションを取り出す。


「効くか知らんが、その場しのぎぐらいにはなるだろ」

「い、良いんですか……?」

「気にすんな。どうせ余ってたもんだし」


 正直、ハイポーションをこんな持ってても意味がない。

 どうせジジの作ったポーションがもらえるし、あちらのほうが格段に飲みやすいしな……。


 スウェインは、驚いたような顔で、ポーションを飲み干す。


「……へ? この回復量……。まさかハイポーション!?」

「あー、普通のポーションは切らしてたからな。でも別に効きすぎるぶんには構わねーだろ」

「い、いえ、そういうことではなく、ハイポーションは貴重なものですから……」

「だから問題ねえって」


 オレがそう言うと、スウェインは微笑む。


「優しい方なのですね……。見ず知らずの自分にここまでしてくれるなんて。まるで、青髪の彼女のようです……」


 優しいと言うよりは、打算的なだけである。

 冒険者の世界は、とりあえず恩は売れるだけ売っておいたほうが、回り回って自分を助けることが多い。


 スウェインという将来的にすごくなりそうな人間には、特に。


「あいにくと、オレは青髪でも女でもない。人違いだぞ?」

「ええ、承知しております」


 オレたちはそう言って、笑いあった。

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