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1話 状況の整理

 部屋を抜けたオレは、自分が寝泊まりをしている宿屋に1人で戻ってきた。

 パーティーを組んでいると言っても、寝食を共にしているというわけではない。

 そのため、この宿屋にいれば周りに邪魔されることはなかった。


 宿屋に戻ってきたオレは、すぐさま現状の整理を始める。


 まず1つ目。

 それは、前世の記憶がどの程度あるかということ。


 これに関しては、自分が此処とは違う異世界で平和に暮らしていたということぐらいしか覚えていない。

 前世の名前すら覚えていなく、強いて言うならば幼少期の色褪せた記憶みたいなものだろうか。

 ただ、先程口から出た言葉を考えるに、色々なことを意識的に思い出せないが、身体は覚えているという状態なのかもしれなかった。


 そんなあやふやな状態だが、前世の記憶が蘇ったと何処か確信めいたものが存在する。


 次に2つ目。

 そんな中で、覚えている今の状態によく似た小説の話。


 ただ、それも一字一句忘れずにというわけではなく、なんとなくの展開を覚えているだけ。

 ジジが主人公の物語で、無能だと烙印を押されパーティーから追放された彼女が成り上がっていく物語だ。


 具体的に彼女がどのような成り上がり方をしたのかは覚えていない。

 ついでに言うと、彼女が抜けた後のオレたちがどのようにして落ちぶれたかも分からなかった。

 確実に覚えているのは、まともに魔物を狩れなくなって全員冒険者を引退か追放されるということ。

 

「……不味いな」


 オレは部屋で1人つぶやく。


 というのもだ、情報があまりにも少なすぎる。

 分かっているのは、ジジをパーティーから追放するとオレたちにどうしようもない不幸が降りかかるということだけ。


 ……駄目だ、今のオレにはジジを追放しないよう立ち回るぐらいしか出来ない。

 ぶっちゃけ、オレはジジとパーティーを組み続けるのには元々賛成なので何も問題はないのだが。


 そんな事を考えていると、部屋の扉からノックの音が聞こえてくる。


「リチャード、入っていいな?」


 リーダーであるアレスの声。


「あー。オーケー、入れ」


 オレが返事をすると、アレスは扉を開けて部屋の中に入ってくる。


 そして、こちらを一瞥するとベッドの上に腰掛けた。


「俺が来た要件は分かるな?」

「さて、何のことやら……、とは言えないか」


 今さっきオレがした小芝居。

 まあそりゃあ不審に思うだろうよ。


「シラを切りつづけるというなら構わん。そうなれば、俺にも考えがあるというだけだ」

「分かった分かった。ジジの件だろ?」

「そのとおりだ。単刀直入に聞く。なぜ、あいつを追放しない?」


 真剣な目でこちらを見てくるアレス。


 追放したらオレたちが不幸になるなんて言っても信じてはくれないだろう。

 さて、どうしたものか。


「さっき言ったとおりだ。いきなり追放なんぞしたらジジが可哀想だと思っただけだって」

「冒険者というものはそういうものだ。なにより、ジジは薬師。冒険者にこだわらなければ食うに困ることもないだろう」

 

 そりゃまあそうなんだけれど……。

 それに、ジジもオレたちと冒険するより薬師を本業にしたほうが良いんじゃないかとは思う。

 わざわざ危険を犯す冒険者より、安定した職業の方が良いに決まっている。


 それでも、今その選択肢を選ぶ事はできない。


「いきなり追放して、実はジジがパーティーで重要な役割を果たしてました、なんてなったらオレたちが不味いだろうが」

「馬鹿なことを言うな。そんなことあるはずなかろう」


 ……まぁ、ぶっちゃけちゃえばそうなんだよな。


 ジジは確かにいいヤツだ。オレみたいな人間にも優しい、実に献身的な出来た人間。

 しかし彼女がパーティーでこなしているのは、ポーションを作ることと荷物持ちだけ。


 そのポーションも買えばいいだけなので、正直彼女が抜けただけでパーティーが崩壊することはない。

 ……はずなんだけれどねぇ。


「リチャード、前も言ったかもしれないが、俺はSランクパーティーを目指している」


 Sランクパーティーとは、冒険者における一番上の地位。

 今オレたちはBランクであり、このまま続けていれば勝手に成れるというわけではない。


 とは言っても、Bランク自体もそこそこ上の地位で、ここらの地域ではオレたちが一番上だ。


「ジジが居ても目指せるんじゃねーの? パーティーに人数制限はないだろ」

「馬鹿を言うな。あいつが居るだけで、戦闘中にどれだけ気を使わないといけないと思っているんだ」

「言うほど気は使ってないと思うけどな」


 ジジはすばしっこいので、荷物を運びながらも魔物たちの攻撃範囲外を器用に移動している。

 少なくとも、武道家のオレはさほど気にした覚えがない。


「今がそうだったとしても、これからどうなるかは分からないだろう?」

「そうなったなら、そうなってから考えれば良いんじゃね?」


 オレの言葉に、アレスは顔を曇らせる。


「妙にジジを庇うな……。なあリチャード、もしかしてお前はジジのことが好きなのか? もしそうなら、パーティーから外すのを遅らせるのを考えても良いが……」

「…………あー、うん。そうじゃない」


 その嘘は流石にオレでも心が痛む。

 だが、もしどうしても外さざるを得なかった場合の最終手段だろうか。


 そうか、と安心した様子のアレス。


「俺はお前に期待しているんだ、リチャード。出来れば、色恋でパーティーを瓦解させるようなことはしたくない」

「大丈夫だって。とにかく、さっき言った1ヶ月間だけ猶予を与えるってのは決定事項な。それで1ヶ月後も意見が変わらなかったら、その時に追放で全然構わねえから」

「…………まあ良い。今回はお前のわがままを聞いてやろう」

「ありがとよ」


 オレが感謝を述べると、リチャードは立ち上がり、部屋から出ていく。

 残された部屋で、オレは再び悩む。


「どうしたもんかねぇ……」

 

 最重要課題は、ジジをパーティーから抜けさせないようにすること。


 加えてもう1つの課題として、なぜジジがパーティーを抜けるとパーティーが崩壊するのか要因を調べること。

 読んだ小説の内容を完全に覚えていればそれで解決したのだが、ないものねだりをしてもしょうがない。


 ……今日はもう寝て明日から調査するか。


 色々と考えが煮詰まってきたので、オレはそのままベッドに身体を放り投げた。

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