8話 旅立ちの日
翌日。
家の前にはかなり豪華な馬車がある。
屋根があるどころか、小さな家がついたような馬車。
当然窓もあるし、ソファーにテーブル、簡易料理台まである。
うわっ!ソファーふかふかだ!
重さに耐えれるようにするためか、馬車の馬が使役されてる魔物だ!2.5mはありそう……。
………以前にお客さんが乗ってきた馬車と遜色ない位のもレベルなんじゃ…………。
「フェテシアお母さんこれに乗ってくの?」
「フェル………質の低い馬車というのは振動がひどいものなの。長旅をしているとそのうち体を壊してしまうものなのよ。だからちょっと実家の奴を持ってきてもらったのよ。」
「振動で…………体を?」
「~ったく。フェテシアはまどろっこしいのよ。フェル?つまりね。安物乗ってるとお尻が振動で真っ赤になるわ。」
「ちょっとアリア!やめてください。私のフェルに下品な言葉遣いをしないで」
「めんどくさいわね。他人ならともかく内面を知ってる女相手に取り繕う意味が分からないわね。それに貴女のフェルじゃなくて私達のフェル……ね?」
「………そんな考え方でいるから………まあ、良いです。貴女のそれとも当分お別れですからね。まぁ大目に見ましょう。」
はぁ………あの二人は時たま言い合いをしてるからなぁ。
フェテシアお母さんに唯一対抗出来るのはアリアお母さん位のものだしね。
でも、それも今日で当分見れなくなるわけね。
「お姉ちゃん。」
ああ、そういえばもう1つやらないといけないことがあったな。
「お姉ちゃんも………お母さんも………行っちゃや………。」
「もう。ワガママ言わないで?お姉ちゃんは王都で勉強しないといけないのよ。この前は分かってくれたじゃない。」
そうなの。
数日前に伝えたときは、素直に納得してくれたんだけど、昨日から急に渋りだしたの。
多分意味が理解できてきて我慢出来なかったんだとは思うけれど。
「なら、着いていく!」
「こらテリシア。フェルも離れたい訳じゃないのよ?フェルを困らせないであげて?フェルは向こうで学校があるし、……それに私にしたって向こうで仕事があるから殆ど向こうの家には帰れないわ。一人っきりは嫌でしょ?」
「………………。」
うーん。
それでも不安はあるようだ。
それなら…………。
「ほらテリシア。後ろ見てみて?アリアお母さんもレレーシュお父さんもフェテシアお母さん無しじゃ不安な人ばかりでしょ?テリシアが支えてあげて?」
「ちょっとフェル!まさか私をレレーシュなんかと同列にする気!?」
「心外だな。まさか娘にこんなアバズレクソ女と同じ扱いをされるなんて。断固として認めるわけにはいかない。」
はぁ。
「ね?テリシア?」
「…………うん。お姉ちゃん。分かった。」
うん。責任感のある良い妹。
「ほら、これお守り。」
渡したのは風の魔鉱石の原石に穴をあけて紐を通しネックレスにしたもの。
森に流れる川を歩いてるときに底に沈んでいるのを見つけた奴だ。
「これって…………ずっと昔からお姉ちゃんが持ってる大切なやつじゃ?」
実はこの石を見つけたのは、もう8年くらい前で私も年相応に光ってる石を気に入ってずっと持っていたわけだ。
風の魔鉱石は風魔法の発動の補助具になる。
これがあるだけで術句は1つ減せるし、魔法効果も微量ではあるけど上昇するから。
ちょっと大きいサイズではあるが原石のままでは効果も少ないし、そこまで値の張る貴重品でないけれど、テリシアも年相応に喜んでくれるはず。
愛着はあるが、これ以上に良いプレゼントは思い付かなかったからね。
「はい。掛けてあげるから後ろ向いて?」
「うん。」
テリシアは後ろを向く。
「はい。これで良し。きれいよテリシア。」
「ほんと!?」
「うん。……これにお姉ちゃんの気持ち入れといたから。寂しくなることがあればこれをお姉ちゃんだと思って頑張って?………ね?」
「うん!!」
よし。笑顔になってくれた。
やっぱり別れは笑顔じゃなくちゃ。
前世の私みたいに挨拶もなくなにもなく、会えなくこなっちゃうこともあるんだから。
「それにしても二人で大丈夫か?フェルもそれなりにやるみたいだけど………。」
「あら?心配ありがとうディル。一応Bランクの冒険者を4人護衛として雇ってるわ。護衛ベテランらしいし安心して良いわよ。」
よく見えないが馬車の方に四人ほど人が立ってるのが見える。
冒険者かぁ~。
ここは田舎だし初めて見るなぁ。
異世界風の冒険譚とか聞けると良いけど……楽しみだ。
「じゃ、ディル行くわね。」
「ああ。……あ、ちょっと待ってくれ。」
「なに?」
馬車に行こうとするフェテシアお母さんを呼び止めたディルお父さんはポケットから何かを取り出す。
「これは……?」
ディルお父さんが持ってるのは………イヤリング?
「いや、御守りの変わりだ。………あいつの話を聞く限りどうも僕らの後始末も絡んでるみたいだしな。……軽度だが体力回復効果もあるらしい。昔から君は休みを取るのが下手くそだからな。……適度に休みをとるんだ?…………それを見たらその事を思い出してくれ。」
「………ディルからのプレゼントは婚約指輪以来ですね………。」
「うっ………すまん。……あれと違ってこれは心のそこからのプレゼントだ。」
「………嬉しいわ。行ってくるわね旦那様?」
そう言ってフェテシアお母さんはディルお父さんに口付けした。