7話 カミングアウトします
あれから数日。
色々荷支度は済んで明日には家を出るわけだけど………やっぱりあれを伝えない訳にはいかないよね。…………私が………転生者ってこと。
気になって少しだけ勉強してみたけど、私以外の転生者っていない訳じゃないみたいだし、それに何より産まれたばかりの時と違って、今の私にはこのお父さん、お母さん達なら受け入れてくれるって、そう確信が持てるから………。
だから不安はそこまでないんだけど、切っ掛けが無くて中々言えなかった。
明日には王都に行くからお父さん達には当分会えないし……、今が一番のタイミングだと…………思う。
全員での夕食を終えてテリシアが寝に行ったタイミングを見計らい声を掛ける。
流石にテリシアに伝えるには早すぎるから、そっちはもう少しタイミングをみたい。
「あの………皆に話したいことがあるの。」
「なんだフェル?王都行きについてなにか気になるのか?」
「それとは関係ないけど丁度良かったなと思って。」
「へぇー。気になるなぁフェルの話したいことって。」
はぁ~。
確信していてもやっぱり緊張する。
確信していようが大事なことなんです。
「私………実は転生者なの。…………しかも、異世界の。」
少しの静寂ののち、まず最初に口を開いたのはレレーシュだ。
「て、転生者だと!…………しかも、古の勇者や聖女が住んでいたと言われる異世界の記憶が?」
この世界において異世界の存在はかつて存在した召喚勇者や召喚聖女の口から明らかにされており、既にある程度はこの世界の文明に影響を与えている。
フェルは日本出身ゆえ、転生者を勉強した際に一般的な転生者が異世界の記憶を持つ転生者だと解釈していたが、そんな事はなく世間一般における転生者は同じ世界の記憶を持つ者のことで、勇者や聖女と同じ異世界の転生者なんて文献にものっていない。
少なくとも異世界転生者は滅多にいるものではなかった。
数少ない転生者……中でも更にレアであろう事案であろうフェルに対して、研究肌であるレレーシュの好奇心は止まらない。
「フェル!転生者とはどんな感じか?記憶のみの遺伝か?それとも考え方や思考能力も遺伝するのか!?」
「ちょっと落ち着きなさいレレーシュ。貴方言ったわよね?……フェルは私達の娘………なんでしょ?そこのところ理解している?理解してないなら貴方でも許さないわよ?」
落ち着きなく言葉を紡ぐレレーシュお父さんを止めたのは、フェテシアお母さん。
レレーシュお父さんの暴走を止めれるのは、フェテシアお母さん或いはアリアお母さん位のもの。
「嫌だなぁ……。フェテシア~。少し好奇心が膨らんだだけだよ。………フェルの協力の範囲でなら調べても良いだろ?」
「残念。明日からフェルは帝都へ行くわ。貴方が調べる時間は無いわね。それとも貴方も帝都まで着いてくる?」
「それこそ愚問だ。僕にはそれができないって理解して言ってるだろう………。分かってるさ。まぁいい。気になることではあるが後回しだな。」
うん。
まぁレレーシュお父さんの反応は気になるが、どうやら転生者という事でお母さん達は私の事を嫌ったりはしない。
お父さん達の方を見てみると驚きこそあるが、皆私が秘密を打ち明けたことに喜んでいる。
「フェル。………貴女にどんな過去があっても、私の元に産まれ、私達の家族として育ったことには変わりないわ。フェルがフェルとして自分を偽って生きてきた訳じゃないんでしょ?………それなら私の子であり。みんなの可愛い娘よ。勇気だして教えてくれてありがとう。」
「フェテシアお母さん…………ありがとう。」
「それでテリシアには伝えるの?」
「う~ん。………今伝えても意味が分からないかもしれないし、また帰ってきたときにでも考えることにする。」
「そうね。あの娘もあの娘で賢いけど、まだ少し早いかもしれないわね。……でもあの娘の気持ちも考えてあげておいて。」
「うん。」
「さぁ。明日は早くから出発るのよ?早めに寝なさい。」
「はい。お休み。お父さんお母さん。」
少し時間が経ち、空気が弛んだ食卓でライシュが声をあげる。
「まさかフェルが転生者とは……しかも異世界の……。」
「別に良いことじゃない。……ああ。私も今の記憶を持ったままやり直したいわよ!それだったらあの時にあんなことにならずに済む方法位思い付くのに!」
「アリア……お前まだそんなこと言ってんのか?」
「言うだけならただでしょ?そもそもあんたらが暴走しすぎなければ!」
アリアとキュルェの口論が加熱していく中、ディルが呟く。
「にしても、それが原因かもな。」
「?どうゆうこと?」
「いや、フェテシアも理解してるだろうけど、フェルが今までこの家で教わったことは………その…かなりあれだろ?フェテシア式の勉強にレレーシュの研究、ライシュの剣にキュルェの魔法、ついでにアリアの………あれは…何て言うのかな?人心操作術か?」
「ちょっと!人聞き悪い言い方しないでよ!私はただ、しょうもない寂しい人生を送ってる人間に愛をあげてるだけよ!」
「いや、取り繕うなよ。……相手は複数人だし、見返りない奴は余り大切にしないだろ。」
ライシュの冷静なツッコミが入るが、それはアリアにスルーされる。
「なるほど。つまりはフェルが異世界の記憶を持っていたがゆえに、この世界の常識とそれ以外の判断が付かなかった訳ね。曲がりなりにも村に行ってたりして違和感くらい持ってもおかしくなかったけど、…あの娘も護衛が居ることやアリアやライシュ達の存在は不思議に思ってたみたいだけど、それ以外は違和感感じてなかったみたいだしね。…………それで実際あの娘の実力はどれくらいなの?」
フェテシアの質問にライシュとキュルェが驚く。
「「ぇ?」」
「これから人の多い帝都に行くのよ?母親としてその辺を把握しておかないと色々厄介なことになりそうだしね。……ほら、私はその辺は専門外だから。」
実はこの瞬間ライシュとキュルェの心の中では驚愕に包まれていた。
目の前にいるフェルの実の母親フェテシアがフェルの強さがどのくらいか理解していないと言っているからだ。
二人は、てっきり何でもそつなくこなすフェテシアはフェルの実力について細部まで理解していてその上で自分達に任せている物だと考えていたからだ。
実際の所はフェテシアはあまり理解しておらず、やり過ぎてしまった護身術という、武の心得を持つ一般人の領域を出ていない物だと思っており、だからこそやり過ぎ無いように適度に注意しつつ、二人に指導を任せていたわけではあるのだが…………。
何だかんだでフェテシアの奴も元お嬢様ってことか。
ぶっちゃけて言うならフェルの強さは一般のそれを逸脱したレベルだ。
フェル自身も自分の強さを一般冒険者に毛が生えた程度だと思っているようだが…………そして、それを見て育ったテリシアも……。
二人の頭の中にはどうやって切り抜けようかという算段が張り巡らされる。
ライシュがおずおず答える。
「ど、どうだろうなぁ~。俺らも王都を離れて随分経つし、比べる相手がいないからなぁ…ぁ……。な、なぁキュルェ?」
「ちょっ…おまっ!俺に振るなよ!?…………………まあ、俺らも王都を離れてかなり経つし、ブランクもあるし、そんな俺らよりは弱いわけだから………せいぜいちょっと強い衛兵位の強さじゃないか?」
汗をダラダラかきながら答える。
「はぁ。戦闘技術を習った大の大人並みに強いのであればやり過ぎですよ。………はぁ~。まぁフェルに自衛能力があることは帝都に行くということも含め良いことですから赦しましょう。」
「「アハハハ。(危な!これでギリギリセーフだったのか!)」」
そんな二人にディルが助け船をだす。
「それにしても、フェテシアこそ大丈夫か?貴族らしいことなんて久しぶりだろ?」
「あら?誰にものを言ってるか思い出してもらえますかディル?いえ………………ディル様?が正しかったでしょうか?」
「あぁ!もういいそれ以上は聞かないし!聞きたくないから。………はぁ~。君には必要ない心配だったな。」
「では、私も明日、朝早いのでお先に。」
そして、フェテシアも食卓を出て寝室に向かっていった。
するとそれを見計らったようにキュルェが話し出す。
「で!実際の所どんな感じな訳?ライシュ?」
「……う~ん。どうだろうね。実際の所、王都を離れてから長いから今一分からないというのもあながち嘘じゃないしな。」
「まぁな。とはいえ……………魔法だけでも、レルモンド王国の魔法の権威である宮廷魔法師の平均より上なんじゃないか。まぁ、奴等は実戦派じゃなく研究メインだけどさ。……しかもフェルが開発した魔法のいくつかは俺ですら扱えないものもあるだよな。…………剣はどうだ?」
「衛兵どころか…………騎士団の……しかも近衛騎士団よりも実戦派の王国第一騎士団辺りの隊員よりも強いと思う。流石に騎士団団長や一部の超実力者には劣るだろうが………………。」
「あんまり人の娘を魔改造してくれるなよ?僕はフェテシアよりは理解あるが、数日前なんか僕の目の前で魔物を瞬殺してたし。」