5話 選択肢
森でランチをしてから3日経った。
ここ最近はやけにフェテシアお母さんが忙しそう。
ディルお父さんもなんかそわそわしてるし………、3日前に来たお客さんの話は良くない話だったのかな?
それに他のお父さん達も何かと最近は構ってくれる。
嬉しいけど…………ちょっと不安。
そんな今日日夜に寝ようとしているとフェルはフェテシアとディルに呼ばれる。
もしかしてお母さんが実家に連れ戻されたりとかなのかな?
それとも私は捨てられてしまうんだろうか?我が家の経済状況的は大丈夫だと思うけど、異世界特有の風習何かが絡んでくるんならどうしょうもない………。
心が体に引っ張られてしまい、お母さんとかよりも長い人生を生きているのに嫌な予想ばかりが頭をよぎる。
「フェル………大事な話があるの。」
!
私はついぞさっきの予想が当たってしまったかと肩を震わせる。
「私ね。昔の関係でどうしてもこの村を出なくちゃ行けなくなったの。それでディルや他の四人はちょっと理由があってこの村を出ることが出来ないの。」
…………私が捨てられる訳じゃないみたいだけど、やっぱりお母さんは実家に連れ戻されるの?
フェルはそれでも母の話を最後まで聴かないとと思い涙で潤んだ瞳をフェテシアお母さんに向ける。
「それでフェル………貴女も着いてこない?王都に行くの。フェルの世界が広がると思うのよ。」
「へ?…………私?」
フェテシアお母さんから出た思いもよらぬ言葉に思考が追い付かない。
「勿論フェルが嫌なら無理は言わないわ。近い距離じゃないし、いつでもすぐに帰ってこられる訳じゃないもの。でも、私としてはフェルには同年代の友達を作って欲しいのよ。キュルェの件でも分かったけどやっぱり同年代と一緒に生活することが良いと思う。」
「…………フェテシアお母さんどっか消えちゃう訳じゃないの?」
躊躇いながら言葉を口にする。
するとフェテシアお母さん一瞬何時ものクールな表情が崩れポカンとするとまたすぐ表情を変えて優しい顔で語りかけてくる。
「ふふ。どうした私の愛しのフェル?私が貴女の前から消えてなくなることはないわよ?そんなの国王様でも許さないわ。ただ少し王都の知り合いが仕事を手伝って欲しいって言うから助っ人に行くの。ただもし、フェルがここに残るなら会える頻度が減っちゃうんだけどね。」
つまりはフェテシアお母さんに着いていくと他のお父さん・お母さんとは毎日会えなくなるが学校には通える。
逆にここに残るとフェテシアお母さん以外の両親にはいつでも会えるってこと?
…………家族皆で一緒にいたい。
「お父さん達は来れないの?」
「すまないフェル。昔の僕の問題なんだ。一緒に行ってあげたいが中々に思うように行動できなくてね。」
「まだ子供のフェルがすぐに決められることじゃないことは分かってるわよ。あと2日あるから明日いっぱい考えなさい。」
このままその日はペットで横になり考える。
だけどフェルの考えが纏まることはなく、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
「…………おはよう」
朝になって二階から降りリビングに向かうと珍しく家族が全員いる。
何時ものようにフェテシアお母さんの料理を食べる。
私の選択次第ではこの料理も当分食べられなくなるのかと寂しい気持ちになった。
「よし!フェル、狩りに行くぞ。」
「お!俺も行くわ。」
そう声を掛けてきたのはキュルェお父さんとライシュお父さん。
「う、うん。」
考え事中で、思わず返事をしてしまったが、元々キュルェお父さんと身体を動かすのも、ライシュお父さんと魔法をぶっ放つのも好きなので問題ない。
「キュルェさん~?分かってますよね?フェルは女の子ですから。」
「あ、あぁ……。分かっている。」
キュルェお父さんは何かフェテシアお母さんに怯えているように見える……………。
お母さんとしては恐らくもっと慎みを持って女の子らしくしろと言うことだとおもう。。
だけど、身体を動かすのは好きなわけで………、申し訳ないとは思ってるんだけど………。
目の前には地球ではあり得ない全長5mはあろうかという大熊。
タイラントベアーと言う名前の魔物が私目掛けて爪を振り下ろす。
そして、その間に剣が差し込まれる。
「弾くぞ!」
「オーケー。[氷-矛よ-螺旋でもって-射ろ]!……あとは決めてくれ。」
ライシュお父さんの掌には氷の塊が精製され、捻れるように萎んでいき先端が尖っていく。
これは[氷]で属性指定して、[矛よ]で形状指定、[螺旋でもって]で横方向への回転をプラスし、[射ろ]は直線上に高速で打つと言う命令を持つ魔術だ。
一般的に[アイスアロー]と呼ばれる魔術に横方向回転指令をプラスし、威力の指定を無くした物で、簡易化強化版[アイスアロー]とでも呼べるような代物だ。
因みに[氷]とか[射ろ]等の術句は、あくまでも個人それぞれが最も自分のイメージに最適である言葉を選び、その効果を自分の中で固定化することで、本来イメージしながら発動する部分を言葉を喋るのみで発動できるようにしているわけ。
だから別に言葉でなくても、指を翳せばそこから魔法を発動すると自分の中のイメージを固定化すると特に意識しなくても、指を翳せばそこを起点として魔術が発動するようになる。
更に親指は火・人差し指は水とか使い分けもできるようになる。
とはいえ、こっちの方は言葉みたいに直ぐにイメージを固定化できるものでもないからかなりの時間がかかる。
イメージからかけ離れればそれだけ魔術発動難度は上昇するから、それだけ多くの術句や動作、場合によっては儀式や術式・素材なんかも駆使していくことで、高位の魔術発動の補助としていくわけ。
勿論、繋げる術句や動作が増えていけば行くほどそれを上手く繋げることに対する難度は上がっていく訳でもあるけど。
私は大体繋げれて20~25句、ライシュお父さんは30句近いと教えてもらった。
因みに魔導学の基礎は、この術句や魔術発動補助動作のバリエーションを増やしていくことなんだ!
以上、フェル先生の魔術発動基礎講義でした!
という事で先程の続きに戻ります。
回転しながら高速に射出された氷柱は、剣で弾かれて崩したバランスを立て直そうとしているタイラントベアーの足に刺さった。
貫通しないで氷柱がタイラントベアーの足に残ったままになっている。
これは貫通しないようにわざと威力を抑えたんだろう。
威力に関する術句や動作は無かったように見えたから、恐らく自分の勘で使用魔力量を調節したんだろう。
術句を1つ削って、その部分はイメージのみで補完したんだ。
そのお陰で発動までの時間が速くなり、魔力の魔法変換効率も上がるわけだ。戦闘では特に大切な技術になる。
流石はライシュお父さん。
当然タイラントベアーはまともに立つことも出来ずに片膝を付く。
そしてそこに忍び寄るのは小さな影。
「任せて!」
フェルの小さな手から放たれる一撃はタイラントベアーの首の分厚い毛皮を貫通し、首の骨を切断した。