1話 村護衛の依頼
主人公とヒロインが出会う2ヶ月前のお話
ここは一人暮らし仕様の1Kの、洋室。
机の上には食べ終わった食器に、まだ中身が半分残っているカップが1人分置かれていた。
そこに一人の少女が服を着替えていた。
壁には壁掛けの黒いテレビが備えらていた。テレビの電源は付いていて朝のニュース番組をしている。
テレビの中では女性キャスターと男性キャスターがニュースを読んでいた。
インターネットや魔法による情報の取得が安易になっている今日の世界でも、テレビによる情報源は、用事をしなが耳で聞き、目で見えるものとして欠かせなものである。
女性キャスターが話し出す。
『今朝のピックアップです。
ここ半年で多発している連続村壊滅事件について、 10日ほど前に発生しました、北平村に対しても本格的な調査が聖魔法科学評議会により昨日始まりました。
今までの評議会の調査報告によりますと、幾つかの闇ギルドが関与しているとのことです。
襲撃を受けいている村の殆どは、魔法鉱石<パラトーン>を始めとする鉱石が主に採掘されている地域でもあり、これまでの事件が及ぼす被害額は相当なものになり、産業界全体に大きな影響が出ているとのことです。
次の話題です―――』
「あ!! 早く行く準備しないと!?」
途中まで脱いでいた服を脱ぎ、昨日出来上がった真新しい服に袖を通す。
白に近い水色の髪が長い少女。
「今日から正式にギルドのメンバーで働ける! 頑張るぞ!」
カバンを持ちそしてドアを開けた。
[1]
春の心地よい風を感じる季節。4月の初旬あたり、この時期は企業や会社では入社式、学校などでは入学式など行われいるだろう。それはギルドとてこの世界では会社のような物、無論入会式という新人が入ってくる式典が存在する。
ここ光和国はユージニア大陸の東に位置する国で2つの国に隣接すし、1、2位を争う経済大国である。
数ある国のなかでもこの国は魔法と科学技術が均等に成長した国の一つであり、近代的な建物が立ち並ぶ風景が伺える。しかし、全ての地域がそういうわけではなく、発展途上の地域も存在している。
今見える風景は、鉄筋コンクリート構造の建物やガラス張りのビルが立ち並んでおり、より近代的な街並みである。ここはこの国の首都光都。その都心部から少し離れた、小高い丘の上にある、大きめな聖堂風の建物である。
周りには桜色の花が咲いている。
そう、ここがこの国でトップクラスの実力を持っているギルドのうちの一つ、その名も光の三柱<通称:ライグル>。
今日は入会式。毎年春ごろになると学校を卒業した者や、己で鍛えた者たちが大勢ギルドに所属する日である。この建物の中には30人ほどの人が新人を囲っている。今回新く入ってくるのは15人ほど、その子達を祝っているようだ。
――と、一人で入り口から右方向にあるカウンターの椅子に座ってる、黒いロングコートを着た男。無愛想な顔をしているが目鼻立ちは整っている。
「今日は一段と賑やかだな……」
「まぁ、まぁ、しゃーなかろう、深龍」
「はぁ……」
深龍この物語の主人公。その深龍の後ろから一人、身長約90cmと、背の低い小柄なおじいちゃんがそれに答えていた。口の周りには灰色の髭を生やし、ニコニコと笑顔なお爺ちゃん、ここのギルドのマスターである。
ギルドマスターはカウンターの机の上に座っていた。行儀が悪いと思うかもしれないが、いつものことなので気にしていない。
「そりゃぁ新人が入ったからのぅ。みんな嬉しいんじゃよ」
「入会式って朝でしたよね?
それを避けて来たつもらっだんですが……」
今はお昼を回って少し経った頃だ。
昼食を取りに外出したサラリーマンがもう会社に戻っている時間帯だ。
「昼食もここで食べれるからのぉ」
「はぁ、
それより、マスターはあちらに行かなくていいんですか?」
「なぁに、こんな老いぼれ邪魔だろうに。あの学校の卒業生だとよ、深龍の妹もいるぞ〜、ここでも深龍の後輩じゃな」
とニコニコしなが言うマスター。
あの学校とは、この国に10存在する光稀科学魔法科学校のことを言っている。深龍の妹もこのギルドに所属することになった。
「自分は仲間意識ないのですが」
「ギルドはみんな、仲間。家族みたいなもんじゃろ?」
「俺には関係ないです」
「そぉかのぉ」
深龍はちらりと賑やかな方を向いて、すぐに手に持つグラスに視線を落とした。
(仲間なんて……)
「ところで、最近の依頼<クエスト>の方はどうだ?」
髭をいじりながらマスターが聞いてきた。
多分――最近、調子はどうだ?――と聞きたいのだろう。
「特に変わりはない。討伐系は少し――、退屈な気がするな」
一瞬妹の声が深龍のことを呼んだように感じ、集団の方を向いた。
だが妹は人気者らしく、俺を見て手を振るがすぐに人にうもれてしまう。
妹の人気者ぶりは学生時代から変わらないようだ。
「そうか。じゃぁ、いい仕事がある」
俺はとっさに顔をマスターに向けた。
顔をマスターに向ける前に集団の中にいる一人と目があった気がしたが、俺は気に留めなかった。
するとマスターはカウンターから下りて、床を蹴って2階に上がった。
深龍はそのあとを階段を登り追いかけた。マスターは二階の部屋の奥、右奥の扉を開けて入って行った。深龍もその後ろを付いて行った。
この部屋は単なる倉庫、樽や木箱、鉄製の棚の中にはいろいろな品が並んでいる。そして、樽の机に椅子が2つ。深龍は扉に近い所に座った。
実はこの倉庫――。
「お前に頼みたい依頼が来ててな」
「依頼ですか?」
個人を指定しての依頼。珍しいものだ。
この場所は倉庫ではあるが、表では話しにくい依頼を相談する場所でもある。
「ある村の護衛をして欲しい」
「護衛ですか? 村の護衛ならギルドの魔導士じゃなくて軍隊の方がいいのでは?
この国の軍隊はかなり、強いはずですが?」
なぜ、そう思うかというと。
普通小規模の警護や護衛では、軍隊に比べて対応力や速戦力に優れた魔導士の方が優先されることが多い(例外はもちろんある)。
だが、村や街、国など規模が大きと軍隊や警察の特殊部隊のような統一がとれた方が警護や護衛、戦闘などが適している。それに最近の軍隊は対魔導士の兵器も開発されており装備も充実している。そのため魔導士相手にも難なく戦闘ができるはずである。
「実は、その護衛をして欲しい、村ってのが、内のギルドにちょっと深く関わってての」
笑いながら話すマスター、それを冷たい目線を送りながら深龍は答えた。
マスターがこう言った話で笑うことは滅多にないのは深龍は知っている。なにか裏にあるに違いないと。
「で、本当はなんなんですか?」
「隠すのは無理かぁ……」
はぁ、と溜め息を漏らすマスター。数年もお世話になっているマスターの考えなど、直ぐにわかるものだ。
「お前も知っておるやろ、最近ある闇ギルドが変な動きをしているのを」
「えぇ、確か村狩りですよね。今朝のニュースでも報道されていました。未だに足が掴めないとか」
「なら話しが早い。
ここ1年で10近くの村や街が半壊や全壊し、かなりの被害が出ておる。そして、それを察知した評議会が8つの村を調査をした。するとある規則性が上がった。そしてその規則性に従って軍隊を配置したのだが……」
マスターが口籠る。いい報告ではないようだ。
「まさか全滅なんてことは……、」
「そのまさかじゃぁ。
表には出ておらんが……な、」
確かに、軍隊が全滅したなんて聞いたらとんでもない。国の信頼が損なわれかねない。
「で、ギルドに依頼が来たと」
「あぁ、議会側からな。
で多人数でも対抗出来る君に頼みたいという事だ。
敵は毎回100〜200人で攻めて来ているそうだ。受けてくれるか?」
少し考えた。いくら多人数相手を得意としてる深龍だが、軍隊が全滅では厳しい所がある。
先にも言ったように、この国の軍は魔導士相手に対して有効な兵器などを数多く保有している。決して弱いわけがない。それに対魔導師戦闘に特化した部隊も存在する。軍隊を上回るほど統率の取れた集団。
「敵の正体は判明しているので、闇ギルド《ブラッドスコーピオン》。
かろうじて生還した兵士の話しでは、凍傷や凍死した兵士もいるらしい」
「ブラッドスコーピオン、それと凍傷や凍死ですか……」
少し、深龍は俯き考えた。
凍死、氷の魔法でもなかなか凍死することはない、それと闇ギルド血の蠍。
ギルドとは本来正規の手続きをして国から許可が出ないと運営することが出来ない。基本的に国や街から伝って来る正規の依頼を受け持ち依頼をこなす。
闇ギルドとは非正規ギルドとも言い、表には出回らない裏の仕事をしているギルドが殆ど。仕事内容は普通に運搬や護衛といった正規の依頼の他に、暗殺から窃盗など多彩だ。
そのギルドは深龍が訳あって調べている闇ギルドでもある。そして俺深龍は顔を上げたマスターを見た。
「どうだ?」
「いいでしょう。それに少し気にしていた闇ギルドでもありますし」
「ありがとう、場所はグレントウ村、レッドクリスタルや紅蓮鉱石などが有名な村じゃよ」
すると深龍は机を叩いて立った!
「本当ですか!それが手に入れば研究が最終段階に進み量産が――!」
いままで深刻そうな顔をしていた深龍のテンションが跳ね上がる。
「おお、落ち着きたまえ、じゃぁ報酬は鉱物資源でいいかな?」
「もちろんです!」
マスターがそう言って交渉は成立。深龍はその村の護衛をすることになった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
深龍はマスターから依頼を受け、その準備のために家路についた。
一般的な家であるが、ガレージや、地下室など他の家より大きな間取りとなっている。
正門から入り自分の部屋に入ると、早速いろいろと準備を始めた。
部屋は比較的大きな部屋だ。右側には本棚が天井まであり、500冊以上は余裕にある。化学、歴史、学問、魔法書などなど研究本など、たくさんの本が所狭しと並べられている。
深龍は向こうの村で使うための機材や、研究に必要な物、そして必ず来るであろう敵に対しての武器、装備の準備などを始めた。
大方準備し終えた辺りでドアから『トン、トン』とドアノックする音がした。
「お兄ちゃん、入るよ」
ドアを開けて入ってきたのはショートの青い髪が特徴な妹の星那だった。
家には深龍とその妹の星那しかいないので、誰が入ってくるかは限定される。
「帰ってたのか?」
「うん!今帰ってきた所」
作業している手を止めて星那の方をむいた。
「もう、ギルドの方はいいのか?」
「もう終わったから〜、それに前から知ってるからね〜」
学校を卒業する前から、インターン的な感じで自分の希望するギルドに行くことが出来る。
面接があり、入れない場合もあるが、星那場合は問題なく入れたそうだ。
「あ!!そうそう結構可愛い娘が居たよ〜。ほんとに天使みたいで、ワホワホしてて
ストレートの髪の毛で、薄い水色で、もうお人形さんみたいで!!とにかく可愛いの!」
テンションが上がっている。とてもかわいい子だったのだろう。
「そうか、一緒に組むのか?」
「いやぁ……、それが……、なんか男の人の勢いが凄すぎて……」
「まぁ、そうだろう」
うちのギルドで女性の魔導士は全体の3割ほどで、ほとんどがパートナーが居ない。
そうなれば、言い寄る男性も少なからずいるだろう。
それにパーティーに女子がいれば男ばかりのパーティーより花があるだろう。
星那は深龍が準備しているのを見て、訪ねてきた。
「これから仕事?」
「あぁ、今回は久しぶりに長くなりそうだな」
この世界では、クエストや任務も仕事の中にはいる。
一つの会社としてギルドに所属しているからでもある。
「そっかぁ……」
軽く顔を下にむける。その顔は少し寂しそうな顔をしている。
稀に深龍は長期の任務で、家を留守にする事が少なくはない。慣れてはいる星那であるが、寂しいの当たりまえだ。そんな星那の方に深龍は歩いて行く。
「明日の朝出るよ。長くても一ヶ月したら帰って来るよ、星那」
星那が深龍の接近に気がつき顔をあげた、それと同時に深龍の手が星那の頭をさわり、撫でた。星那が頰を赤らめる。数回撫でると、星那は顔を上げた。
「わっかたよ、兄ちゃん!」
「あ、そうだ念のために あれ のスイッチをオンにしておくから」
「まだ試作機じゃ?」
「一応実戦には出れるように調整はしとくから」
「うん、わっかた!」
[2]
次の日の朝、俺は家を出た。目的地まではかなり遠いためである。
駅から大陸間高速鉄道で炎黄地方行きに乗り2時間。
炎豪駅で、魔動機関車に乗り換え3時間。
終点、ホウエン駅にやっと着き、さらに今回の依頼の名前の村に行くのに馬車で揺られること1時間。着いたのは午後3時頃、村長達数名が出迎えてくれた。
みんな目を見開いていた。俺が持って来た荷物の量に。
背中に背負うリュックに1m四方の台車に乗る3つの大きな鞄。
大概の物は魔法で異空間か別のところから持ってこれるが、精密機器は異空間に置くと誤作動などで予期せぬ動作があるから、運ぶのはなかなか難しいものである。
「わざわざ、遠方からご苦労様です」
「いえいえ、これぐらいまだ大丈夫ですよ」
大丈夫なのは1日や1週間かかる場所にも行くことがある。(高速鉄道や航空機などもあるが、場所によっては引かれていない、飛んでいない地域もある)
軽く挨拶を済ませ、村長の家に向かうことにした。この時、村長の顔が少し懐かしそうな顔をしていたが、深龍はそれに気がつく事はなかった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
村のほぼ中心に位置する村長の家。
村で一番大きい建物である。家の中に入りリビング案内された。リビングからは風情ある庭園、中庭が見える。ここに来る途中で他に一緒にいる人とは一旦別れた。
「まぁ、腰をかけてくれ」
深龍はテーブル越しである、3人掛けのソファーに座った。
すると、10代ほどの細身の黒髪ロングストレートの美少女がお茶を持ってきてくれた。
「どうぞ。お爺様も」
「ありがとう、ゆりあ」
深龍も軽く礼した。
どうやら村長の孫娘のようだ。深龍は村長と二人になったところで、話を始めた。
「改めまして、《光の三柱》から来ました天翔 深龍です。この度は、ギルドマスターから直々に任務を預かりました」
と社交的な挨拶を交わす。
「こちらこそ、ありがとうございます。
天翔っというのはあの《八方星師族界》の一つの天翔家ですか?」
「えぇ、まぁ」
天翔家
この世界において、家系、血筋は魔法に対して影響力が大きい。その中でも特に秀でた家系を《師族》と呼称している。名前に数字や自然を意味する言葉が入る家系はが多く存在していおり、数字の場合は若いほど能力が高いといわれている。
その中でもなんらかの目的を持った一定の師族の集まりのことを《師族界》と呼称し、八方星師族界とは天翔、聖嵐、地羽、闇冥、北城、東城、西城、南城の八つの師族からなり、他国にもその名は知れ、世界ではユージニア大陸最強と名を馳せる師族界であった。
だが10年前、深龍が8歳の時に師族抗争により事実上完全に崩壊した師族界の一つである。
「そうですか。ところで……」
何かを言いたそうな雰囲気。だがなかなか喋らないので、こちらから聞いた。
「何でしょうか?」
「村の護衛の方は……、天翔さんだけでしょうか?」
(予想はしていたが)
「えぇ、まぁ。
でもご心配なく。
自分で言うのもあれですけど、20人ぐらいなら軽く相手出来ますし、それに色々と準備もしてきました。最終的には一人で戦うわけではないので、ご安心ください」
「そうですか」
村長は些か不安そうな表情をしているが、仕方ないことだ。そもそも深龍には仲間といえる人物は同ギルド内には一人としていない。それに何年も仲間や友といった人物は作っていないし、一人で任務をこなしている。
一人で動く方が、圧倒的に楽であるからだ。仲間を作ってしまうと、彼らの事を考えなといけない。その分戦闘になった際に、手間をかけてしまうからだ。
「万が一、敵が攻めてきた時用にいろいろ準備したいので、この村の全体の地図などを見せてくれますか?
それと部屋を一室。出来れば大きめな部屋を貸して頂けないでしょうか?」
「わかりました。では地図は後で持ってきましょう。部屋は地下室はどうでしょう?昔使ってた実験室で広さも十分あります。どうですかな?」
「えぇ、十分です。ありがとうございます」
村長から地図を渡され、深龍は、敵が襲撃してきたときの避難経路や防御魔法の設置場所、その他もろもろを、夜遅くまで村長と村の警護をしている人たちと考えていた。