検索呉
まさかの親父が見つからない結果となったゲームに疲れたところで夕食となった。
国営放送を見ながらの夕食はうちのスタイルだ。お、今日は中華メニューなんだ。
今日はタイムリーな事に三国志に出てくる英雄の子孫を特集したものだった。
諸葛亮や関羽など有名どころが紹介されていく中、じいちゃんが吹いた。
「ぶふぉお!!」
おいおい汚いな。麻婆豆腐が散乱したじゃないか。
「きゃあ!お義父さんきたない!」
うちのママンが抗議の声を上げる間、じいちゃんは噎せて苦しそう。
背中をさすってやると少しは楽になったようだ。
「悪い、悪い。TV見てたら衝撃的な事が画面に映ってたからな。豆腐が変な所に入ってしまった。
あ~びっくりした」
「何に驚いたんだよ親父。そんなに驚く事なんかあったか?」
「それがな、曹操の子孫が出てきてたんだが、家系図でびびった。曹操の子供曹丕、曹叡と出てきて
1000年以上飛んで清時代の作家が出てきて吹いた。いくら何でも飛びすぎだろ!しかも有名な
作家じゃないか。曹雪芹って!曹雪芹が曹操の子孫だなんて聞いた事ないぞ。・・・・・・ああ、
いやもしかして中国ではそういう認識なのか?俺が知らないだけで」
「はあ・・・お義父さんそれがどうしたの?」
「いや、おかしいだろう。家系図飛びすぎだろ?間の子孫の名前は伝わってないのか?何で有名な
人間は記録に残ってるんだろう?そう思わないか?本当に子孫なのか?まあ、曹操といえば悪役の
代名詞だからその子孫という事は隠したかった。ってのは判る。三国志演義の影響だよな」
じいちゃんはTVに出ている曹操の子孫だと誇らしげに説明しているおじいさんの事を懐疑的に見て
いるようだ。まあ、信じられないのも分からなくもないかな?
そう思いながら春巻きを齧った。旨い。さすが四千年の歴史を誇る料理だ。
「春巻きって名前はせいぜい100年くらいしか歴史が無いんだよな。しかも中国料理じゃなく
イスラム系の料理が源流なんだよな。しかし旨いな」
なん・・・だと・・・。
に、してもだ。じいちゃん変な事知ってるな。
気になったので自室のパソコンでちょっと調べてみた。
春巻きの事ではない。曹雪芹って人の事だ。
ああ、紅楼夢の作者か。以前読もうとしたけれど一巻で諦めた奴だ。
曹雪芹が曹操の子孫説ネットでは否定的な意見があるみたいだけれど、TVに出ていたおじいちゃん
のDNAの結果は曹操の子孫の可能性が高い。との事。
これもあくまで可能性の話みたいだ。
この事について面白い事も書かれていた。
おじいちゃんからは曹一族のDNAが出ていると云うこと。
一般的に言われているのは曹操の父親、曹嵩は夏候氏からの養子。ならば夏候氏と同じDNAが
出てくるはずなのに曹氏のDNAが出ている。もしかしたら夏候氏から養子ではないのかも知れない
。
なーんて事が書いてある。面白い。おじいちゃん本物の子孫っぽいんだな。
・・・私の子孫は今存続しているのだろうか・・・。
それにしても曹操=悪役のイメージは後の世の感覚なのだろう。私の生前のイメージは確かに漢の簒奪者
なのだがそれは私が呉の人間だからなのだろう。そして晋に仕えた者としては複雑な気持ちも持たざるを
えない。
呉が滅びたときに晋の武将から「祖国が滅びて悔しくはないのか?」と聞かれたが、「魏は呉よりも先に
滅びている」と返答したものだ。魏を滅ぼした晋の事を悪くいうことは当時は憚られたが後世でもそれを
悪く伝えてはいない。魏の滅びの原因となったのが皇族の権力の弱さだと言われることがある。
それを教訓にした晋が皇族の反乱によって南に逃げなければならなくなったのは皮肉としか言いようがない。皇族が罪を犯しても咎めはするが裁かれないような事があるようでは先が思いやられると言うもの。そりゃ大臣が皇帝の椅子撫でて「ああ、この座がもったいない」とか言うよ。
皇太子が暗愚でも皇帝にしてしまう甘さが皇族にも浸透したのか?
私も皇族に憎まれたお蔭で勝ち目のないいくさに赴く事になった。
その後の歴史で八王の乱を引き起こし呉の地に下るのだから愚かとしか言いようがない。
しかも晋を滅亡に追い込んだ北方騎馬民族の起こした国に皇族が亡命する事態まで起こしている。
中国の歴史で北から来る勢力は[悪]のイメージであり、曹操もそれに巻き込まれた結果、悪役の地位
に据え置かれたのだから堪ったものではないだろう。冤罪もいいところだと思う。
そんな感じの事をパソコンの前で妄想していたら、お父さんがノックして部屋に入ってきた。
明かりが漏れてしまっていたか。
「だいぶ遅い時間だぞ、そろそろ寝なさい。明日が辛いぞ?」
「うん、わかったおとうさん」
親が子を心配するのはいつの時代も同じだよな。
今日はこれで就寝するとしよう。そうだ、明日あの女の子に俺から話しかけてみるかな。
曹操の子孫の事を。
参考資料:張競著 中華料理の文化史 ちくま新書
面白い本ですよ。