09
「ごめんなさい!」
「全くだ!」
私と強奪少年の間に入った金髪少女。
剣を抜いていたので、思わず追いかけるのをやめてしまった。
話を聞くと、助けを請いながら逃げる少年と、それを追いかける悪党・・・と思って中に入ってしまったらしい。
「はぁ・・・。見失っちゃった・・・。」
「あの・・・。本当にごめんなさい・・・。」
「まぁ、うん・・・。良いよ。」
私はしないが、状況だけ客観的に見れば、少年を追いかける黒い服を着た人が全力で追いかけていたのだ。
確かに悪役っぽい。
この世界の警察組織の騎士団は、一応被害報告をすればある程度対応はしてくれるが、取られた物が帰ってくる可能性はゼロに近い。
つまり、諦めるしかない。
「それじゃ、今後は気をつけてね。」
「あっ!待ってください!弁償を・・・。」
「貴方が取ったわけじゃないし、とられた私も非がある。大丈夫。」
「そ、そんな・・・。では、何か手伝える事はありませんか!?私に出来ることなら何でもします!」
がっくりと肩を落とす少女。まぁ、少しばかり可愛そうな気もする・・・。
「あ、じゃあ、買い物手伝って欲しいな。」
「勿論です!荷物持ちだろうと、なんだろうとやらせてください!」
っと、言うわけで荷物持ちが出来た。
彼女の名前は。アリス。この世界でも割とポピュラーな名前だ。そこはかとなく猪っぽいなぁ・・・と思った。
買い物を手伝ってもらえるということなので、行く予定だった店を聞く
「じゃあ、武器を扱ってるお店に行きたいのだけれど。」
「武器・・・ですか。ええと・・・、少し離れますが、私の孤児院の近くにドンさんの鍛冶屋があります!」
「じゃあ、そこに案内してもらえる?」
「はい!こっちです!」
アリスに続いて裏路地を歩く。
「あの、本当にすいませんでした・・・。」
「もう過ぎた事は仕方ないよ。」
「うぅ・・・。張り切りすぎてしまった・・・。」
「?そう言えば、剣を持ってるけど、騎士?」
アリスが持っているそこそこ長いレイピア。いくら治安が悪い裏道とはいえ、剣を携帯するのは穏やかではない。普通、剣を持っているのは騎士団か、ギルド、強盗などくらいで、街中にぶら下げている人は少ない。
「いや、私はまだ騎士でもなんでもなくて、その・・・。」
「?」
「・・・恥ずかしい話ですが、今度の騎士団試験に挑戦しようと思っているんです。」
お、奇遇。どうやら彼女も騎士団の試験を受けるのか。
「あら、私も試験を受けようと思ってるの。」
「そ、そうなのですか・・・。」
「うん。あっ、敬語話で良いよ。私の方が年下みたいだし。」
「・・・。ありがとうございます。」
盗人の片棒を知らずとはいえ、担いでしまった負い目もあるのか少しばかりぎこちない。
何か共通の話題でもないだろうか・・・。
「そう言えば、騎士団の試験を受けるって言ってたけど、剣を持ってるって事は実働部隊?」
「えぇ、そうしようかと・・・。」
「私もよ。お互いがんばりましょう。」
そう声を掛けると、朗らかに笑顔を浮かべた。
「そうだったんですね。えっと・・・。」
「あっ。私の自己紹介がまだだったね。シズよ。気軽にシズって呼んでちょうだい。」
「分かりました!私のこともアリスと呼び捨てにしてくださいね!共に試験をがんばりましょう!」
ガシッと手をつかまれ、まっすぐな瞳でそうこちらへ訴えかけるジャンヌ。しかし、すぐに手を離してしまう。
「あっ・・・。すみません、急に。」
「大丈夫。少しびっくりしたけど・・・。」
結構熱のある子だ・・・。
「さっきアリスは孤児院って言ってたけど・・・。」
「はい。王都の聖堂協会直轄の孤児院の出です。今回の騎士試験に合格したら・・・。ですけど。」
どうやらアリスも孤児院出身らしい。
うんうん、同じような出身である私はかなりシンパシーを感じる。
「そう言えばアリスは剣が使えるの?立派なのを持ってるけど・・・。」
そう、彼女が最初に向けた剣。遊びや装飾がない、無骨なレイピア。
前世でも流石に使った事が無いタイプの剣なので、少しばかり興味もある。
かろうじて保持しているレイピアに関する知識は、切るより刺す剣・・・という事くらい。
鎧通し・・・という技術の名前くらいは聞いたことがあるが、かなりの上級者で無いと扱えない武器だと聞いたことがある。
「えぇ、この後に行く加治屋さんが教えてくれたので、ある程度は自信があるんですよ!今は持ってないですけど、ボウガンも使えるんです!」
「へぇ・・・。ボウガンか・・・。」
ここで耳寄りな情報が入ってきた。ボウガンか・・・!実に気になる!
「そのボウガンって、私も買えるかしら?」
「あっ・・・。ちょっと分からないです・・・。他の人からしたらかなり気難しい人なので・・・。」
「そう・・・。まぁ、良ければ貴方のだけでも見せて欲しいのだけど。」
「それなら全然大丈夫です!あっ、ここですよ!」
アリスの案内で鍛冶屋に到着した。
王都の中にいくつも流れる用水路のすぐ横に建っていた。
店の名前は、鍛冶屋・・・・・・。
質素というか簡潔で男らしい。