第3話
王都の中心街へ向かう馬車。通常なら人があふれるほど乗る馬車も、今回は例外。
そう。貸しきり馬車に乗っているのだ。
通常の馬車料金は、1回3000円。貸切はなんと3万円だ。おぉ、高い高い。
しかし、この時間帯に走る馬車の数は少なく、十倍の値段で貸切が出来るのであれば、いまはそこそこの金があるので良しとしよう。
ちなみに暖房や冷房なんて物は無いため、少しばかり馬車の中は熱いが、窓を開けておけばそこそこ涼しい。
貸切の馬車は、通常の馬車の旅と比べてかなり快適だ。
疲れた体に心地よい馬車の振動。眠い。
疲れた。
・・・眠い。
耳につけたヘッドホンから無線が入った。
「(シズ。こっちはもう無理臭い。)」
「分かった。こっちも、もうもたない。」
「(そっか。じゃあ、7階の拠点で待ってる。)」
「うん。」
相棒の声は、何時ものような気楽さは無い。
彼が守っていたのは屋上。私が守っていたのは、1階のメイン入り口だったのだが、今は5階まで下がる羽目になっていた
持てるだけの武器、弾薬を駆使し、様々な場所にトラップを相棒が仕掛けていなければ、早々に攻め落とされていただろう。
しかし、それも既に過去の話。
1階は4時間前に、2階は3時間前に、3階は2時間前に、4階は1時間前に、5階は今、落とされた。
残るのは彼が守っていた屋上と、今居る6階、そして拠点にしていた7階だけ。
移動手段のエレベーターはワイヤーを切ったので、使えないし、仮に登ってきてもクレイモアを仕掛けてある。
残るのは西階段と東階段、外に取り付けられた非常階段の三種類も、崩れていたり、罠があったり、簡単には通る事が出来ない。
私達自身も、自分達で仕掛けた罠に引っかかるので通ることが出来ないが、もちろんそこは考えてる。
天井に開けられた穴からたらされた消防用ロープをよじ登り、上の階へ登る。登った後はロープを落とせば相手は登ってはこれない。
穴の上に置いておいた新しい武器を一応手に入れ、今まで使っていた武器は弾切れなので穴の下に放り捨てる。
ガシャンっ!っという音を立てて落ちた武器を尻目に、7階へ通じる穴に向かう。
「(なぁ。シズちゃん。)」
「なに?クロ。」
「(あーーっ。いや、直接話すわ。)」
相棒のクロの方の意味ありげな台詞。
告白でもされるのだろうか。
確かに長い間コンビを組んで、戦い歩いてきた男女だ。恋に落ちないわけが無い。
というか、体の関係は既に持っているわけだし、今更感もある。
それに、お互いもうすぐ死ぬだろう。
孤立無援。助けだったはずの飼い主からの抹殺命令。悲しみをもったまま消えるくらいなら・・・っと始めた逃亡生活もそろそろ終点だ。
またしても穴をのぼり、7階へ。
目的だった部屋の扉を開けると、既に会い方は到着していた。
「おまたせ。」
「おかえり。」
相棒もかなりの激戦だったようで、肩で息をしていた。いや、良く見ると左手を動かしてない。
「いやぁ、肩に一発貰っちゃったよ。」
「痛くない?」
「うん。痛み止め打ったから平気。」
長年連れ添った相棒だが、偶に被弾した所は見た事が無い。平気といっているが、相当しんどいはずだ。
彼もすぐに壁に背中を押し付けるように倒れこむ。
「なぁ、シズ。」
「なに?」
「あぁ・・・。いや、巻き込んで悪かった。」
「今更ね。」
肩に担いだ武器は、一発も撃つことなく役目を終えるだろう。
そう判断した私は、武器を放り捨てて、防弾チョッキも脱いで放り捨てる。
残るのは白いシャツのみ。汗で若干透けてるが、見るのは相棒だけなので気にする必要は無い。
「ヒュー!セクシー!」
「はいはい。貴方も脱いだら?」
「いや、肩がね・・・。」
そう言いながら軽く両肩を上げた相棒。どうやら痛み止めを飲んでも痛いものは痛いらしい。
彼の防弾チョッキを外してあげると、防弾チョッキにも幾つか弾を食らっていたらしい。この分だと内臓にもダメージを食らっている事だろう。
「おお。楽になった。ありがとう。」
「どういたしまして。」
防弾チョッキをはずすと、楽になったらしく、大きくため息をついた。
「巻き込んで悪かった。」
「さっきも聞いたよ。まぁ、私も原因だったでしょ。お互い様よ。」
「そっか。」
少し離れた場所で爆発音が聞こえた。どうやら階段に設置したクレイモアが爆発したらしい。
「なぁ。ジズ。」
「なに?」
「胸当たってる。」
「当ててんのよ。」
爆乳、というほどでもないが、まぁまぁ大きい私の胸を押し付ける。
そっとお互いの腰に手を伸ばし、互いに触れ合う。
まだ、あたたかい。
爆発や怒号がだんだんと近くになり、敵が近くに来るのを感じる
互いにまわされた腕が腰から離され、お互いに向き合う
「楽しかったか・・・?」
「まぁまぁ・・・ね。貴方は?」
「俺は楽しかったな。来世もお前と同じように遊びたいもんだ。」
「私もよ。」
互いに相手の顔を見返し、にっこりと笑いあった。
あぁ、惚れた相手の顔だ。なんてカッコ良いのだろう。
互いの腰から引き抜いた拳銃で、互いに向き合い、同時に放たれた弾丸は二人の頭に命中し、この世から強制的に退場させた。
「お客さん。到着しました。・・・。」
「・・・。えぇ、ごめんなさい。寝てしまってたみたい。ありがとう。」
あぁ、懐かしい夢だ。