10
「お邪魔しまーす!ドンさん!」
「お邪魔しまーす・・・。」
一応、鍛冶屋の扉は開いていたので、不法進入ではない・・・。
「あぁ・・・。アリスか。どうした・・・。」
「えっと、こちらのシズさんが鍛冶屋を見たい・・・のだっけ?」
「こんにちは。少し鍛冶屋を拝見したのですが・・・。」
ドンさん・・・と呼ばれた人物が鍛冶屋の奥からやって来て、驚いた。
身長が2メートルはある大柄な男で、手にはハンマーを持っていた。
「・・・。アリスの友達か?珍しいな。」
「ううん。ちょっと・・・と言うか、かなり、迷惑を掛けてしまったの・・・。代わりにお勧めの加治屋さんを紹介して欲しいって言われたのだけど、迷惑だった・・・?」
「いや、大丈夫だ。すまない。お嬢さん。」
二メートルはある大柄なドンさんが背中を丸めて謝罪する。
まぁ、悪いのは盗んだ少年だし、アリスは悪くない。
「いえ、別に彼女が悪いわけではないんです。実はかくかくしかじか・・・。」
ドンさんに、少年に盗まれた事、それをアリスにそこはかとなくオブラートに包んで邪魔された事を伝える。
「そうか・・・。俺が謝罪しても仕方ないことなのかもしれないが、謝罪させてくれ。」
「いえいえ。悪いのは盗んだ少年ですし・・・。」
「・・・そうか。そう言えば、鍛冶屋を探していたそうだが、何か力になれるだろうか?」
っと、ドンさんからのありがたい申し出を受けた。
「じゃあ、お言葉に甘えて、幾つかの鍛冶道具を買いたいのだけど・・・。あと、ボウガンを買えないかしら?」
「そんなので良ければ、よろこんで・・・だ。鍛冶道具を買いたいということだったが、何が必要だ?」
「低い温度でも溶ける金属と、それを溶かす為の簡単な炉が欲しいのだけど。」
「・・・。こっちだ。アリス。悪いがお茶を頼む。」
ドンさんがアリスにお茶を頼み、店の奥に入っていた。ついて行って良いのだろうか・・・。
店の奥へ入ると、そこは鍛冶場だった。
壁一面に並べられた大小さまざまなハンマー。
赤々と燃え上がる炉。
そして大量の金属が入った木箱。
「一番右の箱が飾りようのアルミニウムだ。簡単な炉でもすぐに溶ける。それとこれが携帯型の炉だ。これでも十分火力がある。」
「ありがとう。幾らかしら?」
「その前にいくつか聞きたいのだが・・・。良いか?」
鍛冶屋でかなり怖顔で問いかける。
かなり怖い・・・。
「・・・。お前は貴族の出なのか?」
「いいえ。田舎の孤児院の出です。最近・・・というか、昨日の夜に王都に来たばかりです。」
「そうか・・・。なら良いいんだ。」
そう言うと、ドンさんは少し下がって棚から茶色の瓶を取り出して私に渡した。
「携帯炉の補充用だ。それと説明書。」
「ありがとう。幾らです?」
「金は要らない・・・。アリスの詫びだと思ってくれ。アルミは必要なだけ持っていくと良い。」
賠償のかわりにくれるらしい・・・が、なぜそこまで彼女にそこまでするのだろうか?
親子?にしては身長の差以外にも、髪の色や肌の色の違いもある・・・。まぁ、人の好意は素直に受け取っておくに限る。
「ありがたいですが・・・。良いんですか?」
「あぁ、構わない。それとボウガンは売り物じゃない。俺の考えた試作品で、今はアリスの持っているのだけしかないんだ。」
「そう。分かったわ。ありがとうございます。」
小さな皮製のかばんに携帯炉と補充用の燃料を受け取る。
確か、アルミの沸点は660℃・・・。普通のコンロなどではなかなか溶けないだろう。
「他に何か必要な物はあるか?都合がつくなら、持って行ってくれ。」
「では、お言葉に甘えて・・・。金属を溶かす用の丈夫な小さいなべと、溶けない丈夫な棒を。」
「・・・。君は、大人だな。見た目に合わん。」
あっ・・・。お言葉に甘えすぎたか!?
「あぁ、そうじゃない。勿論持っていってくれ。ちゃんと必要な物を分かっている・・・。年齢に見合わないな・・・っと、ふと思っただけだ。不快だったなら謝罪する。」
「いえいえ・・・。まぁ、少しばかり金属の整形には覚えがある・・・ってだけです。」
「ほう・・・。良ければ見せてくれないか?」
ううむ。まぁ、良いか。
・・・、あっ、でも、銃はちょっとまずいか。
この世界にはまだ無い銃と言う発明、それは私にとって圧倒的なアドバンテージとなっている。
弓のように大きくかさばるでかいものなら、遠くからでも気づける。
ボウガンの存在は知らなかったが、まだそんなに普及していないらしい。
私が出し惜しむ最大の理由は、銃が大量生産されることが怖いのだ。
私だけが持ち、私だけが知っている武器と言うのは、最大のアドバンテージである。
つまり、所見殺し最強!っと言うわけだ。
そう言えば、ナイフを持っているんだった。
「ナイフでよければ・・・。」
「あぁ、・・・。ほう・・・。これは君が作ったのか?」
「えぇ。まぁ、一応。」
作ったナイフの元は、どこかのギルドの男が使っていた剣が折れて、新しい剣と取り替えるとかで捨てられたものを拾って作った物だ。
自身の望む大きさまで削って作ったナイフ・・・。正直かなり骨が折れた。
前の故郷では、金属を溶かす炉などは無かったから、削る以外に方法が無かった。
この世界の何処を探しても、同じ物は手に入らないであろうナイフだ。
わざわざ市販の物じゃなく、自分で作ったのにも勿論訳がある。
この世界の剣、割ともろい。
というか、剣と言うのは割合脆い。
それは剣が長く、大きければ大きいほど比例して脆くなる。
たとえば、ナイフと日本刀を比べた場合・・・まぁ、比べるまでも無く、日本刀のほうが圧倒的に有利だ。
剣のリーチがまず違う。
剣は、長くなればなるほど、剣先のスピードは上がる。
が、その分当たった時の衝撃で剣の寿命を削る。
反対に、短い分リーチは劣るが、折れにくい・・・というつもりで作った。
勿論、石の壁などに叩きつければ折れるだろうが、少しでも丈夫なほうが良い。
「良いナイフだ。」
そう言いながら、ナイフを返してくれた。
「君は騎士団の試験を受けるといっていたが、そのナイフだけで受けるのか?」
「いいえ。一応、秘策は考えてます。」
秘策とは、勿論銃のことだ。
まぁ、これは奥の手の中の奥の手。あまり大勢の前で見られるのはまずい。秘策が漏れれば、自分のアドバンテージが無くなる事を意味している。
「そうか・・・。もし、何か必要な物があれば、また来なさい。安くなるなら安くしよう。」
「ありがとうございます。」
「ドンさーん。お茶入りましたよー。」
店の入り口からアリスの声が聞こえる。
「君も飲んで行くと良い・・・。ささやかだが、君の合格を祈ってるよ。」
「えぇ、ありがとうございます。」




