表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4.散水

 ご飯も食べ終わって、何とも言えない雰囲気に包まれる。あたしも話しを繋げられるほど器用じゃないし、榛東さんだって、冷え切ったような空気には慣れていないだろう。あなたの周りはいつだって、きらめいているような感じだもの。こんなとこで二人で話をしてること自体が、場違いなように思えるほどに。

 

「そろそろ教室戻ろっか、ごめんね、わざわざ」

「別にいいわ」


 思ったほど、嫌ではなかった、……不思議なことに。こういうグイグイ来るタイプは、あたしが一番苦手にしてるはずで、それでもただ迫ってくるわけじゃない。分からない、この人の考えることが。どうしたらいいって言うのよ、人との関わり方を忘れてしまったあたしに。

 どちらからともなく立ちあがって、歩きだす。


「もう、暑くなっちゃったね」

「七月だもの、当たり前よ」


 白い入道雲がもくもくと湧くような季節には、とてもそぐわない冷え切った空気。……これくらいのほうが、らしいや。人の温もりなんてずっと知らないまま、冷え切っているから。熱いものに触れたらきっと、訳が分からなくなって、氷にお湯でもかけたようにビキビキに割れてしまいそう。


「まあ、そうなんだけどさ、……夏休みって、何かするの?」

「特に予定なんてないわ、せいぜいもっとバイト入れるくらいね」


 夏休み、か。学校の時間がバイトになっただけで、特に代わり映えもしない。強いて言うなら、八月の半ばに、寮が空いてないっていうのが、少し憂鬱になるくらい。実家には、あまり帰りたくない。そこに行ったって、安らげる場所なんてないから。嫌でも顔を合わせなきゃいけないから、波風も立てられないし、そのくせ、そこから離れることもできないのがもどかしい。


「わたしもそんな代わり映えしないかも、練習きっついもん」

「そう、確か陸上部だったっけ?」

「え!?よく知ってるねー」

「まあ、……自己紹介のとき、言ってたでしょ?そういうの、できるだけ覚えるようにしてるから」


 こういうときに話が続くようにじゃないけど、覚えておいてよかったかも。冷えきったまま教室に戻ってしまうと、何を話されるかわかったもんじゃない。

 

「そうなの!?こういうの全然意識したことないから」

「まあ、……そうよね、もう夏だし」


 普通は、そんなの覚えないか。ボロを出したかも、なんて冷え切った心。榛東さんに、ドロドロとしたものは見えなかったのに、私から嫌われることをしてしまっただろうか。

 自分を守るために張り巡らせた棘を、少しだけ後悔する。


「……ねえ、歩実ちゃん」

「……何?」

「わたしのこと信頼してくれなきゃ、こっちだってできないんだよ?」

 

 足が止まりかける。そんなこと言われたって、無理よ、もう。

 そのまま教室まで行ってしまう小さな背中を、追う事はできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ