無知な新月
夏目漱石は「I Love You」という言葉を
「貴方を愛している」とは訳さなかったそうです。
代わりの言葉に「月が綺麗ですね」と置き換えた
日本人はいつの時代も内気ですね
たられば
もしあの時ああしていれば~という意味だ
どんな人間にももう一度やり直したいという
が出来事あるだろう。
今から語るのはそんな「たられば」の話
いつもの場所
彼女はいつもそこにいる。
彼女は天野 彩月
十年以上の付き合いがある
俗に言う幼馴染というものだ
幼馴染とは言っても
この場所でしか言葉を交わさない仲だ
今日は初めて彩月に呼び出された
いつもは約束などせずに行くので
少しばかり驚いた
何かあったのかといつもの場所に駆けていった
だが、彩月はいつものどおりにたたずんでいた
「そんなに急いでどうしたの?」
と不思議そうな顔で彼女は笑った
何もなかったのかと安心した
その反面恥ずかしくなり
「別に…何でもない」と言葉を詰まらせる
心音が落ち着いたところで彼女に
「なにかあったの?」と尋ねた
すると彼女は大きく息を吸い
「綺麗な月が見える?」とだけ
僕は言ってる意味がわからずに
空を見上げて「今日は新月だよ」と云うと
彼女は下を向いて笑い
「無知は罪なのだよ?」と一言残して
―――消えた―――
あの日見た月を今も思い出す
晩夏の冷たい風と火薬の残り香
無知が消えた今も夜空に浮かぶ見えない月を
無知は時として、罪になる。とはよく言ったものだ
あの時の「綺麗な月」が
見えていればまた逢えただろうか
無知だった私の「たられば」の話




