魔法学校の廊下は赤い
魔法学校への登録を終えた後、俺とリナは流れるように今日の六限の授業に参加することになった。
腹から未だに血が吹き出ていることを訴えたが、リナによるとそんなの構ってられないくらいこの授業は大切らしい。
注意深く観察すれば俺以外にも血を流しながら校舎をうろつく輩は多かったので、この世界ではクエスト帰りに治療もせず授業を受けることくらい常識なのだろう。あまり見習いたくはないが。
さて、そうまでして俺たちが受けに来たのは、リナ一推しの「持続魔法体系」という授業。
魔法学校では常に、いくつかの授業が同時に行われている。そのため時間が空いている時に自分の受けたい授業を選んで受けられるそうだ。この自由感、最高!
「ところで持続魔法って何?」
腹を痛めながら受けた授業がくだらないものだったらたまらないので、授業が始まる直前、俺はリナに授業の内容を聞いた。
「それも分からずについてきてたニャ? お人好しなのか単なる馬鹿なのか分からないニャ・・・・・・」
「お、今の台詞、俺への好感度上がりはじめのヒロインっぽいね。君もなかなか分かってきたじゃないか」
「やっぱり単なる馬鹿だったニャ・・・・・・」
俺のせいで話がそれたので(それくらいは分かる)、気を取り直してもう一度持続魔法について聞いた。
「持続魔法っていうのは、一度使うと自分で止めるまで発動し続ける魔法のことニャ。すぐに消えたり持続時間決まってたりする単発魔法だけしか覚えてないと、使い勝手が悪いのニャ」
つまり先ほどリナが使っていた風を出す魔法などとは違い、一度使えば長いこと発動し続ける魔法、ということか。
「なるほど、パッシブスキルが魔法扱いされてるみたいなものかな・・・・・・? 防御力が上がる持続魔法とかがあって、それを使っておけば魔法を使う前に奇襲されても殺されにくくなったりするわけだ」
「パッシブスキルってのは分からないけど、その通りニャ。正直、ここまで伝わるとは思ってなかったニャ・・・・・・」
まぁ人生の殆どをゲームとラノベに費やしてたら、こういう無駄な想像力だけはつくよね、うん。
何にしても持続魔法の重要性は分かった。
技として使える単発魔法も捨てがたいが、自分の特性のような扱いができる持続魔法も楽しそうだ。
「そんなに大事なら、確かにこの授業は大事だな」
俺は頭の悪そうな返事をした。
「そうニャ。それに、この授業では自分に合った持続魔法の判定もしてくれるニャ。判定結果は先生の専門によって大分変わってくるんニャけど、なににしても魔法初心者のコウタには良い指標になるニャ」
「まさかリナは、俺のために・・・・・・!」
「か、勘違いしないでニャ! 半分は自分のためニャ!」
裏を返せば、半分は俺のためということか。
やばい、リナがさっきから可愛すぎる!
「リナはとってもメインヒロインだな!」
昨今のメインヒロインは、サブヒロインに人気を食われるのが常だけどな!
「では、授業を始めます」
教室に入ってきた初老の先生は簡単に挨拶すると、生徒達に紙を配り始めた。
「なぁリナ、あの紙は何?」
「自分の覚えてる魔法を記入するための紙ニャ。判定の後、ここに書かれてない魔法だけを教えてくれるのニャー」
成る程。既に覚えてる魔法に適性があるって言われても面倒くさいだけだから、それを防ぐための紙か。
もちろん俺は判定も習得もしていないので無記入だ。一方、隣に座っているリナはたくさん魔法名を書いていた。羨ましい。
俺も早く魔法を教わりたいぜとワクワクしながら教壇に目を遣ると・・・・・・先生が爆発した。
「せんせーい!!!」
もしかして彼を気に入らない生徒にでも爆破されたのか? と焦ったが、少ししたらそうではないと分かった。
破裂した先生の欠片全てに先生の顔があり、そのことから察するに、分身魔法ならぬ分裂魔法を使ったらしい。
一人ずつ判定結果を言っていては時間がかかるから、分裂して一気に教えようということか。それは分かったけど。
「先生の欠片がフワフワとこっち向かってくるの、怖すぎる!」
先生の欠片は教室中の大気をさまよい、生徒それぞれのところに向かっていく。
ファンタジーチックと表現できないこともないが、それらが全て先生の肉の色をしてるのが怖い。もう少しマシな分裂方法はなかったのか。
机周りに先生の肉片がやってきたときは、気持ち悪くて思わず潰しそうになった。
「では判定結果を伝えますねぇ」
俺が内心ビビってるのにもお構いなく先生の欠片が喋り始める。仕方がないので、俺もラノベ主人公らしい切り替えの速さで魔法へと意識を移した。
初めての魔法適正判定ということで、自然と期待が高まるな。
「お、白紙ですか。あなたは適正判定初めてですかね。となると発表しなければいけない魔法がたくさんありますねぇ」
「お、おお・・・・・・!」
先生の欠片が何故か本体よりもダンディな声で、嬉しいことを言ってくる。
シビアな異世界なので「お前に適正のある魔法はない」と言われることまで懸念していたから、たくさんあるというのは素直に嬉しい。
ここか? ここで俺のチートな能力が明かされるのか!?
「では、まずは一つ目、《毒の体》。攻撃してきた相手を、一定の確率で毒状態にする」
「なにその『厄介な雑魚敵』って感じの能力!!」
なんかRPGで、二つ目のダンジョンとかに出てくるモンスターがこういう特性を持ってそう! すごく地味だし、そもそも攻撃されること前提の能力ってどうなの!
「はい、二つ目。《アイテムドロップ》」
アイテムドロップ? 素材獲得量アップみたいな感じだろうか。地味だけどなかなか便利そうな・・・・・・。
「効果は、死んだときに持ち物を全部落としてしまう」
「なんだそりゃ!」
アイテムドロップってそういうことかよ! 今度は死ぬこと前提の能力だし、そもそも俺、完全に雑魚モンスター扱いじゃん!
三つ目以降も、《ぬるぬるな体》・《触手耐性》・《椎間板ヘルニア》など、使えそうもない魔法ばっかりだった。椎間板ヘルニアは魔法じゃないだろ。
もう駄目か・・・・・・と絶望していると、先生が「次で最後です」と言って一つの魔法を発表した。
「最後の一つは《支援魔法強化》ですね。支援魔法を自分以外に対して使った場合、効果が跳ね上がります。しかも相当適性があるのか、使いこなせれば効果が二倍か三倍かになりますね」
先生が「嬉しかろう」みたいな声音で言ってくるけど、やっぱ地味だなそれ・・・・・・ラノベ主人公みたいな派手さに欠ける魔法だ。
まぁこれまで言われた魔法よりは使えそうだから習得はするけど・・・・・・。
俺の後にも判定結果の発表は続き、リナは新しく《射程距離延長》に適性があることが分かった。俺とヒロインの格差がでかすぎる。
皆に判定結果を伝え終わると、先生の欠片が教卓の方へととんでいき、ようやく人の体に戻った。
「では適正判定も終えたことですし、さっそく講義に移ります」
先生が穏やかに宣言した。
魔法の授業ってどんな感じか想像もつかないから、すっげぇ楽しみだ! やっぱりファンタジーチックなのだろうか!
期待を込めて見つめていると、先生が言葉を続けた。
「今回の授業はグループワークですので、五人組を作って下さい」
それは呪いの呪文だった。