害悪存在の輪舞
「なんだこれでけぇ! 近づきたくねぇ!」
思えば異世界に来て以来、スライム系のモンスターと戦ったのは最初の一回きりだ。
その時はリナが助けてくれたものの、俺自身は文字通り手も足も出なかった。巨大なスライムと相対し、俺はスライムへのトラウマが未だに健在であることを実感してしまう。
「大丈夫ニャ、このスライムは最初に会ったスライムほど凶悪じゃないニャ!」
「そうなのか? でも害悪存在なんだろ?」
「一般市民にとってはそうニャ。でも、兵士にとってはそこまで脅威じゃ……」
リナが俺の質問に答えている時、スライムバスの表皮からいきなり手が突出し、シュルルと音を立ててこちらに向かってきた。
しかしリナは目をくれることもなく、魔法で鉄の短剣を生み出して弾いた。すげぇ!
流れるようなリナの動作に感動していると……弾かれたスライムバスの手がすかさずロップへと進路を変えた!!!
「あ、しまった! ロップの戦力ほぼ一般市民じゃん!!!」
一般市民にとっては脅威というリナの台詞を思い返しつつ、俺はロップの下へと駆ける。しかし俺の足では間に合わず、桃色の手がロップに絡み付く!
「うわぁっっ! な、なんでやすかこれっ!」
そして桃色の手はあろうことかロップをいじくり回し……慣れた手つきで服を脱がし始めた!
「いやぁぁぁぁっ! 本当になにがしたいんでやすかぁっ!」
ロップは必死に抵抗するが、あっけなく下着もろとも取り去られ素っ裸になってしまう。
両手で自分の体を覆うためにロップは動けなくなり、彼女に向かって走ってた俺も下半身が不自由なことになって動きが鈍くなった。
「うぅ、どうしてこんなことにぃ……。しかも、あっしのへそくり14号が奪われやした……」
「どんなけへそくりあんだよ!」
顔を真っ赤にして大事なところを全て隠そうと悪戦苦闘するロップから、自制心を駆使してなるべく目を逸らす。
スライムバスが自分の近くにロップの衣服を置いたため、恐らくあれを奪い返そうとしたら食べられるという罠なのだろう。害悪存在の特徴の一つに「あらゆるものを巻き上げる」「目的のためなら手段を選ばない」というものがあったので、ほぼあいつのことで間違いあるまい。
とはいえ分からないことも多いので、俺は走ってやって来たリナにいつもの解説を頼んだ。
「スライムバスはあの巨体だから、人間みたいに大きい生き物を食べなきゃ生きていけないのニャ。とはいえ人間を瞬殺するには力不足だから、服を剥いで抵抗力をなくす能力ばかり育ってしまったのニャ」
クッソ。毎度毎度、パッと聞いただけだと納得しちゃいそうな設定ぶちこみやがって! 突っ込みどころクソ多いのに!
「あれ、てか、抵抗力なくして食べるつもりならロップが危ないんじゃ……」
「あぁ、それは大丈……」
大丈夫、とリナが言い切る前に、罠にかからなかったロップに痺れを切らしたのかスライムバスの手が無数に絡み付いた。そして、腕力で無理矢理引き寄せる。
「うぉぉぉぉい! 全然大丈夫じゃないじゃねぇか!」
「大丈夫ニャ、スライムバスは相手の抵抗力を奪ってじっくり食べる分、消化能力はクソ低いニャ!」
「そういう問題なの!?」
この世界のスライムは、やたらと消化力が強い。だからエロ漫画みたいに女の子の鎧だけを溶かすなんていうことはなく、スライムの消化液をかぶった時点で基本は体全体が溶ける。
リナが大丈夫と言ってるのだからそんなことにはならないのだろうが、スライムの消化能力を知っていると気が気でなかった。いざとなればレイもいるから安心ではあるが……。
「って、おぉぉぉい!」
レイの方を見ると、彼女は何故かスライムバスに大接近しており、しかも自分から服を脱ぎ始めていた。
「ロップたのしそー。私も混ぜてー!」
「しまった、頭脳が幼児レベルなの忘れてたぁぁぁ!」
当然、スライムバスの手は容赦なくレイにも及び、レイとロップの体はスライムバスの体内へと押し込まれた。
スライムは半透明なため、二人の肌はバッチリ外にも見えている。
「一体、これからどうなってしまうんだぁぁぁ!」
俺はドバドバと吹き出た鼻血を手で拭いながら、激闘の予感を感じていた。
手段はどうあれ、俺に血を流させた敵は久しぶりなのだ。やるなスライムバス、いいぞもっとやれ!




