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異世界がシビアすぎて泣いてる  作者: syakariki
一章 先陣しか切らない時代
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ギルドが徴兵制ってマジですか

 俺が転生したのは、建物の中だった。

 しかも普通に人がたくさんいる場所に、脚から垂直に落下していくという新手の転生方法。なんて目立つ転生なんだ!


 バァン! という派手な音を立てて、石の床に着地する。

 心配されても面倒なので、俺は腕を組みながら涼しい表情で落下した。余計に高まる存在感。


「だ、誰だおめぇ! どこから来た!?」


 周りにいた、むさい格好をした男達が俺に向かって叫んだ。

 しかし俺は、それに怯むことなく言い放つ。


「極東の国から来ました!」


 異世界に行ったときは、大抵これさえ言っとけばなんとかなるのだ。

 どこから来たってそういう意味じゃない気がするけど、まぁいいや。


「つーかそもそも、何しにここまで来たんだ? 見かけねぇ顔だが、まさか魔王の手先じゃあるめぇな」


 この建物のカウンターの裏側から、屈強な男が出てきて凄むように聞いてきた。その目は訝しそうに俺を見据えている。


「こんなところと言われても、俺はここがどこだかすら分かってないのですが……」

「はぁ? 分からずにここに来たのか? あぁもしかして、ギルドへの転移を失敗して、その反動で記憶が消滅したのか。あるあるだな」


 屈強な男が勝手に納得してくれた。

 あるあるなのかよ。


 というか今、ギルドって言ったか……?


「ここはナイスがいのギルド本部だ。ようこそ新人、歓迎するぜ!」

「な、なんだってえええええ!」


 な、ナイス街だとぉ!

 ナイスガイのギルドって、語感がヤバすぎなんですが!!!


 いや、街のネーミングよりも、ここがギルドだということの方が問題だ。


 ギルドは楽しくて明るい場所のはずなのに、辺りを見回しても無骨なおっさんがうじゃうじいるばかり。女の子の比率が異様に低いことを確認すると、俺の目から一筋の涙が流れた。


「おい、なに泣いてるんだお前は」

「だって……まだ、異世界に来てからむさいおっさんとしか喋ってなくて。女の子と、まだ一回も喋ってなくて……」


 目の前の屈強な男も、ギルドの係員なはずなのに、男だ。

 ギルドの係員が男って、なんだよ……! そんなのラノベじゃ有り得ねぇよ! 俺はお前を認めねぇよ……!


 何の脈絡もなく泣いて、何の脈絡もなしに睨み付けてきた俺に、係員がたじろいだ。


「こいつ、どうすりゃ良いんだ……」


 呆然と呟くが、相当人手が欲しいのか、諦めたようにギルドの案内を始めてくれる。


 ギルドというのは、異世界もので超高確率で出てくる神聖な単語だ。基本的には冒険者ギルドを指す。

 魔獣討伐の依頼を受けるところと考えて良いだろう。


「戦闘がしたいなら、ここで仕事を探せば良い。就いているジョブによっては受けられないものもあるけど、戦闘系の仕事は大抵誰でも受けられる」


 見た目に反して律儀な係員の案内で、俺はギルドの隅っこに連れてこられていた。そこの壁は十メートル程の幅があり、重なるように百枚以上の紙が貼り付けられている。

 これはまさか。俺は舌の根が乾くのを感じた。


「これはいわゆる、ク、クエ、ク、クエクエ、クエスト・・・・・・」

「なぁ、流石にそろそろ薬物鑑定させてもらっていいか?」


 俺の慌てぶりに恐怖を覚えたのか、係員が訝しげに呟く。勿論俺は麻薬などやっていないので丁重に断った。

 それでも、律儀な係員はしっかり説明してくれる。優しい。


「これはクエスト用紙ってやつで、ギルドに依頼された仕事が貼り付けられてるんだ。ギルドに所属してる奴はこの中からやりたい仕事を選んで挑戦できるのさ」

「や、やはりこれはクエスト用紙……!」


 目の前に雑然と並んでいるクエスト用紙に、俺の目は釘付けになる。

 俺をここに連れてきてくれて有り難う、脱水症状……!

 俺は心の中の脱水症状に語りかけた。


「まぁこの街に来たからには強制的にギルドの一員だ。お前、赤紙は貰ったか?」

「赤紙!?」


 ギルドってそんな、ムリヤリ入れられるもんなの!?


「いや、持ってないです」

「そうか、まぁ持ってないなら良い。どちらにしてもお前はギルドに入る運命なんだからな」


 厳ついおっさんにそんなこと言われると、なんか脅迫されてる気分になるな……。

 でも、そんなこと気にならなくなるくらい嬉しい! だって俺は今、念願の異世界で念願の冒険者になろうとしてるのだから!


「これで、俺も冒険者ギルドに入れるんですね……」

「冒険者だぁ? なんだその、ふわっとした単語は」

「は? ギルドと言えば冒険者ギルドでしょう何言ってるんですか?」


 係員がなんかいちゃもんつけて来たので、俺はキレ気味に答えた。

 ギルドとかハーレムとかいう言葉が絡むとすぐに我を失うのは俺の悪いクセである。


「お前、相当記憶が消えてるっぽいな……。だが、そんな奴でも人手が欲しいから説明してやるよ。ここが何のギルドかをな」


 係員が、笑顔で言った。


「人類の最終生命線、《防衛ギルド》だ。俗に《軍》とも言う」

「はぁ!?」


 その名前は、俺の予想を遙かに超えたものであった。

 どうやらこの異世界では、人類は絶滅寸前らしい。 

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