山賊ってモンスターだと思われがち
「魔獣が少ない!!」
あまりに退屈で、俺は悲痛な叫びを上げた。
トラップはたくさんあるくせに、ダンジョンの中には魔獣がびっくりするほど少なかった。
商人やミミックとしかエンカウントしないダンジョンってどういうことだよ!
俺達はクエストを受けてここまで来たわけじゃないので報酬はなく、魔獣の素材を手に入れなければ今日の収入は1ゴールドもなくなってしまう。
むしろダンジョンスターターセットの費用分が赤字だ。
焼け焦げたミミックが売れないかを考えながらダンジョンを進んでいくと、一人の男が見えた。
黒い毛皮のコートに包まれた暑苦しい格好だ。何故か無言で、こちらを睨んでいる。
「まずいニャ、賞金首のダンジョン賊ニャ!」
その男に真っ先に反応したのはリナだった。
ダンジョン賊という聞き慣れない単語に、俺は眉をひそめる。
すると、今度は聞いてもないのにリナが講義を始めてくれた。慣れてきましたね。
「ダンジョン賊っていうのは、ダンジョンにやってきた兵士から金目のアイテムやダンジョンで得た物を奪っていく奴のことニャ!」
山賊とか海賊みたいなもんか・・・・・・。語呂が悪すぎるな。
「こいつがダンジョン賊となると、魔獣は減らされているのに宝箱だけが放置されてたのは、誰かに開けてもらうためだったのかもな。開けるよりは逃げる方が楽だろうし」
レイがそんな風に分析した。
成る程、誰かに宝箱を開けてもらって、ミミックとの戦いで弱ったところをかっさらうわけか。燃やしちゃったけど。
「まぁ、ゲームだと山賊とかって中盤の雑魚敵だし、四人なら余裕で・・・・・・」
そんな風に安心していると、一瞬で俺の左腕がかき消えた。
切断面から血がドパッと吹き出して、俺は絶句する。
「なんで・・・・・・?」
思わず呟くが、まぁ敵の仕業で間違いない。
ダンジョン賊をよく見ると、彼の手が突っ込まれたポケットに小さな穴が開いていた。誰を狙ってるか見えないようにポケットの中から狙撃していた、ということだろう。
「噂に違わぬ攻撃力ニャ・・・・・・。腕を一発で切り落とすなんて、私にもそうそう出来ないニャ」
何故かリナが敵の技量に興奮している。
いやいや助けてくれよ。
「《回復》」
リナが俺をガン無視している内に、レイが俺の傷口に手を触れて回復してくれた。
なくなった腕を一瞬で治す回復力は、さすが司教としか言い様がない。
「有り難う、レイ」
「腕一本失って動揺しないお前も、なんだかんだ大物だよな・・・・・・」
腕を治しながらも、レイが呆れたような目で俺を見てくる。
うん、なんかね、もう慣れちゃった。
それに何より、ダンジョン賊の攻撃は異様に鋭く、痛みさえ感じないうちに腕がなくなっていたのだ。現実味もなかった。
とてもじゃないが、ゲームでいう山賊が出せる攻撃力じゃない。俺は認識を改めた。
「俺は一体、何で攻撃されたんだ・・・・・・?」
「見た限りでは、水属性の攻撃でやられたようでやすね」
俺の疑問にはロップが答えてくれた。
しかしその声はやけに遠い。
「おい、ロップ! お前どこに行こうとしてんだ!?」
「あなたたちこそ、なに強敵を前にしてゆったり喋ってるんですか! あっしは逃げさせてもらいやすよ。これこそが我が家に伝わる秘伝魔術、《処世術》でやす!」
言いながら、ロップはダンジョンの入り口方面へと駆けていく。
本当に俺達を置いていきやがった! 帰ったら覚えてろよ・・・・・・。
でも確かに、ダンジョン賊はレイの回復を見てから作戦を立てることに没頭しているようだが、このままゆっくり喋ってもいられない。
こちらからも反撃しよう。
「よし、リナはいつも通り狙撃を頼む! レイは回復よろしくな、俺は支援するから・・・・・・」
言いながら、今更にも俺はこのパーティーの重大な欠点に気がついた。
前衛が、いない・・・・・・!!
なんとなく自分が前衛な気がしていたが、槍よりも支援魔法の方が得意だし、そもそも槍も捨ててきてしまった。
どうしようもない・・・・・・!
俺が口をパクパクさせながら動揺していると、レイが俺の前に歩み出た。
「しっかたねぇなぁ。ここは私が戦ってやるよ」
言って、レイが着ていた白いローブを脱ぐ。また露出度の高い格好だ。やったぜ!
そして、レイはまさかの徒手空拳で、ファイティングポーズをとりながらダンジョン賊に相対する。
その顔には、自信ありげな笑みが張り付いていた。




