メガネと黒髪
始めて書く短編です。
興味のある方は読んでみてください。
「世界は争いで満ちている」
いきなりそんなことを言い出したメガネに、黒髪は淡々として答える。
「いきなりどうしたんだ?もしかして、君はついに生徒会長になる決心をしたんだね」
「生徒会長になった程度ではどうにもならんさ、というのはどうでもいい。
今重要なのは、俺たちは今後、争いの多い世界で生きていかなくてはならないだろう?」
「続けていいよ。少し興味がある」
「この争いの満ちる世界で、俺たちは何を目指していくのか、ということだ。
何もできずに、ただ受け身の姿勢は良くないと俺は思う。
積極的に行動し、物事を見極めていかなくては!」
ぐっと、拳をにぎりしめるメガネに、黒髪は感心した。
「まさか、君がそんなことを考えていたなんてね。
そういうことなら、僕も何か協力しようじゃないか。
君がこの先の世界で、どうやって積極的にしていけばいいのかを!」
「ありがとう!
では、まずはシチュエーションを決めなくては」
「そうだね。何事も形から。
そして、舞台決めをすれば、よりいっそう現実味が増してくる」
「あぁ。
そこで、だ。
俺が積極的に動くための練習であるから、お前に決めてもらいたい」
「僕に?
それはもちろん構わないさ。
君のために、世界で役に立つシチュエーションを決めてあげよう」
「おぉ、頼もしいな!やはり、お前を頼って正解だった!」
「ありがとう。
では、まず一つ目のシチュエーション、略してシチューは」
「シチューだと!?
なんだその白そうな展開は!?」
「落ち着いてよ。
あくまで略称であって、君の大好きな白くておぞましい人外食物のことじゃないさ」
「おい、ちょっと待て!
お前はシチューの崇高さを何もわかっていない!
シチューが人外食物だと!?
それはまちがっているぞ!」
「どこがだい?
僕にもわかるように説明してくれないか?」
「あぁ、もちろんだとも。
そもそも、シチューとは・・・・シチューとは・・・・」
「説明できないのなら、もう用はないね」
「いや、待て!
お前がどれだけ言おうが、決して変わらない普遍的なものがある!」
「へぇ?
それはなんだい?」
「それは、シチューはおいしいものだということだ!」
「・・・・・・・・よし、もう用はないね。
君は学校一の秀才のくせに、なんて馬鹿な思考をしているんだい?」
「馬鹿、だと?
それを俺に言っているのか?」
「あぁ、そうだよ。
今の君の言葉は、馬と鹿を合わせたような、アベコベな形をしていたよ」
「な、なんだと?
馬と鹿を合わせた・・・・。
まったく想像ができん」
「そうだろうね。
僕もまったく想像ができない」
「だったら、例えに出すなー!」
「それはそうと」
「スルーか!」
「シチュエーション、略して、『シチュー!』についてだけど」
「そこを強調するのか、『シチュー!』と」
「今の君は、就職したての新人会社員。歓迎会の飲み会で、君は先輩の話を聞こうとする、というのはどうだい?」
「たしかに、それは妥当な『シチュー!』の選択だな。
よし、それにしよう。
お前が先輩会社員をやるというのだな?」
「あぁ、そうだよ。
それじゃあ、始めるとしよう」
「あぁ、わかった」
メガネは一つ咳払いして、演技に入る。
「先輩。
どうか、この機会に先輩の武勇伝を聞かせてください!」
「そうだな。
僕は先輩とはいえ、君の同期になってしまったからな」
「ちょっと待て。
お前は先輩会社員じゃないのか?」
「そうだよ。
僕が演じるのは、就職浪人して、今年ようやく就職できた、大学の先輩だよ」
「なんだ、それは!
まったく、先輩ではないじゃないか!
俺が聞きたいのは、会社の先輩の話だ!」
「何を甘えたことを言っているんだい?
失敗したからこそ、得られた経験から、君が考えて動くということだろう?
何もかもが君の思い通りに進んでいるわけじゃないんだよ」
「い、言われて見ればそうだが。
それでは、反応に困る。
俺の要望通り、会社の先輩にしてくれ!」
「・・・・しょうがないな。
今回はそういうことにしよう」
「ありがとう」
「それじゃ、始めて」
「先輩。
どうか、この機会に先輩の武勇伝を聞かせてください」
「あぁ、後輩。
僕の武勇伝、そんなに聞きたいか?」
「はい、聞きたいです!」
「そうか。なら、教えてあげよう。
僕にはある夢があった。
その夢を叶えるためなら、何でもやってやるとさえ思った。
だがな、現実は甘くなかった。
僕の思い通りに進むことなんて、何一つなかった。
途中までうまく行っていても、最後には別の方向に行く。
もう、いやになるくらいだった」
「そうなんですか。
でもすごいですね。
それでも、ここまで踏ん張ってるなんて」
「そんなことないさ」
「謙遜しなくてもいいですよ」
「そうか?」
「はい。それより続きは?」
「そうだな。
僕は何度も諦めようと思った。
でも、僕には妻と子どもがいた。
家族がいたから、あきらめるなんてできないと思った」
「家族が支えになっていたんですね」
「そうだな。
最後の最後で僕の背中を押したのは、家族だったな」
「いい話ですね」
「あぁ、そうだな。
だから、いまはこうして、妻と離婚して夢も諦めた」
「ちょっと待てぇー――!!!」
「先輩に対して、何だい、その口の利き方は?」
「まだ続ける気か、このダメ人間が!」
「罵倒されなくちゃいけないことかな?きっとこういう人もいるさ」
「だろうな!
でも、俺は会いたくない」
「奇遇だね。
僕も会いたくない」
「なら、なぜ使った!?」
「君のためだよ。
君が世の中のシミュレーションをしたいって言うから」
「こんなマニアックな奴はいらん!
夢を追い続けて、家族の支えがあって、やっと叶えられたってのが普通だろ!
なのに、お前は家族を捨てて、夢をあきらめただと!?
なめるのも大概にしろ!」
「現実はそんなに甘くないってことだね。
君も頑張っていこう」
「少なくとも、お前の言う奴にはなりたくないな。
そもそも、夢をあきらめたことを武勇伝として語るなんてありえん」
「わかってないね、君は。
あの話は、夢を目指していたという輝かしい世界を言っているんだよ。
結果よりも、過程さ」
「その結果が、目も当てられなくなっているだろうが!」
「そう怒るものでもないよ。
そうしていることで、君は人間として大事なものを失っていく」
「そうさせているのはどこの誰だ?」
「この子たちだね」
そう言って、黒髪は手にしていたマンガを閉じた。
それと同時に、メガネも手に持つ同じマンガを閉じた。
「迫真の演技だったよ。
さすがは委員長」
「お前もなかなかのものだったな。
しかし、実際に読んでみると、この登場人物たちの熱量が伝わってくるな。
いい勉強になった」
「このまま、生徒会長を目指してみる?
君ならいけそうだけど」
「いや、いい。
そんなことをしたら、ゲームをする時間が減ってしまうからな!」
どうしたら、コメディーになるのかが良くわかりません。
そんな手探り状態で書いた作品です。