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『好きな人の名前は言うな』
『どんな事が有っても私は楓の味方だ』
『強い気持ちで生きていけ』
琴音の言葉を頭で思い出す
……私、蒼太に何言われるのよ
私の味方とか言った割に逃げる様に帰ったくせに!
教室のクラスメイトがドンドン居なくなっていく
『迎えに行くから』
「遅いな…着信とか無いし……うわっ!…危な…………」
携帯の蒼太の名前を探して指が止まる
同じ欄に有る名前を思わずタップして発信しそうになる
「楓っ!」
「うわっ……なんだ蒼太か……」
声にビックリしちゃったじゃない…
「何だよ、職員室から走って来たのに冷たいなぁ」
ハァハァと息を吐きながら私の机の上に座る蒼太は本当に疲れてるみたい
きっと急いで走って来てくれたんだな
「有り難う……なんて言うと思った?遅すぎる!もっとマッハで走って来なさいよね」
「どんだけ鬼コーチなんだよ……でも遅れたのは俺の用事だから……」
「うんうん、だよね?たから?」
優しい蒼太は理不尽な事も許してくれる
本当に良い奴
「仕方ない、ジュース奢ってやる」
「やったー!」
椅子から立って軽く蒼太に抱き付く
「…………」
「私、炭酸ね?よしっ、行こう!」
「あぁ……」
直ぐに離れて荷物を持って教室を出ようとする私に後ろから着いてくる気配が感じられない
「蒼太?行くよ?」
「……あぁ、行こう」
ゆっくりと机から降りる蒼太を見て本当に疲れてたと私は勘違いした……その時は。
「先生に用事?」
「ちょっとな……」
「ふーん」
「お前、飲みながら乗るのかよ」
駐輪場に来るまでの自販機で約束通りジュースを買って貰った
琴音の謎の覚悟の事を考えたり、間違えて電話しそうになったりしたお陰で正直凄く喉が渇いてた
「だってぇ……誰かさんが遅かったから…」
「判ったよ…溢すなよ?」
「へへ、サンキュー!」
「全く……そんなんじゃ彼氏出来ねーぞ?」
朝と同じ様に蒼太の肩に両手を乗せて私は立って後ろに乗ってる
「はぁ?」
私の問い掛けに蒼太は答える事無く自転車を漕ぎ始めた
何で彼氏の話になるのよ?
態度がガサツだから?
「…………」
道なれた坂を蒼太と一緒に下りていく




