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引き篭もりの冒険

作者: 夢見茅

習作です。

野次馬やじうまが群がり、パトカーと救急車のサイレンがうるさく鳴り響く交差点の真ん中に寝転がる私。


どうしてこうなった。


こんな事になるならずっとあのまま家に引き篭もってれば良かったな。


人生最後の声にもならない独り言はそんな後退的なものだった。


ことの顛末てんまつは一時間前、長年引き篭もりのプロと自負じふしている私が外に出る練習のため、本屋に行こうとしたところからだ。


「暑い。帰りたい。」


朝のニュースで今日は三十八度を超える真夏日となるでしょう。というつい先程聞いた天気予報師の話の真偽しんぎを自ら確かめつつ、太陽を睨みつける。


「もう帰ってもいいよね。こんなに暑いなら熱中症とか脱水症状とかになりかねないし。よし帰ろう。直ぐ帰ろう。今帰ろう。」


別に誰かに言っている訳では無く、ただの独り言です。


私は誰とも会話をしないからか、独り言が多いのです。

それのせいもあり、友達はおろか知り合いすらいません。


想像してみてください。

朝、ゴミを捨てにゴミ置き場に行くと全身黒ずくめの女がぶつぶつと何かを言いながらやけに大きいゴミ袋を持ち、うろうろとしているさまを。

しかも、こちらに近づいてくるのです。

恐怖以外の何ものでもありません。


実際は日焼けをしたくないから服を着ているだけ。

うろうろしていたのは今日は燃えるゴミの日か燃えないゴミの日か分からなかったから。

近づいたのはそれを聞くため。

決して不審者ではありません。不審者ではないのです。大事なことなので二回言いました。


その後、話を聞こうとした人には足速あしばやに逃げられたんですけどね。


そんな事はどうでもいいです。

私の悲しい過去に興味はありません。


それよりも今着実に本屋に向かって歩いているということの方が重要です。


目指せ、アウトドア系女子。


「ねえ、ねえ、お母さん。あの人真っ黒だね。」


「見ちゃいけません。誘拐ゆうかいされたらどうするの。」


いやいや、しませんから。

何幼気いたいけな少年にろくでもないこと吹き込んでるんですか。


なんなの、そんなに不審者に見えるの。

まあ、黒い帽子にサングラスとマスクしてたらそう見えなくもないですけど。

もう少し内面も見てあげてください。

ほら、こんなに優しそうなお姉さん他にはいないでしょ。


あ、待ってください。

携帯を取り出すのはちょっと待ってください。

お願いですから110番はしないで下さい。

まだ、何もしてませんから。

警察は事件が起こらない限り動きませんから。


ふう、事なきを得ました。

まったく、最近の若者は直ぐ人を頼ろうとする。

少しは自分の力で解決しようと努力をしろよ。


ぐふう。

でっかいブーメランが心臓に刺さりました。

誰ですか、こんなもの投げた人は。

正直に言いなさい、怒らないから。

はい、私です。


言ってて悲しくなってきた。


本当にもう帰ろうかな。


と言いつつも、この信号を渡れば本屋なんですけどね。


長い道のりでした。

体感距離十キロメートルくらいです。

実際は八百メートルもありませんけど。


あ、さっきの少年。


そんなに走ったら危ないですよ。


ほら、言ったそばからけてる。


ん、もしかしてこれ赤信号じゃないですか。


不味まずいです。車が来てます。


お母さんは、ああもう。探してる暇はないですよ。


とりあえず助けなきゃ。


といった具合に少年の代わりにかれた私は冒頭ぼうとうに戻るという訳です。


この時学んだ事としては、『慣れないことはしない。』ですね。


この後、死んだ私は神様の下に行き、一悶着ひともんちゃくあるのですが、それは別の話。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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[良い点] ・話の構成がしっかりと出来ている。 [気になる点] ・強いて言うなら、盛り上がる所が無かったこと。 [一言] 悪い点を挙げはしましたが、短編で盛り上がりを見せる、というのもなかなかに難し…
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