8 沈んだり浮いたり
私の婚約者になってると言う事は、私がそれなりのお嬢様と言う事は知ってると思う。
同じくらいの会社の御曹司なんだろうこの人に、内心で馬鹿にされてるんじゃないかと思う。
こういう場面になって初めて思った。
あ~~~私、なんか平凡すぎるお嬢様だ~~~おバカ丸出しとか恥ずかしすぎる・・・
たぶん、マナーとかの行儀作法?的なもの?は全然大丈夫だと思うのよ、小さい時から両親と志保さんに叩き込まれたもの。
お給料もらってるからと、居酒屋とかカフェとか行き過ぎたのかしら…。
お嬢様らしいことなんて…拒否してきたし。
こういうことろでツケが回ってくるのね・・・。
この人には平凡感覚過ぎる私はやっぱり合わないわ。
どこぞのお嬢様が似合ってるんだわ。
無意識に愛梨は大翔の隣に立つことを想像し、グルグルと自己嫌悪に陥っていた。
大翔は、全然しゃべらなくて、さっきまで明るかった表情も曇って行ってる愛梨を見て、どうしたのかと思い、話しかけてみた。
「愛梨、大丈夫?気分悪くなった?」
「・・・・・・」
無言の返事が返ってきた。
ふぅ・・・。愛梨は何を考えているんだか。
眉を垂らし、困ったような顔をして愛梨を見つめた。
大翔は愛梨が黙りこくってしまったのを心配した。
無理矢理連れ出した愛梨が少しずつ口を聞いてくれるようになった。
今日一日はずっとムッツリ怒っていんだろうと思っていたら、楽しい時は楽しい、嬉しい時は嬉しい、何か考えてるのかな?と思ったら、怒ったり笑ったりとくるくると変わる表情。
話しかけたら無言でも表情で返してくる。
たまには返事も返してくれるようになった。
海では、友だち宣言まで出てきて会話も増えた。
それが突然のだんまり。そして、俺の声が聞こえないくらい。
明るかった顔の表情も曇り、一切の笑顔も出なくなった。
料理が口に合わなかったわけじゃないみたいだし、何がきっかけだった・・・?
今もボーっとしてるが箸は進んでる。
顔は沈んだままだ。
どうやって、沈んだ気分を上げてあげようか・・・
大翔はディナーを食べながらいろいろ考えた。
あの後、私はホントぼぉっとしてたんだろう。
美味しいと叫んだ料理を食べても、他の運ばれてきた料理を食べても味を感じなかったし。
そして、お店を出たことも覚えてなくて、いつの間にか、夜景が目の前に広がった。
夜が街中を暗い海と化している中で、街の光が無数のきらめく星のようにキラキラと輝き、愛梨の心を虜にした。
都心の煌びやかな夜景に愛梨のテンションは上がっていった。
「わぁぁ~ッ!すっごくキレイッ!!こんなきれいな夜景、初めて~!!」
さっきまで妙な思考の波にのまれていた愛梨だが、大翔の右腕にしがみついた。
わ~わ~こんな夜景見たことない!!
ほんとステキすぎる!!
元気な愛梨を見て、ほっと安心した大翔は頭をポンポンした。
「また来る?」
「うん!来たいッ!また見たい!!」
大翔に思いっきり抱きつき、満面な嬉しい顔をして答えた。
が、その直後、青ざめた。わッ私”また来たい”って言っちゃった!!
「・・・って、来ない!さっきの間違い!碓氷さんとは来ないから!!」
「うん、また来ようね、愛梨。」
とろける様な笑顔で見つめられた。
ドキンッ!
そんな大翔の顔を見た愛梨は、心臓が跳ねた。
ドキドキして顔が赤くなっていくのが自分でも分かったから、とっさに俯いた。
大翔は、顔を赤くした愛梨に気付いたのか、くすくすと笑い、愛梨の髪を一房掴み、するりと梳いた。
そして、すっと愛梨の腕を手が滑り、手を繋いだ。
愛梨はドキッとした。女の子とは違うゴツゴツとした大きな手。
大翔の暖かさが手から伝わってくる。
なんだかすごくあったかい気分になった。
ぱっと大翔にのぞきこまれ、思わず背をそらしてしまった。
それに気付いた大翔は口角を上げて、イタズラっぽく言った。
「残念だけど、愛梨。どんなに愛梨がこの結婚をしたくなくても、止めれないんだよ?」
「・・・」
「だから、これから先、ずっと僕がここに連れてきてあげるよ」
「・・・」
にっこりとほほ笑んだ。
うっわ~ほんとイケメンだ~!!
ふわっと笑う大翔は本当にカッコイイ。イケメンだ。
「ねぇ、愛梨はどうして僕の事を聞いてこないの?」
「え?どういうことですか?」
「婚約者の僕に興味はない?」
「興味がないというわけではないですけど。」
「なら、どうして気になることとか、聞きたいことを聞かないの?」
「う~ん、気にはなるけど、必要ない?かな」
「・・・必要ない?どうして」
碓氷さん、なんか怖いんですけど。
さっきまでほんわか雰囲気だったのに、いきなりピリピリモード。
私、なんか悪い事言ったかな?
どうしよう・・・
「必要ないというか、そういうのは先入観になると思うんですけど。」
「先入観・・・」
「私はよく前情報だけで判断されて・・・。私本人なんて見てくれる人なんて一握りぐらいです」
「前情報・・・?」
「そうです。社長の娘と言うだけで、私の上辺しか見てないし。私に取り入って甘い蜜を吸おうとしている人ばっかり。私自身、先入観を持たれて嫌な思いをいっぱいしたんです。だから他の人にもそういう思いをしてほしくないから、自分も聞かない様にしているんです。」
愛梨は眉を下げて困った顔で微笑んだ。
そんな愛梨を見て、大翔は言葉に詰まった。
泣きそうな顔をして、無理やり笑ったような顔。本当に嫌な思いをしたんだろう。
「愛梨は優しいね」
「そんなんじゃないです。自分がされて嫌なことは人にはするなって両親に小さい時からいわれてるんです。」
「そうなんだ・・・。じゃぁ、聞きなくなったら聞いて?と言っても、耳に入っちゃうかもしれないけど。」
「?」
大翔はきょとんとした愛梨の頭をポンポンとして、優しく微笑んだ。
愛梨と大翔は、ちょっとしんみりしてしまったまま、夜景を見ていた。
ぶるっ・・・愛梨は繋いでいない方の手で腕をさすった。
さむ・・・。動いてないから寒くなってきた・・・。
それを見た大翔は腰をかがめて愛梨の顔を覗き込んだ。
「そろそろ冷えてきたね。さて、帰る?」
「はい」
大翔に手を引かれた。愛梨はずっと手を繋いでいたことに気が付いた。
男性と手を繋いだことなんてない。
手を繋ぐことがこんなにホッコリとした気持ちになるなんて知らなかった。
不思議と手を振り払う事なんてしなかった。
大翔に車の助手席のドアを開けてもらいするりと座った。
ゆっくりと車が家に向かって動き出した。
車内の匂いや暖かさ、心地よい揺れに愛梨はうとうとしていた。
「愛梨?寝ちゃいそう?」
「う~?起きてるよ~??・・・う~?」
「寝てていいよ」
「う~・・・寝ないです。ん~~~起きてるってば~?」
大翔はうつらうつらしてる愛梨を見て笑った。
警戒心を解き始めた愛梨だけど、結婚は納得できない様子。
どうしたものかと考えながら、運転していた。
赤信号になり、ふと横を見ると、愛梨はくぅくぅと寝息を立てていた。
大翔は愛梨の頭をなでながらふっと笑い、愛おしそうな目で見つめた。
「愛梨は本当に可愛いね。表情豊かで明るい愛梨。こんな愛梨を・・・俺は放してやれないよ?」
直前に寝てしまった愛梨にはこの言葉は届かなかった。
ありがとうございます★