7 友達として考えよう
「わぁ~!!海キレ~!!キラキラだぁ~!!私、海って久しぶりッ!!」
太陽の光が反射してキラキラ光る海を見て、テンションが上がった私ははしゃいでいた。
サラサラでふかふかした白い砂浜を走り、波打ち際まで来た。
履いていたサンダルを脱ぎ、そおっと水に足を浸けてみた。
「わっ!冷た―――いッ!!でも!気持ちいいッ」
愛梨は浅瀬に立ち、両手を空へ高く上げ、景色を体中で感じた。
キラキラした青い海、蒼く高い空、ふわふわな白い雲、輝く太陽。
「碓氷さんもこっち来てーッ!すっごくキレイで、すっごく気持ちいい!!」
自分が不機嫌で、大翔と絶対しゃべらないと心に決めていたことも忘れて、大翔を呼んだ。
大翔は、海を見て、空を見て、そして愛梨を見て、ゆっくりと愛梨のそばまで歩いてきた。
「うん、すっごく綺麗だね。」
今日、一日中自分に向けてもらっている大翔の優しい笑顔。
自分が23歳だということも忘れてはしゃいでいたことを思い出し、ちょっと恥ずかしくなった。
「はしゃぐ愛梨もすごく可愛いよ。海、好きなんだね」
愛梨は頭をポンポンとされて、思わずパッと顔をあげたが、すぐにふいっと横を向いてボソッと答えた。
「・・・はい。海好きです。あんまり来る機会はないですけど。」
ポンポンとした頭をなでられ、すっと髪を指に絡ませゆっくりと手を滑らせた。
愛梨の頬に一瞬だけ大翔の指先が触れた。
その瞬間、ドキンっと心臓が跳ねた。
少しだけ偶然触れただけなのに、触れたその部分が熱くなっている気がした。それにどうせ、顔だって赤いに決まってる。
そんなのを悟られたくなくて、慌てて触れられた髪をぎゅっと握った。
触れたか触れてないかなのにこんなにもドキドキしてしまってる自分にも動揺していた。
愛梨は大翔に顔を向けるのは脚下して、目だけを向けじぃっと大翔を見て考えた。
”イヤなものはイヤ”と頑固でわがままな面を見ても、好きな場所に来てはしゃぐ愛梨を見ても、呆れた顔をしないとか・・・。
案外、この人、いい人なのかな?
・・・単純なのかもしれないけど。
じっと見られていることに気が付いた大翔は、どうかした?っと聞いてきたけど、頭を横に振った。
変にいろいろ話しかけたり、変に盛り上げようともしない、だけど落ち着くような雰囲気を作るところは新と似ている、と思う。
聞いてる音楽も似ているみたいだし、もしかしたら匂いの好みも似ているかもしれない。
だって車の匂い、私が好きな匂いだし。
それに、触れられても…って、触れたか触れてないかぐらいだけど、頭ポンポンされても全くイヤじゃない。
イヤなときはほんとに鳥肌立つぐらいイヤだもん。
新と似てるし、(言葉を考えること)碓氷さんも友達じゃないと失礼よね?
うん、失礼だわ。
うん、決めた。
碓氷大翔。
君は、私の友達と認定しよう。
あは★・・・私・・・なんて・・・上から目線なんだろう・・・
でも、関わりたくもない人から友達に昇格だよ、良いことにしよう!
友人なら、いつまでも不機嫌モードは…モードって言ったって、マジで不機嫌だったんだけどね。
いつまでも不機嫌のままじゃダメだわ。普通に話さなくては!
そう思い立った愛梨は、横に立って背伸びしている大翔の前に立ち、左手を腰に当て、右手はビシッと大翔の顔の前へ伸ばし、言い放った。
「碓氷さん!私あなたの事、お友達と認定するわ!」
愛梨は、言い切ったわ!っと満足な顔をした。
そんな愛梨の前で大翔は、ぽかんとした顔をした。
だけど、その直後、あははは!と大翔はお腹を抱えながら初めて声を出して笑った。
「あはは!愛梨、それ、どういう心境の変化?」
さっきまで、キレイで落ち着きのある大人な笑顔しか見ていなかったが、この笑顔は大人な笑顔なんだけど、どこか子供っぽい表情が混じり、男の人なのにすごく可愛いと感じた。
こんな顔で笑うんだ。
大人な笑顔よりも全然こっちの方が良い‼
あれ?なんだろう?この暖かい笑顔なんか知ってる感じがする?
・・・そんなわけないよね!だって碓氷さんと会ったことないし。
知ってたら逆に怖いわ。
そんなことを心の中で思った。
そして、今日一日考えた事を話始めた。
「私が朝から夕方まで不機嫌だったんですけど、これでもいろいろ考えてみたんです。」
「それは…婚約破棄の方法…とか?」
「え?婚約破棄の方法…?いえいえ、そんなことよりも、碓氷さんのことです。」
「え?“そんなこと”なの?」
大翔は、愛梨が言ったことに思わず笑ってしまった。
愛梨は婚約破棄の方法をそんなことだと言い放ったのだ。
「え?私なんかおかしな事言いました?」
「ううん、大丈夫。おかしくないよ?それで僕の事って?」
「あ、はい。碓氷さんって案外、いい人なのかな?って。」
「は?」
「え?だって、碓氷さんて、イヤじゃないもの。」
「は?余計分からないんだけど?」
くっくっと笑いながら聞いてきたので、さっき思ったこと全部話してみた。
もちろん、新のことは知らないだろうから“友達”といったし、ドキッとしたことや可愛いと思ったこと、知ってるような感じがしたことは黙っていた。
確か男の人に可愛いって言ったらダメなんだよね?
「そっか。触れられるのはイヤじゃないんだね。」
大翔は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。
愛梨は足で海の水をパチャパチャしていたので聞き取れなかった。
「え?…すみません、ちょっと聞こえなかったです。」
「ううん、何でもないよ。僕は愛梨だから優しくできるんだよ。」
大翔はまた愛梨の頭を撫でながら、優しさいっぱいの笑顔で、さらっと言う。
愛梨はこんなこと言われたこともなくて、ぼっと赤くなって俯いてしまった。
パチャパチャ
パチャパチャ
ぐぅ~~
特に話もせず、二人並んで座って海を眺めていたら、お腹がなった。
愛梨は顔を真っ赤にして、慌てて鳴ったお腹を隠した。
大翔はくっくっと笑いながら声をかけてきた。
「愛梨、お腹すいた?僕おすすめの所があるんどけど、そこはどう?」
「・・・はい。お願いします!」
お友だち宣言したのに加え、お腹が鳴って恥ずかしい思いをしたのとで、少しだけだけど、会話をするようになった。
もちろん仲の良い友達みたいにしゃべりまくるのではなく、ポツリポツリ一言二言言葉を交わす程度。
移動中の車の中では、鼻歌を歌ってるので、会話するほど暇じゃないし。
車が止まった。
外を見ると、すごくオシャレでセレブが行くようなレストランがあった。
「わぁ~・・・。こう言う感じのところ、久々。」
思わず、心の言葉がこぼれてしまった。
ご令嬢だからと言って、いつもいつも高級なレストランに行ってるわけじゃない。
たま~に行くといった方が正しいかも。
こんなオシャレなお店に行くのは家族でお祝い事とかそんな時だけかしら。
大抵家で料理長のご飯食べるし。あ、たまに志保さんが作ってくれる家庭料理も食べるかしら。
日本有数の大企業の社長サマ(私の父)は、娘に甘くはないのです。
お給料を頂いている身分なので、行くところと言えば、お昼はカフェに、夜は居酒屋。
バーとかも行ったことはあるけど、お酒をほとんど飲めない愛梨は、ほぼ行かない。
「うぁ~!おいしい!コレすっごく美味しいッ!」
あまりの美味しさに、思わず声を上げた。
大翔はとても優しい顔でくすくすと笑って、愛梨を見つめて言った。
「すっごく気に入ってくれたみたいで、良かった。すごく幸せだ、と顔に書いてあるよ」
「えッ!ウソ!?」
慌てて両手で頬を覆った。と同時に、恥ずかしくて顔が赤くなっているのを手で感じた。
食べるの大好き!大食らいだと思われた!?
――――大翔は父から聞いていたんだろうか?
社長令嬢なら慣れているだろう、こういうレストランはほとんど行かなくて、それ故に、庶民の様な料理の感想を言ってしまうことを。
あまりの恥ずかしさに、お店を出るまで大翔とほとんど話をすることは無かった・・・。