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6 不機嫌なんですけど。

大翔の肩に抱えられたまま外に出て、車の横に降ろされた。

「さぁ乗って、愛梨。」

助手席のドアをすっと開けて、愛梨は車に乗るように促された。


私は最後の足掻きだ、と思って、思いっきりイヤな顔をして大翔を見た。

「行かないって言ってるんですけど。」

さっきまで優しい顔で笑っていたのに、今度は、少しムッとした顔で愛梨を見つめた。


「いつまでそう言ってるつもり?自分の意思をはっきり人に伝えるのは良い事だけど・・・、

 あまりにも言いすぎると、相手を怒らせたり、面倒な事になってややこしくなることは知ってる?」

さっきまでの優しい声色とは打って変わって、ヒヤリとさせる様な冷たい声。


あわわっ怒らせた!と思って、愛梨は慌てて俯いた。

俯いた愛梨に、くすっ。ごめんごめん、怖がらせちゃった?っとつぶやきながら、頭を撫でた。


「さぁ、乗って。せっかくいい天気なんだし、どこか行こうよ。」

「・・・分かりました。」

そう言って、少し俯いたまま、目だけ大翔の顔を見た。

大翔はにっこりとほほ笑み、愛梨を助手席に座らせドアを閉め、運転席に乗り込んだ。


日本製のトップクラスの車。”L”のエンブレムが付いてる車。

静かな走行にふかふかなシート、ピカピカに磨かれている車は愛梨は・・・悪いけど、乗り慣れている。


でも、車内はすごくいいにおい。この匂いは芳香剤じゃない。愛梨の好きな匂いだった。

この人もこの匂いが好きなのかな?なんて思うけど、口は開かないと決めていた。


「愛梨、どこか行きたいところある?」

「特にありません。どこでもいいです。」

「・・・そっか、じゃぁ行きたいところが出てきたら教えてね。」

「・・・」

ブッスーっとしたまま、窓から外を眺めていた。


どのくらい走ったのかな?

結構距離走っていると、さっきまでイライラしていた気持ちも、だんだん落ち着いてきた。


落ち着いてきたので、ちらっと横目で大翔をのぞき見てみた。

車まで連れてきた時の強引さは除いて、大翔のこの車のドアを開ける動作を見ると、

この人は、いろいろな事をスマートに行動する人なんだろうか、と考えてしまう。


いや!待って。車乗るときだって脅されたようなもんだわ!

あんなこと言われたら一緒に出掛ける選択肢しか無いじゃない!

・・・でも直感的に、・・・雰囲気から感じるのかな?

動きに無駄がなくスマートで、冷静で決断力があるような感じの人だと思った。



ふと、冷静に見てみると、俗に言うイケメン…。

いや、イケメンで終わらせてもいいの?って思うくらいカッコイイ。

みんなが振り返るだろう容姿に、落ち着きのある声。

今日着ている服だって、オシャレに着こなしている。

それに、シャツやスラックスには、皺のひとつもない。

車だって、ウチにあるやつより良いやつ?なのかしら?


・・・この人、一体何者なんだろう?


”普通の男性とは違う雰囲気”、”両親は喜ぶが、本人の意思のない結婚=政略結婚”、”碓氷”、って・・・

もしかして、あの碓氷・・・?


ううん、それはあり得ないわ。あの碓氷のはずがない。

日本トップの碓氷コーポレーションなんかと、うちの会社が提携して傘下に入ったって、ウチには良くても、逆は何も特にならない。

政略結婚だったらもっと良い条件の令嬢はたくさんは居ないが、確かにいる。

ウチと同じぐらいの企業で、碓氷って苗字あったかしら?

それにイケメンなんだし、彼女ぐらい居るんじゃないの?別に私、驚くほど可愛いわけじゃないし。


う~ん…っと色々考えていると、車が止まった。

顔をあげると可愛いカフェに到着していた。

プロヴァンス風な外観で、お店の中もとっても可愛くて、男性は居づらいんじゃないかと思わせる様なカフェ。


「・・・(わぁ!すごい可愛いッ!!オシャレーッ!!)」

声には出さないけど、心の中でめちゃくちゃ感動した。


店内に案内され、ランチを注文した。

大翔は落ち着いていたが、愛梨は店内をキョロキョロ。

「ここ、有名なカフェらしいけど、来たことあった?」

そう言われて、来たことないです。と首を振りながら答えるだけ。

大翔は、そうなの?と言うぐらいで、それ以上話してこない。


わぁ~わぁ~外観も外国風で可愛いし、店内も可愛くて、ここは瑠依に教えてあげなくちゃ!!

「・・・素敵なお店~・・・」

ボソッとつぶやいてしまったのが聞こえたのか、大翔は嬉しそうに言った。

「気に入ってもらって嬉しいよ。女の子はこういうところ好きだよね。」

「・・・・・」

可愛いカフェで、おいしいランチ。ウキウキしているはずなのに、微妙な気分。

たぶん友達と来てたり、大好きな彼氏と来てたらすごく美味しく、楽しく食べれていたと思うけど、大翔と一緒だと言う事で、ほとんど会話が無く、味気ない食事となってしまった。


僕のこと知ってほしいって言ってたんじゃないの?

しゃべらなきゃあなたがどんな人か私は分からないよ?

まぁ、別にいいけど。しゃべらないならしゃべらないで。

・・・というか、私が話しかけられてもほとんど返さないから、会話が無くなってるんだろうけど・・・。



「・・・ランチ、ご馳走様でした。ありがとうございます。・・・」

ランチを大翔にご馳走になった。

おごりは嫌だと、これまた言い合いになりそうだったが、僕が誘ったんだから遠慮しないで、と微笑まれたので、それもそうか、と納得してご馳走になった。



車に戻ると、大翔が再び聞いてきた。

「どこか行きたいところ出てきた?」

「・・・じゃあ、海。でも遠かったら海じゃなくて良い・・・」

お昼をご馳走してもらった代わりに、行きたいところを、ボソボソッと、答えた。

だって、おごってもらっただけじゃフェアじゃないでしょ!

行きたいところ答えたんだから、これでパーよ!


心ではふんっとしながら、でも言葉はぼそぼそと返事をした。

「OK。海に行こう。行きたいところ、教えてくれてありがとう。」

すごく優しい笑顔で、愛梨の頭をポンポンとしながらそう言った大翔に、愛梨は少し心が痛んだ。


どんなにイヤな態度をとる愛梨相手に、穏やかで優しい笑顔を向けてくれる。

だって私が大翔の立場だったら、俺も政略結婚で好きでもないあんたの機嫌取りなんてしたくない。とか言っちゃうだろうし。


そういえば、なんでだろう?

この人にとっても政略結婚で、内心は嫌々で出かけてるかもしれないのに。

どうして、こんなに穏やかな態度をとれるんだろう。


大翔に対してすこし興味が湧いた。



海に着くまで時間がかかる、と言われた。

愛梨は自分がどこにいるかも分からず、大翔に任せていたので、道中暇になった。


車内では、大翔は嫌味にならないくらいの間隔で、愛梨に話しかけてきた。

「愛梨は、どんな音楽聞くの?好きな音楽があるならかけようか?」

「・・・特にコレってないですけど、・・・テンポが良くて明るいノリの・・・を聞きます。」

愛梨は相変わらず不機嫌そうにぼそぼそと答えた。


大翔はそんなことも気に留めずに、パネルを操作して音楽を流し始めた。

「ん~、じゃぁ、コレはどう?」

「あ!コレ、私、今一番ハマってるグループです!!」

「そうなんだ。良かった!僕もこのグループ好きだよ。明るくて元気が出る曲が多いよね。」

「そうなんでッ・・・!!」

そうなんですよッ!って言いかけて、慌てて口を両手で押さえた。

一瞬、大翔はどうした?と横を向いたけど、すぐに前を向いた。


危ない、危ない!思わずテンションが上がってべらべらおしゃべりするところだった!

私は、不機嫌だったはずよ。思わず会話が弾んじゃうところだった!

今のはセーフだわ。そう、セーフ。


愛梨が一人劇場を繰り広げている様子を、大翔はくすくすと笑っていた。

愛梨の頭の中の様子が、全部顔に出て、だだ漏れしていることを愛梨は知る由もなかった。


気分も良くなり、鼻歌を歌い始めた時、大翔が笑いながら言った。

「愛梨、だだ漏れだよ?」

「えッ!?すみません。私歌ってました?歌ってはいないつもりだったんですけど・・・」

慌てて愛梨は謝った。まさか気が付かない内に普通に歌っていただなんて!!

恥ずかしくなり、顔が赤くなって俯いた。

「謝らなくていいよ。歌ってくれても全く問題ないよ。」

相変わらず落ち着いたトーンで話す大翔に、歌ったことに対して不快に思っている訳じゃないんだとほっとした。


顔の火照りもおさまったころ、大翔をちらりと見てみた。

機嫌の良さそうな雰囲気を醸し出していたので、なんだかちょっぴり嬉しくなった。

そんな愛梨は自分の好きな匂いと音楽で気分も良くなり、鼻歌を歌っていた。


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