5 ブリザード!
部屋に戻った愛梨は、バッグに入れっぱなしだったスマホを取り出すと、何かを着信しているのか、スマホが点滅していた。
あ、瑠依と新からLINEが届いてる!
先に瑠依からっと。
サクサクっとスマホを操作してメッセージを読んだ。
[愛梨、おはよー!二日酔いはいかが?笑
婚約者の件、色々大変かもだけど、愚痴だけは聞いたげるよ(^-^)v
婚約者とか未経験だからアドバイスは受け付けておりませーん!]
"おりませーん!"って!!・・・瑠依サンよ、のんきすぎるよ・・・。
瑠依からのLINEにさっきまでのイライラが消され、呆れたような気も起こったけど、瑠依の明るさに笑えた。
[おはよー!私は二日酔いになんて、なりませーん! そして、瑠依さん、のんきすぎるよ!笑 でも、話は聞いてねーσ(^_^;)]
っと、すぐに返事を打ち、新からのLINEを読んだ。
[電話をするように]
新にしては珍しく、一言メッセージ。
・・・新サン?何か怒っているの?
てか、何で私がキレられないといけないわけ?送るのそんなに嫌だったわけ?
送ってもらっておきながら逆ギレし、私は眉間にシワを寄せた。
こんな命令口調なら電話もしたくなくなるわ‼と、イラッとしながら新に電話をかけた。
『もしもし』
声のトーン的にはいつもと変わらない新の声。長年一緒に居ると一言で機嫌が分かってしまうのだ。
なので、私もいつも通りのテンションで話すことにした。
ご機嫌斜めな声だったら、こっちだって不機嫌マックスで電話してやったのに。
「あ、新?おはよ~。昨日も送ってくれてありがとう~。タスカリマシタ。」
『ん、あぁ、良いよ。送っていくのはいつものことだから。』
「それにしてもさ~、LINEの文章、あれはどうかと思ったんデスガ!!」
『・・・。』
「・・・。新?どうかした?」
『あ、別に何でもないよ。そう打ったらさっさと電話してくるかな?っと実験してみただけ』
「はぁ?意味不明なんだけど。実験?さっと電話するどころか、イラッとして電話するの止めようと思ったわ。」
『あはは!ひどいなぁ。・・・で、えらくご機嫌斜めな愛梨サン。何かあった?』
あ!そうだった!!っと、思い出し、大翔が布ベッドの中に居た事実は隠し、
婚約者だと名乗る男が居て、なおかつこの結婚は解消不可能と言う事実を話した。
私は、興奮していたのか、知らず知らず声も大きく、鼻息荒くしていた。
ずっと、うんうん、と話を聞いてくれていた新が口を開いた。
『・・・愛梨・・・。とりあえず、今日出て来れる?』
「今日?今から?」
『そう。今からじゃなくても、今日は無理?』
「う・・・ッ!!?」
うん、大丈夫~!って返事をしようとした瞬間、背中に突き刺さるような冷たい視線を感じた・・・。
な・・・何・・・背中にすご~~~っくいやーな視線がぐっさりと突き刺さるんだけど・・・。
言葉を詰まらせ、息を呑み、そろぉ~~りと振り返ると、大翔が黒いオーラを纏って立っていた。
にっこり微笑んでいるが、全く目が笑っていない・・・。
そして、愛梨の部屋はブリザードが吹き荒れた。
吹き荒れるブリザードに愛梨は固まった。
う・・・わ、私、何も悪いことしてないよね・・・。
なんなのよ、この人。顔は笑ってるくせに、目がめっちゃ怖いんですけど!!!!
『愛梨、どうかした?愛梨?』
スマホからは返事のない愛梨を心配する新の声が聞こえた。
新に返事をしなくてはいけないのに、大翔が醸し出すオーラに圧倒されて、動けなかった。
「愛梨、電話繋がってるよ?まだ話し中だった?それともちょうど終わった?」
腕を組み、ドアにもたれかかりながら、冷ややかに笑う大翔。
大翔は愛梨が話し中のは知っている。
愛梨はなんとかスマホを耳に当て新に返事をした。
「あ、なんでもない!昨日飲みすぎたから今日は大人しくしとく予定なの。ごめんねッ!」
『は?おい?愛…』
ブツッ!ツーツーツー…
あ~…新ゴメーン…。ワタクシこの冷えきった空間に耐えきれませんでした。
だって、怖すぎだよ、この人・・・。
てか、なんでこの人に睨まれたりしないといけないわけよ!!
イヤな男ッ!!っと、キッと睨んだ。
「愛梨。今日、暇なら出かけよっか?」
「え?」
思いがけない提案に、思わず、ぽかんっとしてしまった。
「今日、予定が無いなら、婚約者の僕とどこか出かけよう。
愛梨にとって僕は知らない結婚相手だから、少しずつでも僕のことを知ってほしいな。」
さっきまでの、真っ黒なオーラや部屋を覆っていたブリザードが消え去り、大翔の顔は優しい笑顔で微笑んでいた。
「いいよね?」
「・・・イヤ。碓氷さんと一緒になんて、絶対イヤ!!
お・こ・と・わ・り、させて頂きます!ここ私の部屋なんで、早く出て行ってくれません!?」
「う~ん、そっかぁ~。残念だ。誘うのは今度にするよ。」
大翔はちょっと困ったような笑顔を向けた。
当り前よ。誰が一緒に出掛けるもんですか!
ふんッっと鼻を鳴らし、くるりと向きを変え、パソコンを置いているデスクに向かおうとした。
「・・・なんていうと思った?」
「え?」
くすっと笑った声が、真後ろで聞こえた。と思った瞬間、体が浮いた。
愛梨は、大翔の肩に担ぐように抱きかかえられていた。
「ちょッ!!降ろしてッ!!何するのよ!!」
「くくく。何するって、一緒に出かけるから愛梨を連れて行こうとしてるんだけど?」
「だからッ行かないって言ってんじゃん!!バカッ!!」
この男!!楽しんでるし!!
グッと手に力を入れて体を放して、何とか降りようと試みて、
バタバタ暴れてみてもビクともしなくて、全く効果なし。
「くすくす。愛梨、無駄だよ。僕こう見えて結構力があるんだ。」
大翔は意地の悪そうな顔してニヤッとして笑っている。
なんでこんなに笑っていられるワケ?
人の許可なく勝手に担いじゃってッ!!
・・・ぶちッ・・・
「碓氷さん、もう、いい加減降ろしてください!!
嫌がる私を無理やり連れて行って、何が楽しいって言うんですか!!
私あなたと今から出かける予定も、結婚するつもりありませんから!!」
渾身の力を込めて、大翔から降りようと試みたけど、やっぱり無理だった。
それでも、出かけないということの為に足掻いていた。
抱えられ、玄関に向かう途中、愛梨の部屋からコソコソと去っていく父と母の後ろ姿を見つけた。
そんな父と母を見て、大翔はおかしそうに言った。
「お義父さんとお義母さん、ずっと様子を見ていたみたいだね。」
「ッ!!お父さん!!お母さん!!私連れて行かれそうなんだけど!!」
私は大翔の肩の上から必死に叫んだ。
コソコソしてくせに、見つかって開き直ったのか、すごく楽しそうな顔をしながら振り向いた。
「良いじゃない!大翔くんとお出かけ。新くんにも別に行くって言ってないみたいだし。」
「・・・」
一部始終…と言うか、大翔が愛梨の部屋に現れたときから私たちの様子を影から見ていたらしい。
「愛梨、行ってらっしゃい♡」
「大翔くん、愛梨をよろしく頼むよ。」
「はい。ちょっと外出してきます。」
なんだか、ほわんとした和やかムードで会話をしているけど・・・
「ちょっ!私行かないから!!」
「じゃぁ、行こうか。」
ニコニコして大翔は愛梨に声をかけ、また歩き出した。
「碓氷さんとは絶対、行きたくないんだってばー!!」
もう!どうしてウチの親はこんなに能天気なのよッ!!
娘がどうなっても言い訳――――――!?
「降ろしてよ―――!!!」
涙目になって叫ぶ娘を見て、お父さんとお母さんは楽しそうに何やら話している。
「伊織さん、私、大翔くんから愛梨への愛を感じるわ!」
「ははは!それは大袈裟じゃないか?愛と言うか、執念じゃあ・・・。」
「だって、大翔くん、新くんにヤキモチ焼いていたわよ、絶対」
「梨沙、そうやってあまり楽しむんじゃないよ。それは君の悪い癖だ。」
「娘の反応が楽しくって」
「愛梨の事は、大翔くんに任せていたら、問題ないよ。」
「そうね!私たちの長年の夢が叶う訳だし、楽しみにしなきゃね!」
当然、この会話は愛梨には聞こえはいなかった。