17 火花散る
どのくらいぶりでしょうか?
1か月半でしょうか?
久々更新です。よろしくお願いいします。
愛梨が名前を呼ばれて振り返ると、そこにはにっこり笑ってはいるけど、数日前に愛梨の部屋で見たのと同じ“黒いオーラを纏った大翔”が立っていた。
愛梨はそんな大翔を見て、一瞬ビクッとして、一歩後ずさった。
うへっ!?碓氷さん!?
あ~・・・碓氷さん、またにっこり微笑んでるけど、全く目が笑っていないよ~。
「愛梨、何してるの?」
にっこり?笑う大翔はそう問いながら愛梨の方へ歩み寄った。
そう問われて愛梨は頭にはてなを浮かべて、頭をこてんと倒しながら答えた。
「何を?・・・う~ん、ただの会話?」
愛梨はえへへっと笑いながら駆け寄った。
肩を抱こうとしていた新の横からスルリと抜けて。
愛梨――――――。
スルリと抜けて行った愛梨の後姿。
新は、今まで愛梨が居た自分の横を見て、行先を失った手を見つめ、空虚感を感じた。
そして、簡単に離れて行く愛梨にズキリと心が痛んだ。
大翔は、自分の所に来た愛梨ににっこりとほほ笑んだ。
そして、いつの間にか黒いオーラを纏ってなく微笑む大翔は、愛梨にとって今は天国の様に感じた。
だって、不機嫌マックスな新の隣には居たくないし。
しかも新と一緒だったら慧維はうるさいけど、碓氷さんならうるさくないかもしれないし♪
ラッキー♪
碓氷さんが現れたことで、愛梨は慧維の小言を避けることが出来たわッ!
鼻歌でも歌いたい気分~!
能天気なことを考えてる愛梨の横に居る大翔は、体は愛梨に向けたまま、射抜くような鋭い眼で新を見た。
「愛梨、彼はただの会話をするために来たわけじゃないみたいだけど?」
大翔はため息をつきながら再び黒いオーラを放っていた。
愛梨の定時を見計らって迎えに来てみれば、愛梨の友人の新がエントランスに居た。
あいつが来ていると言う事は、今日のTVを見て、愛梨の所に来るだろうという俺の予想は外れていなかったな。
しかし、黙って見てはいたが・・・、愛梨に触れることが日常なのか?
普通に手を繋ごうとしていたし、頭なんて触られ慣れている感じだった。
いつから?
愛梨はあいつに触られるのが平気なのか?
その上、新は愛梨を自分に引き寄せて歩いて行こうと、愛梨の肩を抱こうとした。
自分の婚約者が、他の男に肩を抱かれるなんて黙ってはいられない。
大翔の中では、黒いモヤモヤしたものが渦巻いていた。
新は、鋭い視線で見てくる大翔に少し押され気味だった。
日本トップの会社の専務で、しかもかなり有能で、人としても評判も良く、新の憧れであり目標の人物だった。
俺が、存在感、威圧感、強い眼力があり、上に立つ人だと出来る堂々とした大翔と同じステージに立てるとは思わない。
けど、いくら憧れの大翔だからと言って、ずっと思い続けている愛梨を簡単に渡せるわけでもない。
この間、愛梨を渡さないと決心したばかりだ。
「こんにちは、大翔さん」
新は内心緊張しながらも堂々とした態度で大翔に声をかけた。
俺も伊達に御曹司をしているわけではない。
自分に仮面をつけて対応することなどお手の物だ。
「こんにちは、新。愛梨に何か用だった?」
大翔の隣に立つ愛梨の両肩に手を置き、腰をかがめて愛梨の顔の横に自分の顔を持って行き、にっこりと笑いながら、愛梨は自分の婚約者であることを見せつけた。
わっ!近っ!碓氷さん、顔近いわッ!
キレーな顔は近くで見てもキレーな顔だわ~
碓氷さんって何歳年上だったかしら?
男の人ってこんなきれいな肌してるっけ?
2人の無言の駆け引きも気付かない愛梨は、自分の真横にある綺麗な顔をじ~っと観察していた。
そんな愛梨を見て大翔はくすくす笑った。
そんな柔らかな雰囲気を醸し出している2人に、新はまだズキッと心を痛めた。
「ええ。今から愛梨と出掛ける予定だったんですよ」
新は心の痛みを隠しながらにっこり微笑み、サラリと言い放った。
今度は、愛梨は目を大きく開けて眉を寄せ、眉間にしわを寄せた。
はぁ!?新、何言ってるの!?
私、今日は新と出かける気が無いんだけどッ!!
愛梨は新が決定してもいない予定をサラッと言って焦ったけど、別のところでちょっと引っかかった。
「―――あれ?新、碓氷さんと知り合いなの?そんな事ひとっことも言ったことなかったよね」
キョトンとした顔でぽろっと聞いた。
新は微妙な返事で苦笑いした。
「あ、あぁ、知り合いだけど、言ってなかったっけ?」
「聞いてないよー!え~、何、碓氷さんを知らなかったのって私だけー!?」
ふてくされる様な顔をしている愛梨に大翔は両肩から手をは無し、頭をなでた。
「新とはね、お義父さんと慧維くんが来る会合やパーティーで知り合ったんだよ」
「へー、そうなんですね!新から聞いたことなかったです!え!?慧維とも?!」
愛梨が、慧維からも大翔の事を聞かされてない徹底ぶりに、大翔は内心くすっと笑った。
「ふふふ。そう、慧維くんともだよ。」
「だから慧維は、今回の話は前から知っていたし、『俺は賛成だ』とか言っているんですねー!」
「あ、慧維くん、賛成してくれてるの?嬉しいなー!」
嬉しさのあまり大翔は愛梨を軽く抱きしめた。
軽くだけど、抱きしめられたことにちょっとびっくりしたけど、にっこりと嬉しそうに笑う大翔を見て、ちょっとドキッとしてしまった。
新はピクッと反応した。
愛梨の弟の慧維くんが賛成・・・?あの慧維くんが?
俺が近くに居たり愛梨に触れようとしたりすると威嚇して、俺が隣にいることを認めていなかったのに。
なぜ大翔さんが認められてるんだ・・・?
碓氷コーポレーションの御曹司だからか?
愛梨に苦労させないためか?
だが、その点は大翔には負けるかもしれないが、一条でも将来愛梨は苦労しないだろう。
何で認められたのか?
大翔に抱きしめられていることをハッと思い出し、ここは会社のエントランスなんですけどッ!と言いながら大翔の腕を解いた。
そして、眉間にしわを寄せて何やら考えている新に声をかけた。
「あ、そうだ。新、なんか聞きたいとこがあるんだったよね?なんだったの?」
碓氷さんが現れたからすっかり忘れてたわ。
新はいったい何を聞きに来たのかしら?
TVを見て、あの話を認めたかどうかなんて電話でいいんじゃない?
身長差からか上目遣いのような大きな目を向け、首を傾けた愛梨。
スッと愛梨の横に立ち、腰に軽く手を回し、大翔も続けた。
「聞きたいことがあるなら、今聞いたらどうだ?」
まぁ、新の話って言うのは俺がいるところでは出来ない話だろうな。
おおかた、俺との婚約をやめて自分の所に来ないか、とか言う話だろう。
そう考えながら大翔は無表情で新を見ていた。
新は目を閉じて1度深呼吸をした。
そしてゆっくりと目を開け、愛梨を見て、それから大翔を見た。
「―――いや。今日は止めておきます。」
なかなか要件を言わない新に、少しイライラし始めた愛梨は、新の方へ少し寄り、思いっきり不機嫌な声を出した。
「はぁ?どうしたの?今日来た意味ないじゃん」
「今日はもういいよ、愛梨。またにするよ。」
やや困ったような顔をしてそう言い、愛梨の頭をポンポンした。
この時新は、愛梨に触れることが出来るのはあなただけではないですよ、大翔さん。
という、挑戦的な意味で、大翔の目の前で愛梨に触れた。
そして、その意味を挑戦的な視線で大翔へ送った。
大翔は表情や顔色は変えなかったが、新の言わんとすることを理解した様だった。
大翔と新が水面下での戦いを繰り広げている最中の愛梨はというと・・・。
新って、意味分かんないんだけどー。
めっちゃ不機嫌だったのくせに、やっぱりもういいとかさ~。
ほっと、巻き込まれ事故だわ、こんなのって。
まぁ、不機嫌新と一緒に出掛けるのは面倒だったからちょうどいいかー。
新の事が理解不能と言わんばかりに眉間にしわを寄せた愛梨だが、腕を組んでいろいろ考えているうちに、うんうんと一人納得していた。
簡単に言うと、水面下の戦いになんて気付いてなんていなかった。