14 まさかの発覚?
慧維は、結婚相手がどんな人か自分にだけ知らされてないその事実を知り俯いた愛梨を見ながら、姉に同情した。
・・・父さん、母さん・・・姉さんに詳しいこと教えてないとか・・・。何を考えて、何を企んでるんだか。
しかし、言ってないと言う事は、俺からは言わない方が要んだろうな。うっかり口滑らせなくて良かった。
でも、これだけは言っておこうかな。
「実のところ、俺は姉さんのこの結婚話は賛成ですよ」
「へッ!?」
愛梨は自分が予想していたこととは反対な言葉にビックリした。
愛梨には結婚は早いとか、似合ってないとか、認めないとか言うのかと思っていたのに。
もっ・・・もしやッ!正夢にッ!?そうよ、あの夢で、慧維は両親の味方に付いた。
結婚しない様にするために、慧維は味方してくれる人だと思っていたのに。
このシスコンの弟が・・・ッ!!
愛梨は、涙目になってキィッと慧維を睨みつけた。
姉さんのこの表情・・・。俺が反対すると思い込んでて、そうじゃないと分かって怒ってるんだろうな。
俺が姉さんの不利になることなんて絶対しないの分かってるくせに、抜けてるんだろう。
けど、姉さん怒ったら何しでかすか分からないから、保険をかけておこう。
「でも、もう少し確認しないといけないことがあるので、それまでは姉さんを渡せませんね。俺は姉さんの味方ですよ」
慧維は、私の味方だと宣言し、にっこりと笑った。
この“にっこり”、なんか腑に落ちないんですけど。
けど、慧維なりに何かを確認しないといけないことがあるらしいし、私の味方なら良いわッ!
「慧維っ!あなたは私の味方よね♪すっごく頼りにしてるッ!」
またまたぎゅ~っと抱きついた。
私って単純なのかしら?
慧維の言葉で機嫌が直った愛梨は、残りのご飯を食べながら、おしゃべりに花を咲かせた。
各々が会話を楽しんでざわついていた社員食堂に、静寂が訪れた。
食堂の中央にある大画面のテレビや四方にもある小さいテレビに、ある番組が映った。
毎週月曜日に放送されるこの番組には、日本の会社を紹介するコーナーがある。
我が社では、いろいろな企業の今後の動きや考え方など知っておこうとする人たちが多いので、みんなテレビにくぎづけとなった。
愛梨も例外ではなく、父と慧維に負けない様にいろいろな勉強もしたり、手伝いが出来るように情報収集も力を入れていた。
しかし、そこには見たことのある人物が映っていた。
「――――――え?」
キッチリとしたスーツを身に纏い、綺麗に微笑む大翔が映し出されていた。
「・・・瑠依・・・慧維・・・。この人だ。」
私は真っ青と言うか、ただ―――ウソ・・・―――と思う気持ちだけで、何も言葉が出なかった。
テレビから明るい声でコーナーが始まった。
『本日のゲストは、我が日本のトップに君臨する、株式会社碓氷コーポレーションの、専務の碓氷大翔さんですー!』
『はじめまして、こんにちは。私は、株式会社碓氷コーポレーションの碓氷大翔と申します』
『碓氷さんは、“碓氷コーポレーションの社長のご子息”、でいらっしゃるんですよね?』
『そうですね。私の父は社長をしております。』
『碓氷さん自身、まだお若いのに専務とは大変ではないですか?』
『そうですね、まだまだ未熟ですので、周りの皆様に叱咤激励していただきながら、仕事を進めております』
『そういえば、碓氷さんは、テレビに出たりするのは初めてですか?』
『はい、そうですね。公の場に出るのは、今日が初めてとなります。』
『でも、テレビ慣れしていませんか?』
『いえいえ、そんなことないですよ。今もものすごく緊張しています。』
あはははーっと和やかに始まった番組コーナー。
瑠依はさっきの私の言葉を聞いて、徐々にテンションが上がっていった。
そして、私と瑠依の温度差のある会話は、妙なものとなった。
「え?この人?この人、朝の人?愛梨の婚約者、やっぱり、あの碓氷じゃん!」
「いや、有り得ない。有り得ないでしょう!!そうよ、何かの間違いだわ・・・」
「愛梨、碓氷さんめっちゃかっこいいじゃん~~ッ!!うらやましいよーッ!!御曹司の中の御曹司だよ!!」
「いやいやいやいや。あの碓氷とASAGIRIよ?政略結婚よ?」
青ざめながらブツブツとつぶやいてる姉さんと、イケメンの愛梨の婚約者にハイテンションの瑠依さんに、ため息交じりに声をかけた。
「ほら、姉さん、瑠依さん、落ち着いて。」
「慧維くん、これは落ち着いてなんていられないよッ!」
瑠依はテンションが上がり興奮しており、愛梨は驚いて固まっていた。
テレビの中の大翔は会社の方針や自分自身の今後のヴィジョン、それに向けてのどういった努力をするのかなど、割と詳しく話したらしい。
いつもは真剣に見る番組も、大翔の登場で全く耳に入ってこなかった。
テレビの中の大翔は、真面目な専務の顔か整った笑顔のままで時間が過ぎて行った。
仕事中の碓氷さんって、こんな表情でいっつも仕事してるのかなぁ?
真面目な碓氷さんもイケメンなんだなぁ~とかホケーっとしながら見ていた。
『最後に碓氷さん、仕事とは関係ない質問ですが、良いですか?』
『どうぞ?』
『碓氷さんはすごくイケメンですが、彼女とかはいらっしゃるんですか?テレビの向こう側の女性の方々はイケメンの碓氷さんのそこが聞きたいと思うんですよ』
そうだそうだ、とこの社員食堂に居る女性陣もうなずいていた。
あんたたちは朝見たでしょうに・・・。
と思うけど、まぁ、朝から会社の前で女性にキスする人が同一人物だとは思わないでしょうね。
『そうですか?そんなこと聞いても面白くないですよ?―――ですが、結婚を約束している女性はいます。』
『え!?そうなんですかッ?』
『今日も本当はこちらへ一緒に来たかったんですが、彼女も仕事をしておりますので、それは出来なかったんですが』
大翔は、少し照れたようなはにかむ様な顔をしていた。
『ズバリ、お相手の方の名前を聞いても?』
『お互いに仕事にいろいろ支障が出たら困りますので、苗字は避けさせていただきますか?』
『それはもちろん!』
『彼女の名前は愛梨と言います。可愛い名前でしょう?本人もとっても可愛いんですよ。』
そういうと大翔は、先程の表情に加え、更に愛しい人を見る様な優しくて暖かい笑顔をした。
愛梨は自分のことを可愛いと言ったこととその笑顔にドキッとして、頬から耳まで赤くした。
大翔が出した“愛梨”という名前の女性について、社食で大騒ぎとなった。
“愛梨”という名前の女性はこの会社にいる。しかもそれは社長令嬢。
愛梨は会社でいろいろな人から陰口を言われているが、愛梨自身、誰が見ても可愛い容姿をしている。
――――間違いない。この朝霧愛梨だ―――。
そう思い、みんな一斉に社食でご飯を食べている愛梨に質問攻めをしようとした。
その瞬間。
「何でこんなことになるんだ――――――――ッ!!!!」
愛梨が叫びながら勢いよく立ったため、ガターンッっと大きな音を立て椅子が吹っ飛んだ。
あまりの声の大きさと椅子の吹っ飛び加減に驚き、誰も声を発せられず固まった。
そんな中、慧維は声をかけた。
「姉さん?大丈夫?」
心配そうに愛梨の顔を覗き込むように見た。
慧維は愛梨は怒っていると思っていたら、その顔は怒っているというより、まぁ、怒っているんだけど、それに照れているような、困っているというか、不安と言うか、なんか複雑な感情をしていると感じた。
「慧維ッ!お父さんの所に行くよッ!瑠依!ゴメン!また連絡するッ!」
ガシッと慧維の腕を掴んで引きずるように愛梨は慧維を連れてバタバタと社食を後にした。
いろいろ質問攻めにしたかった大勢の人たちは、あっけにとられてしまった。
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