13 ご飯大盛りとシスコン
お昼休みの始まりの音楽が鳴った。
社員の皆さんは仕事に区切りをつけ、各々席を立ち、外へランチしに行ったり、休憩室に行ったり、社食に行ったりと自由な時間を過ごしている。
私はというと、お弁当を持って来るのが多いんだけど、週に1回はランチに行ったり、社食に行ったりしている。
そして今日は社食の日。財布を持って立ったところに、お迎えが来た。
「愛梨~おつ~!今日は社食だねッ!お腹すいたわ~!早く行こッ」
「瑠依、おつ~!私、今日めっちゃ食べれる気分がするわッ!大盛り行こうかなッ」
私は午前中に受けたストレスで、食欲が溢れかえっていた。
社員食堂に着くと、もう人でいっぱいになっていた。
私たちは先に開いてる席を確保して、注文待ちの列に並んだ。
並んでる間は瑠依との会話も曖昧に受け答えしてしまっても、何を食べるかを真剣に悩んだ。
いつもの事なので、瑠依も放っておいてくれる。考えていることが顔に出るらしく、悩んでるところを見るのが楽しいらしい。
う~ん、A定食とB定食・・・悩むわ。でも、やっぱり今日は丼の大盛りかしら?
このイライラをふっ飛ばすには、お肉に限るわッ!
「おばさんッ!Aの焼肉定食大盛りでッ!」
「えッ、愛梨、大盛り行くの?!食べれるん?」
勢いよく頼んだ私に、瑠依は驚き目を丸くしていた。
なんと、おばさんも、大盛り食べるの?と確認してきた。
「今日は食べれる気がするのよ!おばさん、変更なく大盛りねッ」
食べてやるわーッっと意気込んだ。
本当に食べれるの?頑張ってね、とおばさんにトレーを渡された。
それを見て一瞬ひるんだけど、逆に食べる事に燃えた。
席に着くと、さっそく瑠依は例の話を聞いてきた。まだ一口もご飯を食べていないのに。
そして今日もやっぱり、顔はニヤニヤしていた。
「愛梨チャン。さっそくだけど、聞いてもいいかしら?」
「ナニヲカシラ?」
知らぬ存ぜぬで切り抜けてやろ~って思って答えてみたけど、声は正直。
動揺しまくりですね、ワタシ。
その動揺をしっかり見た瑠依は、更に面白いことが起きたんだわと言わんばかりにニヤニヤ顔。
「愛梨、なんか先週末・・・3日前に婚約者が出来たとかいって大騒ぎしてなかったかしら?」
「えぇ、そうね」
「それが、どうして今日あんなになっているのかしら?結婚しないって相当意気込んでたじゃん」
「そうなんだけどね・・・。そうなのよ!・・・土曜日に色々あったわけなのよッ」
そこから、土曜日の出来事を話した。
新には話さなかった、ベッドに居たことや懐かしい感じがしたこと、ちょっぴりドキッとしてしまったこととかも包み隠さずに。
一通り聞いた瑠依は、無言でもくもくとお肉を口に運ぶ。
1分ぐらい無言だった後、はぁとため息をついた瑠依は口を開いた。
「・・・それ、新が知ったらキレるわよ?」
「え?何で新がキレるのよ。新にキレられるようなことはしてないよ?」
はぁ?っと言う顔をして言った。
土曜のお出かけと朝の出来事を見て新がキレるって意味不明だわ。
意味が分からないわっと瑠依に言うと、愛梨は鈍感だからと笑って返された。
「それとさぁ、その碓氷さんって、あの碓氷じゃないの?」
「碓氷コーポレーションの?違うと思うわ。政略結婚なんだから、あの碓氷にはウチは釣り合わないから違うよ」
「まぁ、碓氷って言ったってあそこだけじゃないもんね~。ASAGIRIと同じぐらいに碓氷ってところあったかな?」
上流階級パーティーとかよくしてるんじゃないの?と思うと思うんけど、そんなに多くないのが現実。
そして、私たちはめんどくさい事に出席するもの嫌だった上に、後継者の慧維とか、他の会社の御曹司とか上役が出席するばかりだからって出席させてもらえない時もあるしで、そんな詳しい事なんて知らない。
高校の時も、大学の時も、たくさんのご令嬢たちがあの人がどうとか、あの人はこうとか、いろいろ噂をしてたりしていたけど、その中に、“碓氷大翔”なんて聞いたこともない。
一体誰なんだろうね~っとふたりでのんきに考えていた。
その話も終わって、買い物行きたいね~とか、あそこのランチに行きたいとかガールズトークに花を咲かせていた。
突然。
グサッと刺さるような言葉が愛梨の頭上から降ってきた。
「うわっ!そんなに食べるのかよ?豚になるよ? って、既に食べれなくなってんだろ?」
「・・・豚ってひどくない?」
ギロリと睨みながら振り返り、愛梨の後ろにいる人物を見た。
この人物が現れて食堂はざわついた。
愛梨が食堂の日には必ず現れる人物。まだ、22歳で学生な癖に会社で仕事をし、もう既に会社の男性陣からは一目置かれていて、女性陣からはきゃぁきゃぁという声が上がるくらい人気がある。
後ろに居た人物は、くつくつと笑いながら、愛梨の隣に座った。
今笑っていたのに、机に肘をついて、呆れ顔でスパッと正論を述べる。
「食べたい気分は分かるけど、食べれない量を頼むのはどうかと思うけど、姉さん」
この人物は、私の事を“姉さん”と呼ぶ。
前にも言ったけど、ひどい言葉を姉にぶつける子の人物は、1つ下の弟の慧維。
男っぽい顔と言うよりも、姉の私から見ても可愛い顔をしていると思う。
御曹司だし、仕事も出来るし、カッコイイので、会社では“王子様”と言われているとか。
私とは全然違う周りの反応。
そりゃ私もやさぐれるわッ!
「だってさ~・・・慧維も分かるでしょ?私のこの状況・・・。」
「でも、残すのはダメでしょ」
「う~」
ぶつぶつ言いながら、大盛り焼肉定食をちょびちょび食べていたら、横からひょいっと半分取られた。
「仕方ないから、姉さん、半分貰うよ?」
「慧維サマ、半分と言わず、もう少しどうぞ」
「ほ~ら~み~ろ~」
「慧維サマ、ありがとぉ~♡」
私はにぃっこり笑って、ぎゅ~~っと慧維に抱きついた。
はいはい、と言いながら、焼肉定食を食べる慧維。
ぎゅ~~っと抱きついても、嫌がらない。
“姉”が“弟”にぎゅ~ッとすることをどう思ってるんだろう?
愛梨はそんなことを思いながら慧維を見ていると、慧維がくすっと笑ってこっちを見た。
「姉さん。顔に全部思ってることが出てるよ」
「へ?」
「俺は姉さんの食べれない焼肉定食食べるのも、抱きつかれても嫌じゃないし。まぁ、一般的には年齢的な部分から考えると弟に抱きつく姉もなかなかいないんじゃない?それだけ仲良し姉弟ってことだよ。俺は姉さんが大好きだし」
サラッとシスコン宣言までしちゃう弟は可愛いッ!
「慧維ッ!お姉ちゃんもシスコンの慧維が大好きよッ!」
そう宣言して、にっこにっことしながら残りの焼肉定食に箸をつけた。
このやり取りを見ていた瑠依は、くすくす笑いながら慧維に声をかけた。
「こんにちは、慧維くん。相変わらずのシスコン健在ね」
「瑠依さん、こんにちは。姉さんはとっても可愛いですから、シスコンは辞められませんよ」
慧維はにっこり微笑み、シスコン継続宣言までした。
ほんと、私に構ってないで彼女でも作ったらいいのに。
優しくてよく気が付く慧維なら彼女が居てもおかしくないのに。
「そういえば、慧維くんも愛梨の結婚話知ってるんだよね?」
「ええ、もちろんです」
「いつ知ったの?」
「そうですね、もうだいぶ前になりますよ」
そうサラッと答えた慧維に愛梨と瑠依はものすごく驚いた。
たぶん、2人して、目もいつも以上にまん丸く大きく開き、口もカパッと開けた、と思う。
「「はぁ?!なんでッ!」」
だって、愛梨が知ったのは3日前に金曜日で、慧維が知ったのはもっと前だなんて!!
お父さんッ!お母さんッ!当の本人より弟が先に知ってるってどういう事よ!?
瑠依は恐る恐る聞いてみた。
「じゃぁ、どんな人かとか、誰なのかも知ってるの?」
「ええ。・・・その様子じゃ、姉さん、相手がどんな人か知らないんですね。」
慧維は横目で愛梨を見て、眉を下げて困ったような呆れ顔をして、はぁとため息をついた。
そんな顔を向けられた愛梨は、居た堪れなくなり俯いた。