11 河内さんのカラカイ
外回りに行っていた営業の方たちがぽつぽつと帰社し始めた。
それに気付き時計を見ると、12時の少し前を指していた。
「愛梨ちゃん。ただいま~」
「あ、河内さん、おかえりなさい」
何故だか知らないけど、河内さんはいつも外回りから帰ってきたら私の所へやってくる。
私がここに配属されてから毎回。意味不明すぎ。
最初は河内さんファンのお姉さま方に睨まれる睨まれる。
仮に河内さんが私の彼氏だったら睨まれるどころじゃないよね。
でも、私が河内さんへ特別な感情が無いことが分かったのか、この光景はスルーされるようになった。
当り前よ。ここは会社なのに、何を考えてるんだか。
コワイコワイ。
「なんか、怖~い顔してるけど、大丈夫?」
はっと気づいたら、河内さんは私の目の前で手をヒラヒラさせていた。
「問題なしですよ」
私はにっこりと笑って返事をした。河内さんには作り笑顔だってバレてそうだけど、気にしない。
おぉ、そうだ、忘れてた。とポンと手を叩きながら訊ねてきた。
「そういえば、愛梨ちゃん。お願いしてた資料出来てる?」
作成期限は明日だったけど、今日必要になったのかな?やっててよかった~♪
ルンルン気分で机の左側に立ててあるファイルを取って、得意気に河内さんへ渡した。
「頼まれていた資料、ちゃんと出来上がっていますよッ!チェックお願いしますねッ!」
「ありがとう。愛梨ちゃんが作ってくれる資料は正確だからすごく助かるよ。」
それを見た河内さんはくすくすと笑いながら、私の頭をポンポンした。
そう言われて、私はにっこりと笑った。仕事のできる河内さんに褒められると、すごく嬉しい。
私は絶対、褒められて伸びるタイプだと思う。
「で?何かあった?怖い顔してるのはほんとだよ?」
椅子に座っている私に心配そうな顔を近づけた。
予想以上に顔が近かったことにビックリはしたが、張り倒すほどの近さでもないのでスルーした。
だけど、私、そんなに怖い顔をしているのかな?
“先日いきなり婚約者があらわれ、結婚することが決まってるそうです!しかも、今日朝からエントランスで降ろさせて、みんなの注目の的ですよ!!ヒソヒソヒソヒソ言われて腹立ってるんですッ!!”
なんて、プライベートの話をしても、河内さんも困るでしょう。
それに、私もプライベートの事をべらべら話すことでもないし。
う~ん、と考えた末に。
「何もないですよッ!怖い顔なんてしてませんしッ。河内さんの資料作るのに疲れただけです。河内さんに頼まれる資料作るのって、かなり難しいし大変なんですよっ」
ごまかしてみる。実際に河内さんの資料作成レベルめっちゃ高いし。難しいのは事実。
しかし河内さんはにっこりした。
「ふ~ん。でも、この資料、先週末には仕上がっていたよね?俺知ってるよ?」
「げッ!なぜッ!?」
うっそ~。何でそんなこと知ってるの!?
私は眉間に皺を寄せ、思いっきりイヤ~な顔をした。
まぁ、この人に仕事やり方、進め方など事細かに教えてもらったりしてるから、どうしても河内さんと仕事の進め方とか優先順位とか似てるんだろうから、知ってても当たり前かもしれないけど。
河内さんは口の角を上げ、ニヤッと笑った。
・・・この笑顔、すごく嫌な予感がする。
「今日の朝のエントランスでの出来事、面白いことが起きたね」
「ッ!!」
私はキッと目を吊り上げ、あんたもか――――――――っ!!と心の中で叫んだ。
「私がイライラしてる理由、・・・知ってるんじゃないですかッ!!」
ムキー!っとなってる愛梨を見てますます河内さんは笑った。
「朝からあんな所でド派手なことして、この俺が知らないと思う?そうじゃなくてもこの話は本社中広まってるから、直接見てなくても分かるよ。ただし、尾ひれはひれ付きで」
くつくつ笑いながら、私をからかって楽しんでいる。
「私だって好きで目立った訳じゃありませんッ!」
河内さんがからかってることを分かってはいたけど、冷静になれずキーキー怒りまくった。
それに前にも言ったように、河内さんは社長令嬢だからと変な特別扱いするわけでもなく、普通に接してくれるし、エリート営業マンってのもあると思うけど、私の本心だってアッサリ引き出してくれる。
たった2つしか違わないのにここまで違うとは・・・さすが河内さん。
「それにしても愛梨ちゃん。この貢物の山はどうしたの?」
私の机の上で、お菓子やら飲み物などの山を指さして言った。
「あ、これですか?私、月曜日の午前中は秘書室勤務じゃないですか。で、朝のことを馬鹿グループにいろいろ言われたわけですよ~。で、それを見たのか、予想していたのかわかりませんが、差し入れをたくさんもらったのですッ!!新発売のデザートもあったりでラッキーです♡」
こんなにたくさんお菓子もデザートもあるしッ♪その上新発売のも♪
めっちゃ嬉しい~~ッ!!早く食べたいなぁ~~♪
うっふふ~♡とテンションあげて言った。
ふと河内さんが手を伸ばし、たくさんのお菓子にいくつか貼ってあるメモや付箋を手に取って眺めて言った。
「愛梨ちゃん、こんなに貢物貰ってモテモテだね~。こんなにたくさんもらっちゃってさ~。」
「河内さんと比べないでくださいよ。今現在しか知らないですけど、河内さんは超が付くほどモテてますよ~」
あなたのせいでこっちは大迷惑してるんですけどッ!!
そう思いを込めてイヤミったらしく言ったけど、河内さんは知らん顔。
「学生の時とか今まででもさ、お菓子貰ったり、告白されたり、たくさんあったんじゃないの?愛梨ちゃんすっごく可愛いじゃん。」
「何いってるんですか。私可愛くないですよ。それにぜんっぜんモテないですよ。告白されたことなんてないですもん。」
愛梨はぷぅっと頬を膨らませ、拗ねた。
中学の時は何人かに告白されたけど、中学はノーカウントでしょ。
それに、小学校でも中学校でもずっと慧維が引っ付いていたし、高校に入ってから大学行ってる時は瑠依と新とずっと一緒だったから告白もされることもなかったし、ましてや社会人になってから、瑠依がいるし、会社は違うけど新がいるし、部署内に河内さんがいるわ、相も変わらず慧維がいる。
・・・ん?あれ?私もまわり、慧維と新と河内さんしかいないじゃんッ!!!
信じられない・・・この事実に今頃気づくとか・・・
男友達少なすぎて、モテるモテない以前の話だわ・・・
私はがっくりを肩を落とした。
こんなことまで考えていたことを知らない河内さんは、更に信じられないことまで言った。
河内さんは、あははっと笑いながらまたからかった。
「愛梨ちゃんってさ、可愛い顔してるし、可愛い性格だし、ある意味魔性の女だと思っていたけど?」
「魔性の女!?ありえませんしッ!私そんなイメージですかッ!?」
はぁ~?意味不明すぎるッ!!私のイメージってなんなのよーッ!!
き~~ッ!!
キィッと河内さんを見ら見ながら怒っている私の頭をポンポンと叩き微笑んだ。
そして、私と河内さんがギャーギャー言ってるのを、帰ってきていた他の営業さんが生暖かく見守られているのに気が付いた。
何だか恥ずかしくなったので、バッと席を立って河内さんの後ろに立った。
「もう河内さんなんて知りませんッ!さっさと席戻って仕事してくださいッ!」
私は怒って河内さんの背中を押して、席に戻るように促した。
悔しくて泣きそうだったり、ムキになって怒ったりで、感情的になってたので、私はどっと疲れてしまった。
書きだめているものが底を尽きかけてきました・・・。
仕事等々忙しくて執筆が追い付いていません。
3日に1回の更新が、遅れる可能性がありますが、今後ともよろしくお願いいたします。