10 ストレスの蓄積
ヒソヒソヒソヒソ
じ~~~~
ヒソヒソヒソヒソ
じ~~~~
・・・あ~・・・ウザッ!文句あるんだったら直接言いなさいよッ!!
もう1時間は、ず~っとこんな感じ。ヒソヒソヒソヒソ言われているのだ。
イライラストレスのバロメーターも降り切れそうです。
ここはこの会社の本社。
会社の中で花形部署は例外なく営業部。この本社には第1営業部から第9営業部まである。
その中でも、私がいるのは第1営業部。営業部の中でも優秀な人材の集まりである。
つまり、河内さんとは同じ第1営業部で一緒に仕事をしている。
自分で言うのはなんだけど、私は・・・明らかにコネでしょうッ!!
人より劣っているとは思わないけど、第1営業部に配属されるほど優秀じゃないと思うんだけど、私。
でも、第1営業部の事務仕事は仕事量も半端なく多いし、いろんな人に大事な資料作成や報告書作成など任されているからコネじゃないことを願いたい。
営業部全体では女性の営業もいるけど、第1にはいない。男だらけの部署と言う事です。
その部署ごとに事務員が1人から2人付くようになっている。
営業アシスタントと言いますか、資料作成から経費処理、営業の人たちの雑用?でもないけど、いわゆる何でも屋と言った方がいいのでしょうか?
しかし、今日居るのは秘書室。秘書室も割と大きく、人数もそこそこいる。
秘書室の方々には、私は目の上のたんこぶと言うか、お邪魔な存在らしい。
社長の娘と言うだけで、みんなの憧れの秘書室で、イケメン役員を臨時秘書をしているから、風当たりがキツイキツイ。
精神的に強くないとやっていけない。
前に、媚を売ってきたり、逆に敵意むき出しにする人たちがいるといったと思うけど、これはある程度決まった人物、決まったグループの人たち。
秘書室のお姉さま方も例外なく“敵意むき出し&嫌がらせ万歳”。これに当てはまるよね。
私はこの人たちを“馬鹿グループ”と命名している。
良いネーミングセンスでしょう?
それに泣きもせず、秘書室で仕事をしている私。
つまり、私は精神的に強いと言う事・・・。
いや、それは嫌じゃないけど、心臓に毛が生えてるくらいとよく言われる。
まぁ、なんとでも言ってちょうだい。
今朝の出来事が一瞬で会社中に広がっているのに、今日に限って秘書室業務とかツイてない。
あ~~営業部に戻りたいよ~~~
秘書室にある自分のデスクで、はぁ~~~~っとため息をついた。
「朝霧さん。単刀直入に言うけど、あなたおバカなの?あなた朝から何考えてるわけ?どういうつもりで男の方にエントランスまで送ってもらったの?そのせいで人だかりまで。朝から大迷惑。ここは仕事するところですけど?社長令嬢様は何を考えてるんでしょうね。仮にも秘書室にデスクがあるんですから、秘書室の品格を落とさないようにして頂ける?」
隣の席からイヤミったらしく話しかけてきた。
うんざりした気持ちでチラッと横を見た。
彼女は相変わらず私の事が気に入らないんだろう、すごく嫌な顔をしていた。
あら、あなたにはそんな男性いましたっけ?っと、嫌味を返してあげようと口を開きかけたけど、今日は相手にするのが面倒なので適当に謝っておいた。
「あ・・・ゴメンナサイ。そんなに迷惑でした?止めてって言ったんだけど、聞いてくれなくて・・・。それと秘書室の品格はもともとあったかしら?」
おかしいわね~。とはぁとため息をつきながら私は言った。
彼女は愛梨の返事に目を真ん丸くして驚いていた。
「相変わらずバカげたことを言うのね。ここの秘書室の品格は一流よ。それにしても、絶対謝罪の言葉なんて口にすることがないあなたが、その言葉を口にするなんて気持ちが悪いわ」
「!?」
私はその言葉に驚いて、今度はこっちが目を真ん丸くする番だった。
えぇぇ――・・・。気持ち悪いってなんなのさ~。あまりにもひどくない~?
思わず半眼になって、はははと乾いた笑いした。
さすがに“気持ち悪い”という言葉にショックを受けたが、気分を入れ替えて仕事に取り掛かった。
馬鹿グループの連中に、私は馬鹿にする様な言葉を投げつけられることが多い。
今回も資料庫や書庫室、お手洗いへと歩いていると・・・
「社長令嬢、あの男誰?男と無縁な令嬢の話で持ちきりだよ。」
「エントランス前でキスとか、勇気あるね~。やっぱり朝霧さんって普通じゃないのね。」
「もしかして、今時珍しい政略結婚とかの相手とか!!それウケるんですけど~!!」
「相手は誰?どんな人?どこの御曹司?結婚するのか?寿退社するのか?まぁ、弟が専務で姉が平社員なんだから寿退社が良いんじゃないか?」
団体行動の大好きな馬鹿グループにつかまると、こうなるのだ。
見ず知らずの人に口々に言われる嫌味な言葉に、さすがの私も一瞬は心が傷つく。
私だって、好きで男に無縁の令嬢してる訳じゃない。
私だって、好きでエントランスでキスした訳じゃない。ものすごく普通だし。
私だって、好きで政略結婚する訳じゃない。ウケないし。
私だって、好きで正体明かして平社員してる訳じゃない。私だって努力してる。
悔しくて、言い返したいけど言い返せない自分に腹が立ち、目に涙が溜まっていく。
だけど、こんなところで泣くわけにはいかない。
こんなバカな人たちに弱いところなんて見せたまるかッ!!
唇をぐっと噛み、涙が流れないように我慢した。
平気を装い、何も気にしてないという平常な姿勢を取った。
そして、周りの視線やヒソヒソ声にイラッとしながら、今日の秘書室での仕事をハイスピードで終わらせた。
しかし、会社の顔にもなりえる秘書が、あんなプライドの塊かつ人間的にどうかというような嫌味な性格だなんて、ほってる会社もダメだわ。ってお父さんも慧維も気付いているだろうけど、改革が必要だわ。
私、イライラして円形禿になったら、ボイコット起こすわよッ!
内心毒付ながら、顔は笑顔で、THE女優。
さっさと仕事を終わらせて、最後にニッコリ笑顔を湛え、「ごきげんよう~」と嫌味を言って秘書室を出た。
そして、営業部の自分のデスクへと戻った。
営業部へ戻ると、デスクにはメモがたくさん置かれていた。
メモには、色々辛いことを言われてるみたいだけど頑張れ、とか、気にすることは無いとか、気晴らしに飲みに行こうとか。
何も言わないけど飴やデザート、飲み物を置いていってくれる人もいる。
自分自身の処遇や河内さんが近くにいることで女性陣には嫌な目で見られたりするが、いつも応援してくれたり、元気づけてくれる人がたくさんいる。
「みんなありがとうッ!!朝霧愛梨、今日も元気に頑張りますッ!!」
警察官がするような敬礼のポーズを取り、笑顔で元気に宣言した。
その宣言を聞いた同僚たちから声が返ってきた。
「愛梨、馬鹿グループに負けるな!俺たちが付いてる!」
「しかし譲ちゃん、彼氏、イケメンっぽくなかったか?どこで捕まえたんだよ?」
「朝霧さんがいないと、第1は仕事が進まないよ。頼りにしてるよ!」
今回もたくさんのメモやその人たちに声をかけてもらいながら、イライラな気持ちもなだめていた。
ちなみに馬鹿グループは、第1では全員に定着してたりするんです。