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白黒しろ  作者: 向日葵
2/2

アルバス

 「奏!今日もかっけぇ髪の毛してんな!」


 教室に入ると朝っぱらからうるさいやつが声をかけてきた。

 「陽一、お前はまた人の気にしてることを…」

 「うそつけや、気に入ってるくせに」

 そういって俺の髪をくしゃくしゃにする。まったく、朝からやかましいやつだ。

 このやかましいやつは高校で同じクラスになった滝陽一。運動はそこそこできるが勉強はかっらきし。名前のままの明るいやつだ。

 ものわかりのいいやつですぐに仲良くなった。

 まだ出会ってから半年程度しかたっていないというのに、馬が合ったのか今ではすっかり親友と呼べる仲になった。

 「まぁな、かっけぇだろ?」

 「さっき俺が言っただろー!」

 いつもみたいにバカみたいな話をしながら俺と陽一は席に着いた。

 「おはよう、奏。それと陽一」

 「ついでみたく言うなよ!?」

 「おう、おはよう夏樹」

 「今日も相変わらずかっこいい髪の毛してるわね」

 上から明るくて、よく通る声が聞こえた。

 そんなことを笑いながら言ってきたのは、小学校からの幼馴染で腐れ縁の島夏樹。

 「夏樹!お前まで!」

 「気に入ってるんでしょ?」

 明るく俺のことをからかってくる。

時々思うのだが、こいつはよく見ると整ったかわいらしい顔立ちをしていると思う。

 実際、勉強もできて運動神経も抜群、それに陸上部のエースだったという経歴を持つ。

夏樹は中学校の頃かなりモテていたと思う。

詳しくは知らないのだが何度か告白もされていたにちがいない。しかし、勉強も運動も完璧だった夏樹も恋愛のほうはからっきしだったようで今まで彼氏ができたことがない。

 彼氏いない歴=年齢というやつだな。まぁそれも俺や陽一のようなのとはまったく意味はちがうのだろうけれど。

 「まぁ、気に入ってるけど…」

 「ならいいじゃん!」

 こんな風に夏樹と仲良く話せていることを羨ましがっているやつもいるのかな。なんて俺は時々考えてしまう。

 ちなみに夏樹とはちがい、俺と陽一は中学校の頃、部活動には所属していなかった。


高校に入ってから新しいことを始めたいなんて思いのあった俺は軽音楽部に入部、というか軽音楽部を入学早々に創部してしまった。これには夏樹と陽一が大きく協力してくれて…。

 陽一は俺と同じようなことを考えていたようで、少し話すようになった後、創部のことを話したら快く協力してくれた。

 軽音楽部を創部するという考えには夏樹も同意してくれていて、中学の頃から乗り気だった。

 そのため「それなら髪の毛も伸ばさなきゃね!」なんて言って部活を引退してからしばらく髪を切らずにいて、かつて短かった髪も今ではすっかり長くなっていた。

 なぜ軽音楽部に入るのに髪を伸ばさなければならないのか。この疑問が俺の中で消えることはなかった…。


 うちの学校には軽音楽部はない(今はあるが)その代わり、音楽部という音楽系のことならなんでもあり、というかなりルーズな部活があって、軽音楽をやりたいという人はみな音楽部に入部していた。しかも音楽部の顧問である新妻先生は昔、そこそこ有名なバンドのベースをしていたとあって、わざわざ軽音楽部を作ろうなんて言う人はあらわれなかったようだった。

 そのため軽音楽部の部員は俺と陽一と夏樹の三人、狭いがちゃんとした部室も与えられていた。

 桜高校は部活動の規定がルーズで部員が三人以上いれば部活動として認められるのだ。

 ついで言うと夏樹がベース兼ボーカルで陽一がギター、俺はドラムを担当している。

 バンド名はREVERSI!めちゃくちゃかっこいい。

 顧問の先生はというと音楽の専門ではないためか部活には顔を出さない。

 

キーンコーンカーンコーン


 「あ、一限始まっちゃう!じゃ、またあとでね!」

 そういうと夏樹は自席へと戻っていった。俺の席は窓際の一番後ろの主人公席、その前が陽一だ。夏樹だけ席が離れてしまっていて廊下側の一番前の席、つまり俺とは対角になっている。

 「一限目数学じゃん!だるいなー」

 陽一が言う。確かに一限から数学はつらいわな。

 「起立!礼!」

 「「おねがいしまーす」」

 「じゃ教科書90ページ開いてー」

 授業が始まった。

 これは俺個人のの感じ方なのだが一限が始まると一日が始まったような感じになる。

 俺の一日が今日も始まった。






キーンコーンカーンコーン


 「あー終わった終わった!」

 「まだ午前中だけだけどな」

 「いいんだよ!それより飯だ飯!」

 ようやく午前中が終わった。ようやくというほど長くも感じなかった気もするけど。

 「おーい、夏樹ー!」

 「飯にするぞー!!」

 いつも俺たちは三人で部室で昼食をとることにしている。

 「青木くん?」

 「ん?どうかした?」

ふと、声をかけられる。

 声をかけてきたのは夏樹と仲の良いクラスメイトの女の子だ。確か石井みきといったかな。

 「さっき夏樹ちゃんが軽音部のあたりで青木くん探してたよ?」

 「そっか、ありがとう」

いつも夏樹は先に行かず俺達を待っていてくれる。

むしろ夏樹から声をかけてくるほうが多いくらいだ。

 「あいつが一人で行くなんてめずらしいな」

 「腹減りすぎて走ってったんだろ」

 陽一がくすくす笑いながらそう言った。

 いくら夏樹でもそんなことはないと思うが。

 少し嫌な予感がした。


 「おーい、夏樹ー?」

 部室の前に行っても夏樹はいなかった。

 「中だろ中!」

 そういうと陽一はおもむろに部室にドアを開いた。


ガチャ

 

 そこには少しイライラしたような焦ったような様子で貧乏ゆすりをしながら机に突っ伏している夏樹がいた。

 「おう、どうしたそんな初めて彼氏ができた女子みてぇに、」

 「まさか彼氏が!?」

 「どうしてそうなるのよ!!」

 「痛い!!なんで俺!?」

 鋭いローキックが陽一のすねを直撃した。

 「うるさい!」

 「最初に言ったのは奏じゃないかよ~」

 すねを抱え込む形で陽一が俺をにらんだ。まぁ正論だな。

 「そんなこと言ったかな。記憶にねぇな」

 絶対に認めないけど。

 「しらばっくれんなや!」

 

 「そ ん な こ と よ り!!!」


 「そんなことってなぁ…」

 「どうしたんだよ?」

 うっ…。陽一の眼光がより鋭くなった。ごめんな陽一…。痛いのはごめんだ。

 「また来てたのよ!スーツ来た人たちが!」

 「さっき校長室に入ってくのを見かけたから急いで奏に知らせなきゃと思って」

 「今度はどこのやつらよ!!」

 またか…。こればっかりはもう本当に勘弁してほしいものだ。

 「おいおい待てよ!まだ奏のことでって決まったわけじゃないだろ?」

 「まぁ確かにそうなんだけどさ…」

 「でもこの前も一週間くらいずっと連れてかれて学校これなかったじゃん!」

 「この前って言ったって三か月くらい前ことだろ?」

 「だから余計に心配なんじゃない!」

 「まぁまぁ落ち着けって。陽一も、な?」

 このままでは喧嘩になってしまう。俺のことで喧嘩はしてほしくない。

 「奏!あなたのことなのよ?なんでそんな落ち着いていられるのよ」

 「俺なら大丈夫だから」

 「この前だって大したことされたわけじゃない。前にも言っただろいくつか質問されるだけだって」

 「夏樹。奏もこういってることだしさ」

 「そうだけど、でも!」

 「夏樹。心配してくれてありがとうな。俺なら大丈夫だからさ」

 「ほら!飯にしようぜ!」

 小学校のころから何度かこういうことがあり、そのたびに泣いて帰ってきていた俺を夏樹はよく知っている。

 だからこそここまで心配してくれるのだろう。

 「奏が大丈夫っていってるんだ。信じてやろうぜ。」

 「う、うん」

 これで一段落。そう思って俺も一息つこうとした時だった。


「一年B組、青木奏くん。一年B組、青木奏くん。至急応接室まできなさい。繰り返します。一年B組、青木奏くん。至急応接室まで来なさい」


 やっぱりか。おそらく陽一と夏樹も同じ思いだったのだろう。

 「奏、すぐ戻ってきてね?」

 「奏、がんばれよ」

 「おう!ちゃちゃっと行ってくるわ!」

 そう言い残して俺は一人応接室へと向かっていった。まるで戦場に旅立つ戦士のように。

なんか死ぬみたいだな…。

まだ死にたくねぇな…。





コンコン


 「失礼します」

 「あぁ、来たかね」

 応接室に入るとそこには左手に椅子を一つ開けて校長先生と教頭先生、その正面、つまりは右手側に研究者らしき人が二人、座っていた。その隣に通訳者らしき人。後ろにガードマンらしき人が二人立っていた。

 「ここに座りたまえ」

 校長先生はそういうと空いていた席をさした。

 俺は無言で席に着いた。

 「呼ばれた理由はわかっているね?」

 俺は無言でうなずく。わかっていないわけがない。

 「ならいい」

 「お待たせして申し訳ない。ではお願いします。」

 校長先生が納得してうなずいてから少し間をおいて、教頭先生が研究者らしき人たちに話を振った。どうも研究者らしき人たちはイギリス人らしかった。

 「It is sudden,and I am sorry……」

 「突然で申し訳ない。もちろん話というのは君の、奏くんの病気。“アルバス”についてだ。」

 「Selfish of me to know……」

 「勝手なのはわかっている。だけど、世界中のアルバス患者のために調査がしたい。よりアルバスという病気を世の中で明るみにだしたいんだ。君だって毎日注目される日々は嫌だろう?」

 ずいぶんと勝手なことをつらつらといってくれるものだ。

国によってはこの髪の色も目立たないところだってあるだろうに。それに患者なんて言ってるがこの病気に害なんてない。俺が一番わかってる。

 調べたい理由なんて研究者の自己満足にすぎない。

 「僕からしたら、毎日注目を浴びるよりもあなたたちのような人から質問攻めにされるほうが何倍もいやなんですが」

 「そういわないでくれよ奏くん。世界のため、世のためと思ってくれよ」

 校長先生だって結局は学校の評判を落としたくないだけだ。

 どうして大人っていうものはこうも勝手なのだろうか。

 「As it says principal teacher……」

 「校長先生言う通りだ。それにアルバス患者のことを明るみに出せば各地で起きている迫害だってなくすことができる。頼むよ奏くん。世界のために協力してはくれないだろうか」

 本当に勝手なものだ。明るみに出したところでむしろ迫害は悪化するような気がしてならない。

 「もうそんな言葉は何度も聞いています。もううんざりです。お断りさせていただきます。イギリスにだってアルバス患者はいるはずです。その人に協力してもらったらどうですか?おそらく僕と同じように断られると思いますけどね」

 俺はそんな皮肉を言い残した。

 そして、応接室を出ようと立ち上がりドアへ向かった時だった。

 ガードマンの二人がドアの前に立ちふさがった。

 「We had decided to take you forcibly,Once if refused」

 「We are not going to let go you out from here」

 言ってる事は完全には聞き取れなかったが俺を逃がす気がないことだけはわかった。

 俺は冷たく、できる限りに感情を殺して冷ややかに言った。

 「ここまでされたら、警察を呼んでもかまわないんですよ?厄介ごとにしたくなかったら二度と俺にかかわるな」

 「通訳さん、伝えていただけますか?」

 通訳者はうろたえながらも研究者らしき人の一人に耳打ちした。

 耳打ちされた研究者らしき人らしき人は渋い顔をするとガードマンをどかした。

 やっぱりか。どうにも怪しいと思っていた。

警察を恐れた、ということはやはり表向きの研究者ではなかったようだ。

 こういった経験を何度もしてきた俺は怖くもなんともなかった。

 「You regret absolutely」

 おそらく「お前は必ず後悔するぞ」とでもいったのだろう。ふん、後悔などだれがするものか。

 俺は応接室をでて足早に教室へと向かった。

 すでに昼休みは終わり五時限目が始まっていた。






 キーンコーンカーンコーン


 「奏!大丈夫だったの!?」

 「おいおい何度目だよ…。すぐ解放してくれたんだって言ったろ?」

 「ならいいんだけどさ…」

 すでに六時間目も終わり、俺と陽一と夏樹の三人で部室でくつろいでいた。

 夏樹がもう十回以上は聞いたであろう質問をした。まったくお前はドラ○エの村人か…。あ、ドラ○エの村人は質問はしてこないか。

 「まぁ目立つのは確かだよな。その髪。」

 陽一が口を開いた。

 「まぁ白いからな」

 「染められないってのがまた難点だよなー」


 率直に言うと俺の髪の毛は白いのだ。


 ついでに言うと、目も赤い。これは決して俺がグレているわけではない。もちろん中二病なわけでもない。ヤンキーに憧れてない。そもそも染めてないし、カラコンもいれてない。

 この髪の色と瞳の色は病気のせいだ。

 先ほどの研究者もどきたちが言っていたように俺は“アルバス”という病気にかかっている。

 これも先ほど言ったように、病気と言っても体に害があるわけではない。


“アルバス”


 原因不明の病気。突然発症するわけではなく患者はみな生まれつきのものである。

 おそらく遺伝子の突然変異によるものではないか。と言われている。

 特徴として透き通るような白い髪に白い肌、そして赤い瞳だ。

 この病気は世間に明るみになっていない。

 というのも無理はなく、アルバス患者というのはものすごく数が少ない。世界中で今現在確認されているアルバス患者の数は58人。

 しかしこの数はまったくもって信用できない。

 というのは、これがアルバスという病気の難点でもあるのだが、世界中でアルバス患者というのは迫害にあっているのだ。

 迫害というだけならまだいいものだ。

 アフリカのほうではアルバス患者の数が多いのだが(多いといってもわずかなのだが)見つかるとただちに殺されてしまう。

 アフリカを含む諸地域ではアルバス患者というのは不吉の象徴とされ、「白い悪魔」なんて呼ばれたりもしているらしい。

 さらに驚くべきことに不吉の象徴とされながらもアルバス患者の髪の毛や赤い瞳は邪を祓うお守りとして取引されている。

 アフリカを含む諸地域以外では見つかっても殺されることはないが、迫害は日本とアメリカを除くほとんどの国で行われている。

 口にするだけでも恐ろしい話だと思う。

 より恐ろしいことに迫害の動きは近年になってより拡大され始めていて、ひそかにアルバス患者を滅亡させようという動きまであるという噂をきいた。

 まったくアルバス患者には何の罪もないというのに。

 俺は日本人が生まれて本当によかったと思う。

 見た目以外の特徴がないのなら髪の毛は染めてカラコンをいれれば隠せそうなものだがそういうわけにもいかない。

 今の技術で作られている毛染めではアルバス患者の髪を染めることはできないのだ。俺は染めようとしたことがないので知らないのだが毛染めがまったくしみこまず完璧にはじかれるらしい。

 目のほうはというとどんなに濃い色のカラーコンタクトをつけても瞳の赤を消すことができないらしい。どうも瞳が異常を感じると強く発色するらしい。

 しかも肌はどんなに日差しを受けても焼けないと来た。

 つまりは現代の技術ではどんな方法でもアルバス患者であることを隠すことはできないのだ。


 気づくと時刻は六時を回っていた。

 「もうこんな時間かー」

 「そろそろ帰るか?」

 「そうしよっか」

 結局今日は演奏することなく帰ることにした。

 部室をあとにして学校の外へ出るとまだ九月の初めだからだろう、空はまだ明るさを保っていた。

 「それにしても奏は今日、災難だったわね」

 「あぁまったくだよ。もうああいったやつらとは関わりたくないもんだ」

 どうして俺がこんなにも研究者もどきに狙われるか。その疑問には俺は薄々見当がついている。

 

 おそらく日本人のアルバス患者というのは俺“一人”なのだろう。


 確認したわけではないから決まったわけではないがここまで俺に研究者もどきどもが集まるのはそういうことなのだろう。

 隠れて生きているやつはもしかしたらいるのかもしれないが、表立っているのは俺だけなのだろうな。

 「なぁなぁ!明日、新作のゲーム買いに行こうぜ!」

 こういう時に陽一の明るさは心の支えになってくれているような気がする。

空気が読めない、そう言ってしまえばそれまでだが俺は陽一との短い付き合いの中で何度かこの明るさに救われていると思う。

 「あんたは少しは空気ってものを読みなさいよ!」

 「ぐぉっ!?」

 123…カンカンカン!!KO!なんてカウントが聞こえてきそうだ。

 これまた鋭いアッパーが陽一の顎を打ち抜いた。

 「まぁまぁいいんじゃないか?」

 「ちょっと奏…」

 「行くか?そういや久々じゃないか?休日に三人で出かけるの」

 「二週間くらい前にいったじゃない」

 「まぁいいじゃないか」

 「行こうぜ!!」

 「わかったわよ」

正直なところ俺はこの髪の色と瞳の色を気に入っている。

だってかっこいいではないか!

高校一年生の俺には白髪に赤い目なんてかっこいいと思うには十分すぎる特徴だった。

それに今、俺はこの髪を持っていてもなんの苦労もない。

分かり合える仲間がいて、迫害を受けることもなく平和に過ごしている。

いつまでもこの平和が続いて欲しい…。

俺は心からそう思う。

 明日は一層楽しい日常が待っている気がする。

 

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