序文
その翼は、輝かしく煌めき、空を美しく被うだろう。彩る羽の一枚一枚には、願いが込められているはずだ。大気を震わす躍動は、逆らいがたい圧力を生む事易し。
絶世の美貌を持つ、その姿は我々を平伏し、忠誠を誓わせる事この上ない。頭上に在る真円は畏怖と権威の象徴として、眼に焼き付くものと成す。
讃えねばなるまい。
崇めねばなるまい。
従わねばなるまい。
想わねばなるまい。
この大地と空に降り立ちし、彼女の存在を認める行いこそが、生命における最大限の救いとなるのだ。
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この世は三界で出来ている。
天界……またの名を聖界と呼ぶ。
白く清らかな羽と、光り輝く輪を持つ生き物が飛び交う場所。
迷いを持ちたもの達に明るき道を指し示す聖なる存在が住まう場所。
聖王、もしくは聖界王と呼ばれし者によって導かれ幸福を得られる世界。
覇界……現在は人界とも呼ばれる世界。
様々な生物が生まれては消えていく最も混沌とした場所。決まった概念やしきたりは無く、その時代の統治者で変わっていく。
変化についていける者達が生き残れる厳しい世界。
魔界……またの名を地界と言う。
強力な力を持った種族が粛々と生きる場所。
いざというときの結束は固く、戦時における強さは尋常ではない。
魔王、もしくは魔界王と呼ばれる者が頂点に立つ。
普段は意外にほのぼのとしている。
三界はお互いに干渉せず、各世界に住まう者らの中には、他の世界の存在すら知らないという事すらある。
この三界の拮抗を上手く保つのが、各世界の王の責務である。不可侵を常とし、各々の世界で歴史を紡いでいくのが、この世のルールだ。
そして、それはこの世における神の意志でもある。
さて、この物語はそうした世界に産まれた一つの存在から始まるものだ。
起こるはずのない事が起きてしまったところから始まるものだ。
それは面白いのかもしれないし、つまらないかもしれない。ハートフルでもあるし、ハードでもある。おどろおどろしく、奇っ怪で、ひどく真面目である。愛に満ち、友情に溢れ、希望に向かって進み、変なオチがつく。何よりもコメディだ。
覗いてみてほしい。
きっと、暇潰しにはなるのだから……