第四十九話 波長の合う二人
「お腹空いたけど…。作るの面倒になっちゃったね。」
「ん…。」
散々泣いたハルカは食事を作る気力を失い、珍しくたくさん言葉を話したタイキも同様に疲れてしまっていた。ソファに座ったタイキの股の間にハルカが座る形で二人でだれた時間を過ごす。男女だというのにこの距離感ではあるがお互いに気にした様子はなく、すっかり気を許しあっていた。
「今日は…さぼ、る?」
「さぼったらごはん抜きー?」
「…それは…俺が、無理…。……パンと…ごった煮で…お酒も、開けよう。」
「じゃあ準備しよっかぁ。」
「…俺やる…休んでて。」
タイキはハルカの体を楽々と持ち上げて自分の膝から隣に退かしてやる。疲れたという気持ちはあるが、たった一食と言えど食事を抜くのは耐えられないため立ち上がって動いた。休んでいてと一人放置されても納得しないハルカはちょこちょことタイキのあとについて行く。
「私もやる。」
「…ん。」
動きたいと言うのなら無理に休ませる必要もないために、タイキは余計なことは言わず静かに頷く。重い石を退けて床下からニンニクと色々なキノコを取り出していく。手持ちぶさたなハルカは取り出されたそれをシンクへと運んだ。
「何作るの?」
「オイルで…キノコと、ニンニクと、魚……煮る。」
「アヒージョ!」
「アヒージョ…?」
思い当たる料理名を口にしたはいいが、どうやらタイキにはその気はないらしい。不思議そうにしてオイルを取り出し寸胴鍋の中に開けていく。それが終わると慣れたように竈に火を焚いて弱めを保たせる。細かいことを話すとぼろが出そうなためハルカも黙ってキノコを洗っていた。
洗われたキノコはタイキの豪快な包丁捌きでぶつ切りにされていく。大きさはかなり大きく顔より少し小さいくらいに刻まれた。にんにくだけはやや細か目に切られ一番先に鍋に放り込まれる。あとはキノコが入り、弱火でことことと煮込まれる。その間に処理をすべきは釣ってきた魚だ。鱗を削ぎ内蔵を取り出して洗われ、適当に三枚に下ろしてから力任せに切る。ハルカは真似のできない料理法を見ながらオイルの中に塩を落として味の調節を計る。
「あと、パンと…お酒で……済ます。」
「うん!美味しそうだね!」
「……最後に、とうがらし……入れても、いい?」
「いいよー。でもあんまりたくさんだと辛くて食べれない…。」
「…ん。」
煮込まれてきた頃に魚を加え、乾燥唐辛子を入れて待てば完成だ。寸胴鍋から普通の鍋に盛り付けてリビングへと運び、皿やグラスを用意して食べる支度を整える。シェリー酒をテーブルの真ん中に置き、パンのスライスを終える頃にはオイルもいい感じに具材に染みていた。
「さぼったとは思えない良い匂い…。」
「…ん。」
二人で並んでソファに座り手を合わせる。グラスに酒を注ぐとカチンと音を立てて合わせ食事を始めた。キノコにはオイルが染みておりにんにくの香りと唐辛子の辛味が食欲を掻き立てる。口に含んだままぱさついたパンを頬張ると具材からしみでる油と絡んでこれまた美味しい。まずは夢中になって二人とも食べることに専念する。
「美味しいー!釣ったと思うと魚も格別だね!」
「ん…。」
特別会話を楽しむわけではなく思ったままに話しては食事に集中する、食い意地が張っている二人ならではだ。底無しのタイキはその時間が長いが少しするとハルカの方は落ち着いた。酒に手を伸ばしてアルコール度数の高いワインを楽しむ。
「これもユウくんのお酒?」
「うん。…ユウの酒が…一番、美味しい…。」
「確かにこれもすごく美味しい!」
タイキの食べ方も豪快なら飲み方も豪快であり、最初のうちは酒もまるで水のようだ。一気に飲み干してはまた注ぎ、喉が乾くと同じように一気に飲む。体が大きいせいもあり人よりも酒は回りにくかった。
「ふわ…今日はくたくただなぁ…。」
「ベッド…大きい、から……一緒に、寝る…?」
「うん、一緒に寝るー。」
酒を飲みながら欠伸をしたハルカに、タイキが気が付き声を掛ける。前も雑魚寝をしていたぐらいなので今更同じ床を共にするのに抵抗はなく、当たり前のように持ち掛けハルカもそれに頷いた。泊まりも頻繁に行われることも加味して、小人は異性に対しての壁が薄いのだとハルカには受け止められた。
「そだ、タイちゃん、タイちゃんのその銀色の髪の毛って地毛だよね?」
「ん。」
「黒髪の人って居ないのかな?」
「俺、は…ハルカしか……見たこと、ない。」
「やっぱりみんなカラフルなんだ…。いいなぁ、綺麗で。」
「黒…いい。珍しくて…艶、ある。」
「えへへ…。照れるよー。」
ようやく食事の手も緩やかになってきて他愛もない会話を楽しむ。鍋の中のオイル煮がなくなる頃には二人ともすっかり満足しており、酒と昼間の疲れから眠気を覚えていた。片付けもそこそこに二人で洗面台を使い、並んで歯を磨きタイキの体格に合わせたハルカにとってキングサイズとも言えそうなベッドに入る。
「おやすみ、タイちゃん…。」
「ん、おやすみ…。」
共にベッドに入ろうと何か間違いが起こるはずもなく、二人の一日は幕を閉じた。