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こびとのせかい  作者: 豊田小麦
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第四十一話 仕事


 ハルカは朝から緊張していた。朝食もたいして腹に入らず仕事のことばかりが脳内を過る。怖い先輩も嫌味なおじさんも居ないだろうが慣れた小人以外と接するのは勇気がいる。自分は小人らしく振る舞えているだろうか、変なことをしでかしてダータおばあちゃんを困らせてしまわないだろうか。ぐるぐると嫌な思考ばかりが脳内を巡る。


「ハルカ、迎エニ来タ。」

「イトナ!おはよー、今日はよろしくね。」

「オウ!」

「でも本当に報酬ジャムでいいの?」

「オウ、オレ、現品ノ方ガ嬉シイ。」


 昨晩帰ってきてから家の前に青色の張り紙を出し、初めてエスペサリを使いイトナを呼び出してみていた。そして夜のうちに今日訪ねてもらう約束を交わしていたのだ。何度確認しようと現金より品物を欲しがるのに首を傾げながらも本人の言うことを飲む。


「準備、デキテルカ?」

「出来てる!行こ!」


 森の中をガサガサと音を立てて進むととても会話どころではない。しばらくは仕事に対して緊張しながら進む。森を抜け道が開ければイトナと話して何とか気をまぎらわすことができた。

 街に着くとハルカはイトナと一度別れる。ハルカが帰るとなるまでイトナは久々に街を回ろうと姿を消した。


「頑張らないと!」


 初めて小人の世界で働くのに不安な気持ちで一杯だ。しかし、やる気がなくては何もできないと自分を鼓舞して三度目の『grandma JAM』を目指して歩き出す。祭日とだけあって周りが賑やかであり少し気になるものもある。しかし目的地までは寄り道をせずに進んだ。


「おはようございまーす!」

「うふふ、おはようハルカちゃん。今日は頑張りましょうねぇ。」

「ハイ!」

「まずは商品を並べたいのだけど裏へ来てもらえるかしらぁ?」


 ダータのあとについて初めて店の裏に入る。大きな竈に寸胴鍋、たくさんの砂糖や広いシンクなどジャム作りに必要な施設が整えられていた。店の外見とは裏腹にここだけはきちんと掃除されている。


「ダータおばあちゃんは座っててください!ここにあるの並べればいいんですよね?」

「ありがとうねぇ。そっちのは並べて…こっちのは寝かせると味がよくなるからまだなのよぉ。」


 ダータの指示を仰いでせっせと自分の顔の大きさほどの瓶に詰められたジャムを運ぶ。赤色のストロベリーの隣にはオレンジ、橙色のオレンジの隣には黄色のレモンと色を意識して並べた。ダータが微笑みながら見守ってくれるのがくすぐったく感じる。


「綺麗に並んだわねぇ。素敵だわぁ。」

「えへへ…次は何したらいいですか?」

「次は値札を並べてほしいのよぉ。ここらへんは100テナねぇ…。梨は200にしてちょうだい。あと…この日向夏だけ300にしてもらえるかしらぁ?ロゼットちゃんが遠出したときのおみやげにもらったから作ってみたんだけど…調理大変だったのよぉ。」

「でも、日向夏…甘酸っぱくて美味しそうですね!」


 ダータのジャムの味を知るハルカはどれを見ても美味しそうで目がうっとりと細められる。味もさることながらきらきらと輝く色も美しいのだ。見た目だけでその中身が保証されていることがわかる。それを売れるとなれば少し誇らしい気持ちになってきた。


「あとは…おつりはここにあるからねぇ。売れたら帳簿をつけてちょうだい。…あら、そういえば文字はダメだったわよねぇ…。」

「あのっ!文章じゃなくて単語程度なら!いくつかならすぐに覚えます!」

「本当に?無理しちゃダメよぉ?」

「大丈夫です!いつも厳しい先生から習っているので!」


 ダータに軽く単語を教わる。梨や日向夏などフルーツの単語を覚えるくらいならば簡単だった。在庫数という単語も覚え今ある数を数えて記入していく。


「あらぁ、頭がいいのねぇ。羨ましいわぁ。ここまでできれば何も問題ないわよぉ。」

「えへへ、ありがとうございます。」

「それじゃあ最後に、お店の扉にかけてある看板をオープンにしてもらえるかしらぁ?」

「はいっ!」


 働き始めるまでは不安で一杯であったが、ダータが親切に教えてくれるので今はその不安も吹き飛んでいた。店の前の看板をオープンにしてカウンターに立つ。隣でダータがロッキングチェアに腰を掛け揺れているのを見ると、すごく幸せな気持ちになれた。

 店の看板をオープンにして少しすると店内は客で溢れた。ポポロイで一番人気のあるジャム屋なのだから無理はない。ダータが座ったままでハルカが会計をするのに、馴染みの客はダータへと話しかけ店内は混雑する。しかし、ハルカはコンビニで培ってきた力で列を整理し、素早い計算で待たせる時間を最小限に会計を済ませる。


「ありがとうございましたぁっ!」


 昼時間になると昼食をとりに行く人が多いのか店内も一段落した。久々に思いきり働いたハルカはくたくたになってしまった。カウンターに隠れるようにして置かれた椅子に一度腰を下ろす。


「お疲れ様ぁ、ハルカちゃん。すごい捌きかたねぇ。私が売るよりずっと早いわぁ。」

「本当ですか?よかったぁ!」

「今は一段落しているし、お昼食べてきていいわよぉ。」

「わかりました!行ってきます!なるべく早く帰ってきますね!」

「いいわよぉ、ゆっくりでぇ。」


 お昼休憩をもらったハルカは店を出て初めて一人で街に繰り出した。



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