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こびとのせかい  作者: 豊田小麦
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第三十八話 望んだ来客


「はぁ…ロゼットー!暇だよー!帰ってきてー!」


 家の中に一人きりでいるのが本当に暇だった。毎日生きることに必死ではあるがやることを終えて家にいると本当にすることがない。勉強も進めるが一人では限界がある。


 コンコン


 突如来客を告げるノックが響く。急いでベッドから飛び降り扉に近づいた。しかし、そのまま開きはしない。夜なのもあるが前回確認もせずに開けて町長が立っていたことが尾を引いていた。少し緊張ぎみに声を出す。


「どちら様ですか?」

「俺…ゴルドムの、タイキ。」

「タイちゃん!」


 思いもしなかった来客に喜んで扉を開く。目の前は下腹部だが高く見上げればあの穏やかな顔があった。退屈していたところなので生き生きとして室内に引き入れ、所々汚れている様子にタオルを渡して洗面台へと導く。


「ありがと…すっきり、した。」

「タイちゃんお仕事だったの?」

「…うん。」

「何か作ってきたの!?脱水機みたいなすごいの!」

「今日は…。水道管の…点検。」

「そっかぁ!タイちゃんのおかげでいつもお水が使えるんだねぇ。」

「俺だけ、じゃない。……組合、の…力。」


 話を聞きながら仕事終わりのタイキのためにお茶を用意する。竈が使えないためまだ定番の水出し茶だ。来客用のカップに注ぎ入れて自分の分と一緒に運ぶ。


「はい、タイちゃん。今日も一日お疲れ様でした。」

「ありがと…。ご飯、食べた?」

「んーん、まだ。」


 マグカップ同士をカチンと合わせて乾杯をしたあと、各自ゴクゴクと飲み物を飲んでいく。ハルカには大きいマグカップもタイキが持つと子供のおもちゃのようだ。

 タイキからの質問に答える。時間をもて余しながらそろそろ夕食にしようかと考えていたときに彼が来たのだ。いつも似たような食事でなかなかとる気が起きないのも夕飯時間が遅い原因の一つとなっている。


「…俺…作る。」

「作、れる、の!?」


 ハルカは正直、タイキが料理をできるとは思っていなかった。何となくで食べる専門だと思い込んでしまっていたのだ。驚きつつ尋ねるとタイキの頷きが返ってくる。


「お願いしてもいいの?」


 またもこくりとタイキが頷く。ハルカはキッチンへと向かうタイキについていき、食材をしまっている床下の説明する。初めて竈を使うところを見るため興味津々に少しだけ離れた場所で体育座りをし、今か今かとその時を待った。


「食材は好きにつかってね。」

「…ん。」


 薪をくべる量は風呂よりも少ない。三口の中の一口はお釜専用ですでにはまっている。しかし今日は使う予定がないのかそちら側には薪が敷かれず、二口分で点火された。火の付け方は風呂の時と同じくマッチだ。

 片方のコンロには半分以下くらいの水を入れた大鍋を置き火に掛ける。その間タイキは床下から食材を取り出す。メジロの卵と数種類の野菜、それに茸と塩漬け肉だ。ハルカの顔より大きいメジロの卵を割りボウルにいれて豪快に混ぜる。野菜を切るのが面倒で買ったままの状態から力任せに千切るという真似の難しい調理の仕方だった。


「男の料理、って感じだ…。」


 ハルカが素直な感想を口にしている間にもどんどん調理は進んでいく。溶いた卵の中に千切られた野菜と茸がいれてもう一度かき混ぜられる。先程火にかけた大鍋に湯が沸くと卵にいれなかった残りの野菜を全てぶちこむ。塩と胡椒で両方に味をつけ、大鍋の方は最後にミニトマトを丸々1個放り込んだ。卵は熱してから油を引いた中華鍋に一回で注ぎ込まれる。あとは焼かれて巨大オムレツへと姿を変えた。


「わっ!すごい!大きなオムレツ!」

「…運べる?」

「うん!」


 家にある皿の中で一番大きなものにのせられたそれをテーブルへと運ぶ。大きな卵だっただけあり重いが食べるのが楽しみで嫌な重さではない。

 大鍋のトマトはぐちゃぐちゃに潰され水分をだしきり立派なトマトスープへと姿を変えていた。仕上げに塩漬け肉をいれ一煮立ちさせれば完成だ。器に盛り付けて運び、床下のパンを食卓へとあげて夕飯の支度は終わった。料理を得意としないハルカからしてみれば驚異のスピードだった。


「…食べ、よ。」

「うんっ!タイちゃん作るの早いし、すごいね!」

「ありがと…。いただきます。」

「いただきます!」


 取り分けるなどという面倒なことはせず、二人で一つのオムレツをつついて食べる。中には茸や野菜が入っているふわふわのオムレツにハルカの顔が緩む。外食もいいがやはり家で食べる家庭的なご飯は格別だ。


「おいしーい!」

「…よかっ、た。」


 出来立て温かな料理を求めていたハルカは箸が進む。しかしタイキも負けてはいない、大きな体を保つためにはたくさんの栄養が必要なのだ。よく食べ、よく飲む。


「スープも美味しい!トマト甘いね。」

「ん。」


 初対面の時が嘘のような仲の良さだ。タイキは無口な方だがハルカが喋るので問題はない。二人で和やかな時間を過ごす。すっかり食卓の上が片付きスープが残り少なくなる頃にはいい時間になっていた。


「そろそろ…帰る。」

「帰っちゃうの?泊まっていけばいいのに…。」

「…荷物、ないから。……今度は、俺の家…案内する。」

「本当!?タイちゃんの家だけ知らないから楽しみだなー。」

「うん……おやすみ。」


 タイキはぽんぽんとハルカの頭を撫で次の約束をし、少しでも寂しさが紛れるようにして帰路についた。残されたハルカは満ち足りており片付けに精を出してその日を終えた。


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