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こびとのせかい  作者: 豊田小麦
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第三十一話 一人

「行ってらっしゃい…!」

「行ってきます。留守番よろしくね、ハルカ。」

「うんっ…ちゃんと待ってるね!」


 朝から二人で荷車に荷物を積み込み、昼前にはチチィも合流を済ませとうとう出発の時を迎えた。なるべく笑顔を作ってはいるがハルカの声は不安に震えている。ロゼットにもその様子に心配が募り眉を下げた笑顔で答えた。それでも出発しないわけにはいかずお互いに大きく手を振り初めての別れを経験した。ハルカはロゼットの背中が見えなくなるまで外にいたが姿が消えればすぐに屋内へと入る。


「うぅっ…ロゼットぉ…。こんな一人でどうすればいいの…。」


 室内で一人ぼやいてみても呟きは壁に吸い込まれて消えるだけだ。余計に寂しくなってぐすぐすと鼻を鳴らす。そろそろ昼食の時間になろうかというところだが一人で食事をとる気も起きずごろごろと横になってひたすら無駄な時間を過ごした。

 日が傾く頃になってもただ一人きりロゼットの匂いが残る布団の上で動こうとしない。まるっきり駄目な小人の見本状態だ。

 夜になってようやく風呂でも焚こうかと立ち上がる。敷きっぱなしにしていた布団をしまい、顔を洗って気合いを注入してみる。すると少しだけ気持ちが晴れて動く気力が湧いてきた。


「よしっ、と…。あー…ちゃんと掃除できれば舞わないのね…。」


 一人で風呂を沸かしてみる。いつも炭が舞い上がるのは中の掃除が不十分だったのだとやってみて初めてわかった。水が湯に変わるまで浴槽の中に手を突っ込み不貞腐れながら掻き回す。浴槽の縁に体重をかけてやる気のない格好で再び無駄な時間を過ごし始めた。


「今なら来客がリオンでも歓迎できる…。」


 ロゼットが居なくなってしまったことで本当に自分を見失ってしまっていた。あれほどに嫌っているリオンにも心を開きそうになっているくらいだ。ぼんやりと水面を眺めていると自分の顔が映る。前よりも少し前髪が伸びてきたようだ。一房つまんで本当にこの世界で肉体的にも変化が起き、時が流れているのだと実感する。今までの自分を思い返し、物思いに耽り始めた。


「これじゃだめだ!」


 そこでもっと必死に生きてきたはずなのにすっかり環境に甘えきっている自分に気がついた。このまま過ごしていても一年後に町長から認めてもらえるとは思えない。それはすなわちロゼットにも迷惑をかけることになるのだと思い直し、バチンッと音をたてて自分の頬を強く叩く。赤くなってしまったが十分に気合いは入った。


「よし、勉強しよ!」


 浴槽の中から手を抜いてリビングへと走る。すぐに勉強道具を用意してリオンから書いてもらった見本を元に宿題を進めていく。何かに集中していると大切な人がいなくなり一人きりであるという事実から目をそらすことが出来た。

 ふと自分の腹から空腹を知らせる音が鳴る。昼飯も食べず夜も更けてきたのだから無理はない。一度勉強する手を止め食事をとろうかと考えるも沸かした風呂が冷めるのが嫌でそちらを優先する。



──────────────



「はぁ…。いい湯だった…。」


 殆ど何もしていない一日でも風呂に入るとすべての疲れが飛んでいったかのような心地になる。 しかし脱力感が凄まじく食事の気分では無くなってしまった。髪の毛を乾かすと歯を磨いてランタンを消しベッドへと入る。


「おやすみなさい…。」


 この場にはいないロゼットを思いながら寝る前の挨拶を呟き初めて完全に一人での眠りに就いた。

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