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こびとのせかい  作者: 豊田小麦
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第二十五話 成長


「歓迎会?」

「そ、開いてやろうぜ。ロゼと一緒だとしても森に住むんだろ?」

「うん、住むというか住んでるというか…。」

「リオンの機嫌をとるには酒が一番だろうしタイちゃんも最近飯食いに来てないしな。みんな集めようぜ。」

「ありがとう、きっとハルカさん喜ぶよ!」


 今日ロゼットはユウのところに酒を仕入れにきていた。ここにはハルカを連れてきても良いのだが留守番の練習ということで置いてきたのだ。丁度いいと言わんばかりにユウがハルカの歓迎会を提案する。だてに嫁にしたい男No.1と言われているわけではない。


「リオンさん来てくれるかなぁ…。」

「うまい酒で何とか釣りたいよな…。」

「でも家でるの嫌いだからなぁ。」

「だから生っ白いのにな。」


 二人で楽しそうに笑う。普段リオンからひどい仕打ちを受けているため、たまにはこういうこともあるのだ。開くと決めれば善は急げだ。伝達役は移動に慣れたロゼットが買って出る。


「日は明後日の…そうだな、陽の沈む頃に。」

「うん、わかった。泊まりで良いんだよね?」

「あぁ、用意しとく。」



──────────────



「リオンさん、明後日ユウの家でハルカさんの歓迎会開こうよ。」

「嫌だよ、面倒臭い。」

「泊まりがけで飲み放題、食べ放題だよ。」


 リオンの表情が険しいものとなる。歓迎する気もなく家から出たくない彼にとって、そのような会に魅力はない。しかし会自体より美味い料理と美味い酒が誘惑をする。泊まりがけならば飲んだあと帰る手間もない、一考の余地はある。玄関先で顎に手を当て軽く俯き利害を考える。


「わかった、参加するよ。歓迎する気は一切無いけどね。」

「居てくれることが大切なんだよ。ありがとう、リオンさん。」


 リオンとの約束を取り付けてしまえば怖いものはない。タイキに断る理由はなく明後日の歓迎会開催が決定した。



──────────────



「本当!?ありがとう、ロゼット!すごい嬉しい!」

「うん。でもユウの発案なんだ。」

「さすがの嫁系男子…。」


 二人で夕飯を食べながら談笑する。今日の留守番はうまくいったために二人の雰囲気は和やかだ。ハルカは歓迎会が嬉しいのはもちろんのこと、初対面ではあまり話せなかったタイキに会うのやユウの食事が楽しみなのである。自然と口元が緩む。


「リオンも来るのー?」

「うん、来るよ。」

「あの人絶対私のこと歓迎する気ないよー…。たまにゴミを見るような目で私を見てくるもん。」

「歓迎会参加してくれるってことは多少なりともその気があるんじゃないかな。……多分。」


 正直なところロゼットもリオンに万全の信頼をおくことはできなかった。それはそうだ、彼はあまりにも嫌そうな顔で話していた。それでも結果論として語りハルカを慰める。


「ロゼットは優しいなぁ…。リオンに爪の垢を煎じて飲ませたいよ…。」

「ふふ、小人も十人十色だよ。…ハルカさん、リオン先生って呼ばないと怒られるんじゃないの?」

「本人の前ではそう呼ぶよ。でもうちではこれでいいの。ロゼット、内緒にしてね?」

「わかったよ。」


 彼女の性格を考慮し、敵意のある人間にへりくだるのが悔しいのだろうと察する。ロゼットは呆れたように笑って素直に頷いた。そんな中ふと玄関の扉が叩かれた。コンコンと透き通る木の音が響く。


「はーい、どなたですか?」

「俺ダゼ、チチィダ。」

「チチィ!またお願いなんて言っておいて連絡もしないでごめん。あがってよ。」


 扉を開けて相棒であるカブトムシのチチィを部屋へと迎え入れる。ハルカの表情が一気に曇るがそんなことは気にしていられない。


「ヨォ、久々ダナ、チンチクリン。」

「ハルカです!」

「改めましてハルカさん、俺の相棒、カブトムシのチチィだよ。」

「名前だけはかわいいんだね!」

「オイオイ、俺ノ名前ハカッコイイダロ?」


 ちんちくりんと呼称されるとハルカの機嫌はとたんに悪くなる。ここに来て一番気に入らない呼び方なのだ。むすっと唇を尖らせごはんを掻き込む。虫と対面しながらの食事を心地いいものとは思えずさっさと食べ終えて流し台へと食器を運んだ。


「ロゼット、ソロソロ働キニ出ネェノカ?」

「出たくはあるけど…ね。」

「俺ノ寿命ハ限界ガアルンダゼ。」

「そうだよね…。うん…そしたら四日後にトコラッツ方面に行かない?暫く行ってないし。」

「オゥ、アタタカイ場所ハ大歓迎ダゼ。」


 二人で商売をしにいく地方を話し合う。ハルカは暫く黙って聞いていたが気が気ではなかった。だんだんと顔色が青ざめていく。


「ロゼット、どこかに行っちゃうの?」

「あぁ、うん。そろそろ商売をしにいこうかなって。生活もあるしね。」

「私は…。」

「鍵渡すから好きにこの家使って留守番お願いね。」

「や、やだ!一人でここに居るの不安だよ!」


 まだこの世界に慣れきれていないハルカは、毎日を一緒に過ごしていた同居人が出掛けてしまうを認めることができない。隣に座って袖を掴む。


「大丈夫だよ、ユウとタイちゃんに様子見お願いするから。」

「でも…お風呂も焚けないし…ごはんだって…。」

「お風呂は明日教えるから。ごはんはこの前買ってきたのが尽きる前には帰ってくるよ。ね?」

「でも、やっぱり…一人は怖いよ…。」

「ハルカさん…。」

「オゥオゥ、何ダチンチクリン、ロゼットニハ甘々ナンダナ?」


 少しばかり目を潤ませ懇願する様を見てチチィが大袈裟に笑う。どうやら信頼関係を築きうまくやっている様子に安心するが、そのようなことをこの場で言葉に出したりはしない。自慢の角でハルカの肩辺りを軽く押してやる。


「やめてよっ!今真剣に話してるの!」

「ハルカ、生活スルタメニハ金ガ必要ナンダゼ?オマエハ稼ゲナインダカラ、セメテロゼットヲ困ラセズニ見送レヨ。」

「でも…。」

「デモモダッテモ無シダ。オマエハオマエノ出来ルコトヲ全力デヤルンダヨ。例エソレガ留守番デモダ。」


 カブトムシに説教をされる日が来ようとは。ハルカは夢にも思ってみなかったが正論を言われては口を閉じるしかない。チチィに視線を向けて初めてきちんと向かい合う。


「うん、ごめん、頑張る…。」

「オゥ、俺ノ仲間ニモ見張リ頼ンドイテヤルヨ。」


 今まで一人で頑張っていたはずだがここに来てからはロゼットに頼りきりになっていた自分を恥じる。チチィの言葉に頷いて掴んでいたロゼットの服から手を離した。


「ごめんね、ハルカさん。連れていきたいけど旅は留守番よりよっぽど危険なんだ。」

「うん、ちゃんと家で待ってるから…。だからちゃんと帰ってきてね。」

「もちろんだよ、約束する。」

「ンジャ、予定モ決マッタコトダシ失礼スルゼ。子供タチヲ待タセテルカラナ。」

「あ、あの!」


 チチィが歩きだし扉に近づいたところでハルカが声をあげる。初めて自分から虫へと距離を縮めていく。握手のつもりできゅっと軽く角を掴んだ。


「ありがと、チチィ。ロゼットをよろしくね。」

「任セロ。オマエモ頑張レヨ。」


 少しずつだが成長をしていく。一歩一歩の速度は遅くても着実に前へと進んでいた。

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