第二十話 意外
「今日も充実してたなぁ。」
「そうだね。先生も二人できたしね。」
「うん!…でもそれで思い出したよ、宿題しないと…。」
「あー…やっとかないと明日が怖いねぇ。」
家に帰ってきたハルカは早速鞄を開き、紙を取り出して勉強を始める。その間ロゼットは風呂を焚く。だんだんと慣れてきて今では支度をするときは下着一枚と決まっていた。上達せず服を丸々汚してしまうからだ。悲しい学習に溜め息を吐く。
「ねぇ、ロゼット。このエスペサリって…え!?すごっ!」
ハルカは質問したいことがあり掃除中の浴室を覗く。すると下着一枚で火を弄るロゼットと対面した。ロゼットの体はかなり鍛えられていた。腹筋が割れ胸筋が育ちがちがちに引き締まる体から目が離せない。思わず本音が口から出る。
「わあぁ!ちょ、し、閉めて!」
「え、うん、ごめんね?」
ハルカが動揺するよりロゼットが慌てる。その顔は真っ赤で心なしか両手で体を隠している。言われた通りに扉を閉め、今は間が悪そうなので元の場所に戻る。
「エスペサリってどういうときに使うのかな…。」
聞けなかった質問に頭を悩ませながらひたすら複写する。小文字を覚えているかも兼ねて一人テストを行い、丸付けをする。勉強に没頭していると暫くして気まずそうにロゼットが戻ってきた。
「ハルカさん、人がいるときに浴室を開くときはノックしないとダメだよ。」
「ごめんね、次から気を付ける。…ロゼットって脱いだらすごいタイプなんだね。」
「や、やめてよぉ!」
ロゼットは未だに顔を赤くしながら言い聞かせる。そこらへんの乙女よりよっぽど乙女な反応だ。むしろハルカの方が気にしておらず率直な感想を告げた。再び真っ赤になる顔を楽しそうに笑う。
「あ、そうだ。ロゼット、このエスペサリってどういうときに使うの?」
「例えば店の名前とか、メッセージカードの宛名とか、そういうときだよ。」
「そういう特別ね、ありがと!」
問題が解決して再び鉛筆が紙の上を走る。早くも大体覚えている様子にロゼットは驚きを隠せない。彼は文字を覚えるのに幼少期苦労した質だ。隣に腰を掛けて勉強する様子をじっと眺める。
「…どしたの?ロゼット?」
「ううん、頑張るなぁって。邪魔しないようにお風呂入ってこようかな。先いい?」
「もちろん!」
ロゼットが入浴している間もひたすら勉強を続ける。一本のロウソクが消える頃96個の文字を完璧に覚えた。しかしそれだけで満足はしない、より綺麗な字が書けるように努力する。
「よし!」
ロゼットも入浴を終え戻ってきた頃に満足のいく字に辿り着く。すっかり真っ黒くなってしまった手を洗い、ベッドへと横たわる。森の行き来に疲れた体は一度寝転ぶと起き上がれない。明日も楽しい一日を願いながら自然と眠りについた。