第十四話 買い物
「見て!これすっごいかわいい!…あ、こっちのも良いなぁ!」
「うん…、そうだね。」
「800テナかぁ…。」
「…数字は読めるんだね。」
ロゼットは参っていた。自分の誘導で女性物の服の専門店に来たはいいが、場違い感がすごいのだ。どこを見ても女性ばかりで図体のでかい男などいない。心なしか視線も気になる。しかし、常識に欠けるハルカを一人店内に置いていくわけにはいかなかった。
「ロゼットはどんなのが好み?」
「え!?ふ、ふわふわしたやつ、かな?」
女物の服の知識などはない、それこそ答えがふわふわしてしまう。気まずそうに頬を掻き明後日の方向を見ながら返す。
「じゃあこれと、これと、これ!靴はこれが履きやすかったなぁ…ねぇ、ロゼット」
「何?」
ハルカはある程度絞っていた候補の中から買うものを決める。そこまでは良かったがまだ全てが解決したわけではなかった。内緒話がしたくロゼットに屈んでもらい耳打ちする。
「下着って、どうなってるの?」
「!?」
ロゼットは一般的な男女の会話ではないその質問に真っ赤になってしまう。それでも常識のない彼女のためには答えないわけにはいかない。下着のコーナーに行き商品に目を向けないようにしながら必死に答える。
「ドロワーズタイプが、一般的だよ。仕事によってはなんか別なのつけることも、ある、みたい…?」
「わかった!じゃあこのセットのでいいや。上は?」
「う、上?」
「その…胸を隠したり…。」
「薄いランニングタイプのシャツ、かな?」
ハルカが言いたかったのはブラジャーなのだが売り場を見る限りそういったものはない。どうやらこの世界では存在しないか、一般的に普及しているものではないらしい。ならば下同様上も安いセットで済ませる。
普段着を三着と下着を上下五枚ずつ、更には靴と靴下を数枚購入し、3600テナを支払う。ハルカが元いた場所とは貨幣価値が違うため、彼女は得をした気分になる。本来の世界ならこれだけの量を買えば、この金額を円で支払っても足りなかったはずだ。
「じゃ、裏で着替えさせてもらってくる!」
「なら俺、店の前で待ってるね。」
ロゼットはようやく店の外に出ることができてホッと一息吐く。朝食も食べずに出てきたハルカを思い次は昼食にしようとぼんやりと考える。おすすめの店はたくさんある、紹介したい人もたくさんいる。何から手をつけて良いのか解らないくらいだが、頭の中で優先順位を組み立てていく。
「お待たせ!」
ハルカが姿を現した。先程までの不格好な姿ではなく、首元に花の装飾が施されたバルーンタイプのワンピースを着ている。袖口が膨らんだ長袖とちらちら見えるドロワーズが可愛らしい。
「あの、凄く可愛いよ!」
「ほんとに!?ありがとう!」
二人でにこにこと笑いながら歩く。最初は途切れることが多かった会話も今ではかなり馴染んできた。途中荷物の重さにハルカが疲れるとロゼットがそれを持ってやり、おすすめの食堂へと入っていった。