第十三話 ポポロイの街
「ハルカさん、ハルカさん。」
「うぅー…ん。」
「ハルカさん、そろそろ起きて?」
「うぐ…おふぁよロゼット…。」
昨日は二人で酒を飲みロゼットが先に潰れた。ハルカも彼をベッドに運ぼうと努力はしたのだが体格が違いすぎるため無理だった。せめて毛布だけでもと掛けてやって、自分はベッドで寝た。きちんと覚えてはいるのだが思い出しづらい。初めて、酒を飲んだ次の日というものを体験する。
「ハルカさんてけっこう寝坊助だよね。」
「時計もないし好きなだけ寝れるんだもんそうなるよー。」
「ダメだよー、そんな生活は。今日は祭日だし、服を買いに街に行くよ。」
服を買いに街に行く、それは年頃の女子であるハルカには凄く魅力的な言葉であった。散々布団にすがり付いていたがパッと起き上がってみせる。
「祭日って何かのお祝い?」
「ううん、祭日は7の倍数の日で街の全てのお店が開く日だよ。今日は7日だからね。」
「そっかぁ。」
完全には理解できなかったがロゼットが言うからにはそうなのだろう、日曜日みたいなものかと自分を納得させ立ち上がる。少し立ち眩みをしたが長くは続かなかった。
「服は現地調達して着替えるとして…靴は大きさが合わないよねぇ。」
「それも現地調達じゃダメなの?」
「そこに行くまでに動物に乗るからさ。色々堪えられないときつくて…俺に任せてもらっても平気?」
「うん、ロゼットにお任せするよ。」
「だったら適当にひっかけていこうか。」
ハルカは顔を洗い歯磨きをし、軽く髪の毛を整えて身支度をする。ロゼットは彼女が起床する前にすべてを終えていたためヒマワリの種をかじるのみだ。太陽が完全に昇りきる前に支度を終えた二人が家を出る。するとそこには鞍をつけたウサギが一匹頓挫していた。
「わ!ウサギだ!おっきいもふもふ!」
自分の身の丈よりもだいぶ大きいウサギを初めて見たハルカは興奮を隠せない。すぐに駆け寄って横っ腹に抱き付きふわふわな毛に顔を埋める。
「おいおい、嬢ちゃん。照れるぜ。」
「喋った…!」
「そりゃ喋るよ。失礼だから退こうね。」
やたらといい声をしたウサギからロゼットはハルカを引き離す。そして鞍に足をかけ楽々と跨がった。簡単にやってのけは見せたが本当は慣れるまでは至難の技なのだ。手を差し伸べてやる。
「ほら、おいで。鞍に足をかけて、後は俺が引っ張るから。」
ロゼットの指示に従いハルカはウサギに跨がろうとする。しかし中々うまくはいかない、何度か挑戦してようやく腕を掴むことが出来抱き寄せられた。後ろに彼の体温を感じながらウサギは走り出す。
「ロゼットの旦那、いつの間に結婚したんでぃ?」
「結婚なんてしてないよ!ちょっと都合で一緒に暮らしてるだけ!」
二人は顔見知りだった。どうやらロゼットは顔が広いのだとハルカは感心する。しかし、その考えは上部だけで本当はもふもふのウサギに惚れ込んでいた。冬毛ではなくても自分を包み込む暖かさに感動を隠せない。
「ねぇ、ウサギさんはどうやって呼んだの?」
「家の玄関に赤い紙を張り出して、そこに報酬と来てほしいときの太陽の場所、あとは目的地を書き込んでおくんだ。彼らの手形があれば契約成立でその動物が来てくれるんだよ。」
「ウサギさん以外もいるの?」
「勿論!オコジョでもなんでも。ちなみに青い紙だと虫が来るんだよ。」
意外と整ったシステムにハルカは感動する。しかしそれも長くは続かず、突如ロゼットに頭を押さえ付けられた。わけもわからぬまま前傾姿勢となる。
「ここは枝が多いからこのままね!ごめんね!」
「わかった!」
背丈の低い草が密集する野原は小人たちにとって危険だ。顔や胴体を切ってしまわぬよう身を伏せる。抜けるまでは最大限上半身を屈めて身を守る。いくらウサギの移動速度が早いと言えど目的地まで30分はかかり、二人はげんなりと顔を歪めた。草花がなくなる頃には疲れはてて顔色も変化する。
「もうちょっとですぜぃ、ロゼットの旦那。」
「うん、ありがと…。」
ウサギの言う通りだった。数分もすると開けた土地に着く。そこは整備されていて他の小人に溢れ賑わう場所だった。入り口に立ちロゼットがウサギに報酬を渡したあと、店巡りが始まった。